そんなスパイありえない!
「問題無いわい……」
そうですか……まぁ、俺が気にする事では無いよな。
俺が溜息を吐いてると、お婆さんはクララさんを呼んで『最後のアレをするぞ』と言っていた。
それに対してクララさんは『そうですね!』とか言ってた。
もう俺は会話に割り込まない方が良いんだろうな、きっと……。
「お嬢ちゃんはそこに立って、ちゃんと杖を握っとるんじゃよ?」
「了解です!」
「それでは、いくぞ……」
お婆さんがクララさんを魔法陣の上に立たせて、そのまま何かの詠唱を始める。
まずその魔法陣がどこから出て来たのかを説明して貰いたいんだが……てか、本当に何を始める気なんだ?
不思議そうに眺めてると、何時の間にか周りに紫色と水色のオーラの様な物が現れた。
うわっ!?思わず触ってみるが、感触は無い。
このオーラは少しずつ辺りで形を整える様に集まると、そのままクララさんの持つ杖に飛んで、入っていく。
そして、杖は少しずつ光り出していき、さらに六条の時よりは動いてなかったが変形する。
どんどん短くなり、ゴツかった表面は凹凸が無くなり、柄には赤い包帯みたいな物が巻かれていく。
「これは……」
クララさんが息を飲むかの様に言った。
素人の俺でも分かるくらい、強大な力が動いてる気がするのは、簡単に感じれる。
周囲の野次馬も出始めたりするんじゃないだろうか……いや、誰も見向きもしてなかった。
だが、何となく察しがつくのは多分あのお婆さんが何かをしているんだろう。
とまあ、色んな事に呆然としていると、段々オーラや杖の変形が収まって来た……終わったか。
俺は、完全にさっきまでとは影も形もない位の杖をもったクララさんに話しかけてみた。
「どうですか?クララさん?」
「……」
「あの、クララさん……?」
クララさんは何故か黙ってる……が、次の瞬間俺に向かって抱きついて来た。
「やりましたよ、カナタさん!!初めての杖です!!」
「よ、良かったですね……」
抱き付いてもらえるのは嬉しい事だが、見られていないとはいえ恥ずかしい。
取り敢えず笑っている俺は、日が傾き始めたのを感じる。
「じゃあ、これで帰りましょうか。クララさん」
「今日は部屋で魔法パーティーですよ〜!!」
「何言ってんですか……」
あぁ〜あぁ〜、フードが取れちゃいますよ?
俺は無意味に杖を振り回すクララさんを引き剥がすと、お婆さんの所に挨拶に言った。
「色々と有り難う御座いました」
「いやいや……」
あと、一つ気になってたんだが。
「そう言えば、何でクララさんが初めて来た時に顔も見れない中『お嬢ちゃん』なんて呼んだんですか?」
「えっ!?……ゴホンッ、勘じゃな……」
怪しい。
別に無理に聞こうとはしたく無いが、こんな状態でもあるし、敵は排除しておきたい。
……って、俺、ドラゴンの殺し過ぎで中身が殺伐として来てしまってるな。
「何か、知ってるんですか?」
「仕方ないですね、奥で話しましょう」
お婆さんはまるで違う口調で俺の前を通り、そのまま店の中に入っていった。
俺もその後に着いていく、一応六条に手を掛けながらな?
店の中は布数枚でしか作られていない壁や床に、これでもかと不思議な道具が置いてある。
全てお婆さんが唱えた魔法で隅に追い遣られ、俺達は空いたスペースの中に入っていった。
「それで、どんな話なんですか?」
俺は多少身構えつつ聞いてみた。
「そんな戒めをなさらないで下さい、カナタ様」
「知っているのか?」
「えぇ、全て我が主ポセイドン様に聞いております」
「え、ポセイドン!?」
またポセイドンかよ!
「って事はあの杖を渡したのって……?」
「その通り、さすがカナタ様です。元々陛下は、クララ様が隠れて魔法の御勉強をしていらっしゃたのを知っておりました。故に、外出した際には欲しがるだろうと、杖を渡せと命じられておりました」
その後も淡淡と説明をしていくこのお婆さんは名前をシュピオナージェと言うらしい。
この人はメアガンド・ゼーアの諜報部一番のスパイで、今回は敵の情報と言うよりは、俺達の見守り係となったのだとか。
また、なんだかんだで優し過ぎるポセイドンだよな。
シュピオナージェさんは昔から国のスパイをしていて、その前は名も知れぬ大魔法使いをしていたらしく、それで、いきなり魔法陣を作り出したり、物を動かせたりした訳だ。
ちなみに、杖の素材にとても珍しいらしい物を使えてたのは色んな所に諜報に行った時の土産をいっぱい持ってたかららしい。
「それでは、疲れたので元に戻るとしましょう……」
えっ?俺が困惑するよりも前にシュピオナージェさんは光に包まれ出した。
そして、そこから出て来たのはモデルスタイルで爆乳の別嬪さんや〜。
「えっ、誰!?」
「誰とは失礼ではないですか?」
「あっ、す、すみません!!」
「いえ、いいんですよ。さっきまでは仮初めの姿でしたから」
「へぇ〜」
さすがスパイである。
しかし、人間にすらこんな事が出来るのなら悪魔には……。
そん時はそん時だな。
「それで、シュピオナージェさんは今後はどうするのですか?」
「ここにずっと居るつもりです。案外、拠点とするにはちょうどいいので……」
「そうなんですか」
「ですから、いつでも頼っていいですよ?」
俺達はそんな今後の話をした後、クララさんを待たせてるのでさっさと出て行った。
しかし、さっきの話が外に漏れてたらどうするんだ?と思ったが、シュピオナージェさん曰く『防音結界』で守られていたから大丈夫だそうだ。
元大魔法使いの名は伊達じゃないな。
「カナタさん、何を話してたんですか?」
「まぁ、クララさんが知らなくても良い事ですよ?」
「そんな〜、教えて下さいよ……」
「そんなに知りたいんですか?だったら後悔しても仕方ないですが……」
「い、いや!やっぱり大丈夫ですよ!」
ちょろいな。
まぁ、いつかは話す事になるんだろうけど、シュピオナージェさんももしもの時以外までは言わないという約束をしたのだ。
「そんな事より、早く帰りましょうか?」
「そうですね……」
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何故こうなったのか?俺は何故か必死になって水龍を使ってた……時を遡って思い出そう。
クララさんは杖を買ってとてもはしゃいでたのだが、俺はそれを放置していたのだ。
そして、帰って部屋に入るとまず杖を取り出した。
いや、だって本当にやるなんて思う分けないだろ?
しかし、クララさんは俺が思ってたよりも子どもだった訳で、杖を取り出すや否や魔法を使った。
その魔法が放たれた事で大きな衝撃波が生まれ、六条の瞬時の反応速度でやっと抑えれらたのだ。
何がいけなかったのか?それは、俺がクララさんを甘やかしすぎたせいだろう。
ただでさえずっと引き籠もってたせいで、人間の常識が足りなくなっていたというのに……。
仕方が無い……俺はクララさんをお説教する事に決めたのであった。
ミサイルよりクララさんが怖いです……色んな意味で。