野巫の祭 53
野巫の祭 53
冗談ではない!
奴らが何かしら私に関わりたいのを表してきたのは間違いなさそうだが、こちらには思い当たることなんてない。
しかし、こちらが分からなくても向こうはどんどんと詰めてくるつもりなのだろう。
静かに暮らしていこうと決めたのに。
せっかく「最期」の道へ向かうことを考えるようになれたのに。
あんな奴らに、訳の分からない奴らにこれ以上振り回されてたまるものか。
追いかけて行って捕まえて問いただしたいが、それは無理だ。
脚がもう動かない。
さっきの子供たちのように走って坂を上るのは、この身体ではかなわん。
熱さと全身が泡立つような気持ちとで全身が茹っているようだ。
実際、汗が身体中から吹き出しているが頭の先からは湯気が上がっているのをはっきり感じる。
怒りに任せて叫ぶほど若くはないが、叫びにならない叫びがこぼれた。
「ちっくしょう⋯」
胸が激しく鼓動した。
その鼓動が周りの空気まで震わせるように広がっていった。
何だ?
今の感じは?
今までとは感じが違うし痛みも無い。
暑さがスッと引いていく。
痺れていた身体に力が戻っていく。
もう一度、坂の上に目を向けると陽射しは坂の景色を黄金色に包んで光の中にいるようだ。
この輝いた坂道を見たような気がする。
夢の中で見たものとは違うが、この輝きはどこかで見ている。
これも奴らが見せようとして見せたものなのか。
だとしたら覚えておこう。
今日のこの景色を。
くるりと身体を回して坂下へと向かって脚を動かす。
不思議なほど身体が軽い。
子供たちが飛び出してきたS字を抜けて坂を下りきり信号を渡って部屋の方へと歩く。
人通りの少ない裏道から昭和通りへ出ると車も人も多くなる。
すでに仕事終わりの時間になっているのか。
合羽橋の本通りに入って商店街を少し進むが歩道は歩きにくい。
途中で裏道に入って平らな道をすすむ。
決して早くはない歩みのためビルの間に射し込んでいた陽射しはみるみるうちにオレンジ色へと変わり景色を変えていく。
ビルばかりの街だがこの時間帯は美しく見えるものだ。
周囲の状況を伺いながらだが、少しずつ部屋の方へと歩きながらふと立ち止まり振り返ると、すでに上野の山は見えなくなっているが僅かな距離なのに坂の上と坂の下とで随分と様子が違うなと感じた。
坂の上は恩賜公園で広々とした中に寺や美術館、博物館が建っている。
坂の下はごちゃごちゃと建物がひしめいて商売人たちで活気がある。
まるであの坂で分断されているような。
歩きながら所々で振り返ると山に向かってまっすくな道では山が見えるがさっきまで自分がいた所とは違う場所のようにも感じる。
それほど今いる場所は人の密度が多い。
その分なのか例の違和感を感じるが、それを気にするのはもうやめよう。
用があるのなら奴らの方から近寄ってくるのはよくわかったのだから。
まずは帰って汗を流し落ち着こう。
部屋まではあとわずかになっていた。




