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野巫の祭  作者: 凡栄
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野巫の祭 6

野巫の祭 6



鎧神社を出てぶらぶらと歩くと、すぐに新大久保に着いた。ついでだからと新宿まで歩く。

相変わらずで人がたくさん行き交う街だな。

思い出横丁を通って新宿駅に入る。

横丁から駅までの空気感のあまりの違いにクスクスと笑いつつ地下の中央通路に入ると数えきれない人達がドーッという感じで流れている。

通路の柱にもたれながらしばらくその流れを見ていると、さっき感じた違和感がよみがえって来た。

(さっきから、一体何なんだ?この感じは?)

少し薄気味悪さを感じるほどだ。

今日は暑かったのと、旧知の山口に会って飲み過ぎたのとで体の調子でも崩したか?

まぁ慌てることもない、待っている者が家に居る訳でもないのだからゆっくり帰ろう。

体をゆっくりと柱から離して通路を歩いて改札へ。

人の波に紛れながら中央線のホームへ上がる。ここから中央線で神田まで行き、地下へ下って銀座線に乗り換える。

銀座線の田原町で降りれば東本願寺裏の自宅まではすぐだ。

いつもなら通り道にある赤札堂で買物をするのだか、今日はちょっと遠回りになるが三平ストアで買物をしていこう。

飲んできたとはいえまだ時間が早い。このまま素直には寝れないだろう。

普段は家では飲まないのだが今日はしょうがない、どうにも飲みの決まりが悪いのとまだ眠くなりそうにない。

三平ストアでほうれん草の胡麻和えに切干大根、そういえば家にキムチが残っていたから豆腐を買ってキムチ奴にしよう。

これらと350mlのなんちゃってビール(家ではこれで十分だ)を買って家に帰った。

鍵を開けて中へ入る。

「ただいま…」

ここ、東本願寺裏の菊水通り沿いのマンションに越して来てからの癖だが、誰も居ない部屋に入るときに中に向かって言ってしまう。

電気のスイッチを探して手が壁をさまよう。いつもながらこのスイッチを探してから電気がつくまでが嫌な時間なのだ。

スイッチを見つけて明かりがつくと当然なのだが誰も居ない部屋が景色として目に入る。

この「誰も居ない景色」を確認した瞬間どうしてもため息が出てしまうのだ。

「ふうぅ~」

靴を脱いで買ってきた食べ物を食器に移し替える。パックのまま食べるのが嫌だから。

ほうれん草の胡麻和えには摺りゴマ、切干大根のは七味、豆腐の上にはキムチを細かく刻んで胡麻油をまぶしたものを乗せた。

プシッ!

なんちゃってビールを開けて長い夜の始まりだ。

ラジオをつけると誰かの歌の後に日比谷の話になった。今日行ってきた所だ。

そうだ、今度の金曜日の演奏会はやるのだろうか?

っというのも曜日が決まってやる演奏会だが、警察や消防の都合や日比谷公園の都合などでやらないときもあるのだ。

このマンションは一人暮らしでは広いかもしれないが2DKの間取りになっている。ダイニングキッチン(それほどの広さはないが)のテーブルではなく、いつもリビング兼、寝室の部屋のベッド脇に置いてある小さなちゃぶ台で食事をしているので「よっこらせ…」と立ち上がってキッチンへ。

こういうときにラジオはいい。テレビはつけて見てしまうと目が奪われてしまう。目が奪われると体の動きも奪われてその場から動けなくなってしまうのだが、その点ラジオは聴きながらでも手も体も動かせるので便利だ。

台所のカレンダー脇に演奏会の予定表が貼ってあるのでそれを覗き込むと今度の金曜日は消防庁の催事のために日比谷の演奏会は休みとなっていた。

「あらら、残念…」

これで金曜日の予定が空いてしまった。そんなことを思っているとラジオから伊勢神宮の話が流れてきた。

伊勢神宮は内宮と外宮に分かれている。分かれているといっても隣にあるのではない。歩いて移動したら1時間ではとてもたどり着けないほど離れているのだ。

その内宮と外宮の回り方、あるいはどちらか一方でもいいのではないか?といった内容の会話がラジオから流れてきたのだ。

「伊勢か…」

去年の夏に行ったばかり。

それだけではない。仕事を辞めてから色々と行くはずだった妻と二人旅の初めで最後になってしまった旅行だった。

会社を辞める前から妻が大量のパンフレットをもらってきて旅行の計画を練っていた。

その一番目が伊勢神宮。

なぜ伊勢神宮だったのか今ひとつハッキリしないが、とにかく最初は伊勢なのだと妻が強く言い張って決まった。

なんだろう。

伊勢と聞いたら今日感じていた妙な違和感が甦ってきてしまった。

伊勢神宮と新宿駅や

鎧神社が何かでつながっているのか?

それとも別の何かを偶然感じているのか。

(ふぅ~~~ん…)

そもそもなぜ最初の旅行は伊勢だったのか?

そういえば、ダンボール箱一個分のパンフレットとガイドブックが取ってあるはず。

妻の荷物は引っ越す前に服や履物、バックや小物も子供達に分けたり処分したりしてかなり減らしてきたのだが、この箱はいつか二人で回るはずだった所を一つずつ回ろうと思って取っておいたのだった。

そのダンボール箱はどこに置いたかな。

荷物置き場にしてある隣の部屋に入ってそのダンボール箱を探すと、一番端で見つかった。

ちゃぶ台の所に戻り、脇にダンボール箱を置いて中を開けてみる。

伊勢神宮のパンフレットが一番上に入っていた。





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