こんな男ありえない!
「え?あれって本気じゃなかったんですか?」
クララさんが思いっきり顔を近づけてくる。
そんなに凄い事なのか?
「何が本気じゃないって?」
「さっきの水圧操作の事ですよ!!なんなんですか!?」
「そんな事言われましても……海王の力らしくて……」
「か、海王の力って、あの海王の力ですよね!?どうやって……」
クララさんはさらに顔を近づけてくるが、それ以上は俺が……ちょっと。
そんな事より、確かにポセイドンや神様の言う海王の力っぽいけど、どうやってって言われても。
てか、父親であるポセイドンは俺の事に関して何も言わなかったのか?
「どうやら、ポセイドン……さんに掛けられた魔法が少し効きすぎたみたいで……」
「そんな事が起きたのですか……?」
クララさんは呆気にとられたように固まってた。
何か小声で、「私は未だ弱水龍の力なのに……」とか言ってる気がしたが、その後一瞬で諦めたようになった。
「分かりました……。でも、何故、父さんが貴方の事を認めたのかが分かった気がします」
クララさんは俺にそう言い、元々俺とは向かいにされたクララさんの部屋に戻ろうとした。
よく分からないが、俺の予想だと、ポセイドンの子だからそれなりの力が無くてはいけなかった。
しかし、今はまだ修行中だったのだが、俺がそれよりも強かったからプライド的な物や好奇心的な物が騒いでしまった……ってところか。
そうだ……今止めとかないとフラグは立たないだろう。
「あの、クララさん。もし良かったら……いつか俺にクララさんの力も見せてください!」
クララさんはそれを聞き、ドアの前で立ち止まった。
「でも、私はまだちゃんと出来てないし……」
「俺は制御も出来ないんです。いつか、俺に力の使い方を教えて下さい。お願いします!」
見えてないだろうが、俺は頭を下げた。
てか、俺はいつからそんな女好きになったのだろうか……いや、元からか。
こう見えて俺は、前の世界でも女性に対しては優しかった。
蹴られても蹴り返さなかったし、罵声を浴びせられても口だけで反撃した。
俺は女性を傷つけたくは無かったのだ……優しいだろ?
でも、この性格のせいで一時期俺がマゾ系なのでは?という噂が身内に広まったのは今じゃ良い思い出だ。
「分かりました。約束ですよ」
俺が昔を懐かしんでいると、クララさんが返事をしてくれた。
「ありがとうございます!」
俺はまた例をしたまま、クララさんが部屋に入って行くのを見送った。
これでやっとフラグが建ったと言えるのだ。
しかし、この時建てたフラグが、あんなにも早く回収されるとは思いもしなかった。
……それは次の日の朝。
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いい目覚めだ。
昨日の晩、クララさんを見送った後は昨日で精神的にも肉体的にも疲れたので、ぐったりと眠っていた。
ここは深海だっていうのに朝や夜が分かる程日が差し込んで来ている……これも一種の魔法だろうか?
俺はドアを開けてポセイドンに昨日案内された食堂へと足を運ぶ。
ここが水中でもちゃんと美味しい香りが鼻腔をくすぐった気がする。
そして俺が食堂へと向かうと、結構多くの人とその中にポセイドンが居た。
ポセイドンは色んな人に声を掛けたり掛けられたりしてた。
ここの政治は地域密着型なのだろうか……俺はそう考えながらポセイドンの近くに寄る。
すると、多くの人が俺の事を見て目を丸くした。
まあ、無理も無いか、ここは王宮直営の大食堂で、すぐ隣には王宮がある訳で、そんな所から見ず知らずの人間が出て来たのだ。
驚かない訳が無い……が、そんなの気にしなくても大丈夫さ。
「ポセイドン!おはようございます!」
「おお!目覚めたか、カナタ」
そこに居た魚人からは『ポセイドン様!そのお方は一体!?』や『なぜ王族以外立ち入られぬ王宮から!?』などという声が多かった。
しかし、ポセイドンはそれに動じず、貫禄のあるオーラを放ちながら……
「静まれ!この者は儂の友人だ!安心せい!」
と、言った。
一瞬で辺りの民衆は静まり返り、『それならそうと、言って下さいよ〜!』みたいな空気になった。
やはり完全に地域密着型なんだな。
それにしても、正直、初めてポセイドンの王らしい一面を見た気がする。
でも、俺の感じたオーラは王どころではなく、神にまで達していた。
いや、実際に神だったな。
俺はその後、軽く朝食を執った後にポセイドンに呼び出された。
ていうか、この世界……というか国の食べ物は基本魚で、緑と言えば海藻位だった。
地上なら色々あるらしいが、水中でも問題無い物は少ないそうだ。
増してや此処程の水圧となると……ポセイドンも昨日言ってたが結構この国は不憫なのだそうだ。
でも、魚人とはあまり飢えとは縁が無いらしく、寿命も長いため、困る事も無いのだとか……全く、都合の良すぎる世界だな。
それで、呼び出された俺はポセイドンにさっきのお礼をした後、席に着いた。
ここは昨日も話した机だけの狭い部屋だった。
「それで、話とは何でしょうか?」
「おぅ、昨日はカナタを心配させない為にも敢えて話さなかったのじゃが、実は、クララはもう後が無いのじゃ」
「えっ!?し、死まで迫ってるのですか!?」
「いや、そうじゃないんじゃ。命は何の問題も無い」
俺は動揺のあまり大きな声と共に立ち上がってしまった。
だがそうじゃないと聞き、少し恥ずかしかったので不貞腐れたように座った……ってか、この方『実は』って言い過ぎじゃないですかね?
話しはそれたが、つまりは例の呪いのことだろう。
「少し前に仲の良い神の所の国にいる特級解析師に、呪いの事でクララを診てもらったのじゃが……」
「特級解析師?」
「まあそれは後で話そう、で、そいつが言うにはクララの呪いは後二ヶ月でこの世の全ての者に効果させるという事らしい……親として、そんな事認めたくないのじゃが……」
ポセイドンは昨日も聞いたようなセリフを言いながら、俯いていた。
きっと、何度も自分に言い聞かせていたのだろう、悲しい事に。
「というと、タイムリミットは『二ヶ月後』という事ですね?」
「ああ、その通りじゃ」
「もうゆっくりしてられないと?」
「ああ、申し訳ないが……」
ポセイドンは机に両手を置き頭を下げるが、俺としては別に問題は無い。
だが、俺としてはもっとこの世界についてちゃんと知ってから旅をしたかったからな。
「ポセイドン!頭を上げて!」
「いや、だがすまぬ!異世界人で何かと精神的にも大変な御主なのに……」
「いえいえ、全然!!寝れば忘れるタイプなんで!ていうか、そんなに時間が無いなら早く出発しちゃいましょう!!」
俺は彼是と慰めた。
何と言うか、他人に同情しやすい人情深き者なのだと思った。
また精神的に借りを作ってしまったのではないのだろうか……いや、だからこそクララさんを俺が助けることによってそれが返せるというものだ。
兎も角!俺は急がないといけない事が分かった。
「ポセイドン、俺はあなたへの恩を返したい。だから急ぎましょう、僕がクララさんを救ってやりますよ!」
「うぅう……ありがとな、カナタ。それでは旅立ちの準備を始めようぞ!」
俺は男らしく部屋を飛び出るポセイドンの後を追った。
将来はこんな男になりたいな……と何となく思った俺であった。
今回は進展があまりなかったですが、次からはガラッと変わって旅立ちです!
ここからが一章ですね。