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野巫の祭  作者: 凡栄
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野巫の祭 7

野巫の祭  7




そうだ、ここに行ったのだ。

二人で行ったのだ。

一年も経っていないのにずいぶんと前の事のようにも思えてくる。

(暑かったな⋯)

このときはよく歩いた。

2泊3日で一度も雲がかからなく絶好の旅行日和なのだろうが、とにかく暑かった。

「伊勢参りは外宮からよ」

そういう妻に連れられて伊勢神宮•外宮をまわり、バスで内宮へ。

架け替えられたばかりの新しい橋を渡り、内宮をまわった。

日本神話をそのまま形にしたような、不謹慎だがとてつもなく規模の大きなジオラマを見ている気持ちになったものだ。

建築業界にいたせいか、その作りの一つ一つが計算されてなおかつ効果的なものであるのがわかる。

各所に杉などの巨木があり、手入れされているためにいわゆる「神秘的」な空間が演出されている。

参拝者の中にはこれらの巨木に手や額を当てて何かを感じ取ろうする者がたくさんいたが、そもそもここが造られた時にはそれらの巨木もまだそれ程ではなかったろうし、人によって創られた神話を再現するために人為的に作られたものに神が宿る訳はない。

⋯っと、信仰心の無い私は思ってしまうのだが。

それでも何か神秘的な力が欲しいと願うのが人なのだろうか。

そんな私を見透かすように笑顔で案内する妻。

内宮の一番奥で、一番高い場所には天照大御神。

長い階段を登りきると大きな門があり白くて大きな布がかかって中が直接見えないようになっている。

中の広場の向こうにはまた門があり、そこにも白くて大きな布がかかっているので中の神殿はほとんど見ることができない。

何とか布の向こう側を見ようと、風が吹くたびに揺れる布に合わせて顔を動かしている私に妻が

「ここに奉られているのは誰なのかしらね」

と言うので

「天照大神だろ?」

と言うと

「ふふ、そうね。確かに明かりの神様であることには違いないのかしらね」

いたずらっ子のように笑いながら言ったのだが、その意味は何だったのだろうか。

内宮だけでなく外宮を歩いているときから色々と説明をしてくれていたのだが興味のない私はその内容をほとんど覚えていない。

今思うと、あの時もっと話をよく聞いておけばよかった。

普段はあまりおしゃべりではない妻が、あの時はよくしゃべっていた。

信仰心が強い訳ではなかった彼女が、伊勢では説明をまるでガイドの様にしていたので、よく調べてきたのだな…位にしか思わなかったのだが。

さて、箱の中身をゴソゴソとかき回してみるとパンフレットが出てくる出てくる。

宇佐八幡、阿蘇・熊本、諏訪大社、熱田神宮、鹿島神宮、浅間山・浅間神社、隠岐島、熊野大社、那智大社…

そして出雲大社。

妻の郷里でもあり次の旅行の予定地でもあった。

亡くなる前に見積を取っていたその封筒が目に入る。

高瀬作次郎様

高瀬利与様

この連名の封筒が、たくさんに増えていくはずだったんだがな。

そんなことを考えて箱を眺めていると

「んん?」

よくよく見るとやたらと神社が多い。

寺院は…ほとんど…無い。

ずいぶんと極端ではないか。

またも違和感がよみがえる。




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