こんなナイフありえない!
すいません、結構間が空いてしまいました。
神ゼウスによる超ドS修行はまだ始まったばかり。
一日目にて正直死にかけていたんだが、この二日目はさらにぶっ飛んだ内容だった。
まず、昨日は一体ずつでしか戦わなかった巨大なドラゴンを、三体一気に出して来た。
こればかりはヤバいかもと心の中で叫びながらも、俺は『水龍』でドラゴン達の猛攻を防御しつつ、『神の槍』を用いて一体一体しっかりと仕留めていく。
今日分かった事なんだが、ドラゴンという生き物達は再生能力を持っていて、実は昨日俺が初めて小さな槍を刺したドラゴンは、その後すぐに再生してたらしいのだ。
ゼウスが言うには、ドラゴンとはこの世で三番目に強い生物達であって、人間が何百人も束になってやっと中くらいのものを相手に出来る程らしい。
マジか……それを一応一発で倒せてるってことだよな?
俺がそんな事を考えてると、ゼウスは『私のドラゴンは意思が無い』と言っていたので、これでドラゴン達を下に見てはいけないという事だな。
こうして二日目は終わった。
ただ疲れただけな感じもするが、『水龍』も『神の槍』も前よりは断然操作慣れ出来たので、良いとするか。
三日目はこれまでのやり方とは違い、対人戦の練習をした。
まぁ、練習と言っても技の応用による加減の仕方だったのだ。
ゼウスは自分の部下の中性的な印象の天使『ガブリエル』を呼び出し、俺と戦わせた。
勿論、俺が圧勝……となる筈だったのだが、力を加減するとなると経験の差で俺の完敗であった。
やはり、圧倒的能力に頼るだけではいけないのだと、心の中で考えた。
とても苦悩していた俺に、ゼウスがその『剣』を使うように言って来た。
こんなの、使える訳が無いと言ったが、どうやらネプスさんの言った通りとんでもなく強い物らしく、ゼウス曰く宝剣並みなのだとか……。
俺は半身半疑で剣、もとい『ナイフ』を握り締め、天使に向かった。
少しの間睨み合い、相手も何時の間にか出した剣を抜いて俺に構える。
ゼウスの『初め!!』という合図とほぼ同時に『ガブリエル』の超高速突進が繰り出される。
こいつも本気になったようだ……いや、待てよ?今の俺にこの突進が速い事は理解できるのだが、何故かゆっくりにみえる……何故だ?
軽々とその突進をかわしていく俺に対して『何!?』とガブリエルが言ったのが聞こえたが、俺は嘲笑ってやった。
その後何度も突進を繰り返しているガブリエルを何度もかわしていると、ふとガブリエルに隙があるように見えて来た。
俺はその隙に入っていくように殴り掛かった。
「貰った!!」
「甘いな!!」
俺が気付いた時には目の前からガブリエルは消えていた。
まさか、本気を出してなかったって言うのか!?って、ヒーロー物にあるような事を言いたかったのだが、そう考えた時にはガブリエルが背後に回り込んで来た感覚がした気がする。
また負けたのか……そう悟り始めた時だった。
俺の体が勝手に動いたのだ、いや、正確には動かされた感覚であった。
そして、気付けば元居た場所より数メートル離れた場所に俺は立っていて、さらに、後ろからは喚き声が聞こえる。
何が起こったんだ?そこに居た誰もが思っただろう……ゼウスは分かってたのかもしれないが、今さっき俺の腕は勝手に動き、本人にも気付けないスピードで正確にガブリエルを切り裂いたのだ。
俺はハッとして切り裂いた筈のガブリエルを見る。
やはり叫んでいたのはガブリエルであり、その右腕は地面に落ちていた。
さっきまであんな無口だった筈の男が、まるで恐怖に怯えるように叫び、そのまま俺を見つめて問う。
「今のは……何なんだ?」
「いや、俺にもよく分からなくて……」
「分からないって、お前、俺の超多重結界をいとも簡単に切り裂いて……説明して貰わないと……」
俺とガブリエルが揉めていた所にゼウスが割り込んで来た。
「さすがカナタ君です。強いて言うなら、もう少し加減の練習をするべきですよ。でも、さっきの斬撃はどうやって繰り出したのですか?私にもあまり目に追えなかったですよ」
「それが、よく分からないんですよ」
俺がそう何度も言うのに、二人は疑うような目で見て来る。
まさかとは思うが、また何かの能力を手に入れたのか?俺?……だとしたら神様に聞いてみないといけないんだが。
そういえば怒ってたよな、あの神様。
しかし、頼らないといけないよな……『神様、お助け下さい』これで良いんだっけ?
