赤1話 竜使いの少年
(絶対に私がなんとかするから心配しないで)
「え…?」
パチッ、と目が覚める
頬を涙が伝っていた
ここ最近昔の夢を見る
綺麗な女の人が泣きそうな顔で俺に話しかけてくる夢だ
もうほとんど覚えていないから、特に印象に残っているそこばかり
そしてなぜか、その夢を見たあとは
いつも、泣いている
「おはよう。」
「…おはよう、寝坊した」
二階から降りると、家族は食卓を囲み、朝食をとるところだった
「早く座れ、今日は大事な話がある」
「話っつっても、どうせいつもの一族ガー、とかいうやつだろ?」
俺は座りながら答える
親父はため息を一つついた
「お前は一族としての自覚が足りん。この一族で若い男はお前一人しかいないんだから」
「嫌だよ。俺、そんな力ねぇし」
「力がなくとも、これは一族に代々伝わるものなんだ
「「カリバーンは」」
次に親父が発する言葉がわかっていた俺は、親父のタイミングに合わせてその剣の名を言った
親父は呆れた様子で、それ以上は何も言ってこなかった
毎日繰り返されるこのやり取りに、俺はいい加減嫌気がさしていた
「誰が継ぐかよ馬鹿馬鹿しい。だいたい俺、剣に触ったこともないのに」
そう、思っていた
その日は嫌になって村の近くの森へ出ていた
一緒に抜け出すような奴もいないから 一人で
飽きて帰ってきた俺の目の前に広がるのは、赤々と燃える炎と、人間が焼ける嫌な臭い
「なんだ、これ……?」
燃える村の中で、俺の目には、魔物と対峙する親父の姿が映った
「親父!」
今までのやり取りを思い出す。それは俺にとって、とても嫌な思い出のはずだった。
「親父!今行くから…」
俺は足を縺れさせながら走った
嫌な思い出のはずなのに、その思い出が走馬灯のように駆け巡る
「嫌だ!嫌だ!」
頭を振って打ち消す
いつも、口を開けば一族だ、継承だ、と言って、喧嘩ばかりだったけど
今、俺は親父を助けたい!!このまま、何もできないまま……
ザシュッ!
「ぁ...」
俺の目の前で、親父の首と胴が離れて
その鮮血が、俺の顔にまで飛び散った
「ぅあああああ!!」
動くことができない
魔物がこちらへゆっくりと迫ってくる
目の前で腕を振り上げた
(泣いてちゃダメだよ、
まだ、やるべきことがあるでしょ?)
言葉が聞こえた
その瞬間、魔物の動きが止まっているのかと思うほど
スローモーションになった
「え…?」
いつの間にいたのだろうか
敵の背後からスッと、少年が現れた
(この剣を取りなよ)
少年の手には、カリバーンが握られていた
(これがあればそいつを倒すことが出来るよ
その代わり、この剣をとったら君は、力と共に勇者の宿命を背負うことになる)
「…」
ずっと逃げてきた罰が当たったんだ
そう思った
もう 逃げ場はないんだ、とも
「その剣を…くれよ。
それは…俺のものだ…!!」
少年が微笑んだ気がした
ガキィーン!
動き出した魔物の攻撃を受け止める
少年はいなくなっていた
「...!?」
面食らっていた魔物をあっさりと押し返す
「お前ら」
俺は魔物の喉元にカリバーンを突きつける
「覚悟しろよ」
それからのことはよく覚えていない
ただ俺が魔物を皆殺しにした事と
俺の一族が滅んでしまった事は、紛れもない事実だった
「親父…」
涙はもう出なかった
まだ火の収まらない村を背に
俺は歩き出した。
カリバーンに導かれるように…
この作品は、製肉が考案し、
杉野が文章を担当した合作であります
クアトロ主人公となっております