その瞬間、俺の目の前は花畑になった……成功したのか。
「あんたね?どうしてすぐに頼らないのよ!?いつでも呼んで良いって言ったでしょ!?」
背後からは神様が罵声のように俺に文句を言って来る……てか怒ってなかったんですね。
「そんな事言われても、怒ってたじゃないですか?」
「そんなの……もう良いって……」
神様は頬を赤らめ、モジモジしながら言う。
何それ!?非常に可愛いんですけど!!
「そうですか、なら良かったです」
「ちょっと!スルーしないでくれる!?」
「ハイハイ……で、俺のさっきの動きは何なんですか?」
「それが、よく分からないのよ……」
「分からない?というと……どう言う事になるんでしょうか?」
俺の事なら思考まで何もかも知ってらっしゃる神様ですら分からないらしいので……正直愚問とも言える俺の言葉だったが、神様は推測を話してくれた。
まず、さっきの動きの中で始めに動いたのが俺の右手、つまりナイフを持っていた手。
さらに、直前に起こった俺の思考加速的な状況も、何故か右手が一番動ける状態だったらしい。
もし、その二つの仮定を踏まえるなら、ナイフに何らかの力があるのかもしれない……それが推測の一つだった。
まぁ、二つ目は無いんだけどね?
それを教えてくれた神様はナイフを、向こうの世界でちゃんと調べて来いと言って、俺は気付いたらゼウスとガブリエルの前に居た。
本当に、現代人みたいな神様だよな……。
「大丈夫ですか、カナタ君?一瞬意識が飛んでましたが……」
「いや、ちょっと考え事を。それで、さっきの技なんですがもしかしたらこのナイフのせいかと……」
俺は何故か血の付いていないナイフを、二人の前に出す。
ガブリエルは少し不貞腐れたように覗いて来た……きっとプライドだろう。
「ゼウス様、何か分かりますか?これはポセイドンの国で作って貰った奴なんですけど……」
「うぅん、私には全然……ガブリエル君、分かるかい?」
「はっ!私目にも理解出来ませぬ、このような高度な物……」
ふぅむ、だとしたら何なんだ?コイツは?
……いや待てよ?
「ガブリエルさん、さっき『高度な物』と言いましたか?」
俺はガブリエルが何かしら気付くと踏んで、問いかけてみる。
この人も、さっきのゼウスからの問いの御陰で冷静になってたし、教えてくれると良いが……。
「えぇ、これは……『超秘鉄』でしょうか?こんなに小さい刀身にもそれが上手く凝縮されていて、さらに完全に貴方の手に馴染んでいる」
「それが高度だと?」
「とても素晴らしいものですよ!!」
ガブリエルは凄い興奮してる、語れて喜んでるとか、オタクかよ!?
てか、何時の間にか切った筈の腕があるんだけどこれは一体?
俺がグイグイ来るガブリエルに相手してると、ゼウスがナイスタイミングで割り込んでくれた。
「さすが、この国一番の剣士ガブリエル君が言うからにはそれは凄いんですね!?」
ガブリエルは正気に戻る。
果たして、そんなに俺のナイフは凄いのだろうか?俄に信じがたいが……。
そんな俺に、ウザくとも、安心する笑い声が聞こえた。
今後はこれくらいのペースで安定しそうです。