野巫の祭 51
野巫の祭 51
いかんな⋯
足首までヨレてきた。
階段と違って常に爪先下がりだから、やはり下半身への負担が大きいか。
だけど止まるわけにもいかない。
悲鳴をあげる下半身に鞭を打ち、なんとか坂の一番下まで来たが、ここで道がS字カーブになっている。
先が見えない⋯な⋯
ただでさえ人が通らない坂なのにこの暑さだ。
通るのは車ばかりで、坂の上を見返しても誰も来ていない。
誰も来ないさ。
そう思った途端、カーブの向こうから声が聞こえてきた。
明るく弾んだ声。
「子供か⋯」
ドクン!
また胸が激しく鼓動する。
何だ?
今度は何なのだ。
体がよろける。
胸を押さえた次の瞬間、小さな男の子と女の子が笑いながらカーブを飛び出してきた。
小学校の低学年くらいか。
さすがに子供は元気だな。
歩道の真ん中を歩いていた体をガードレールに寄せてすれ違う。
こちらの視界から二人が消える瞬間、男の子が小さな声で呟いた。
「この人なの?」
な⋯に⋯
恐る恐る、ゆっくりと振り向くと私から10mほど上に二人がこちらを向いて立っていた。
何ということだ。
二人の子供は奴らと同じように冷たく表情の無い顔で私を見ているではないか。
全身が泡立っていく。
私は一体何を、何を見ているんだ。
女の子が手首だけ動かして私を指差す。
顔を見ると唇の両端がみるみるうちに上がっていき、引きつった笑い顔に変わっていった。
唇が動く。
その動きに目が惹きつけられていく。
何かを言うぞ。
全身が固まって動かない。
いや、動けない。
女の子はゆっくりと口を動かして言った。
「そうよ⋯この人よ」
無表情のままの男の子が
「そうなの」
と聞き返す。
「そうよ、わかるでしょう」
女の子が答えると
「そうなんだ、ふ〜ん」
そう言い終えた男の子の顔も、女の子と同じように引きつった笑い顔に変わっていった。
「ふふふ⋯」
「あはは⋯」
冷たい笑い顏のままクルリと体を回して、二人は坂の上へと走っていく。
血の気が引いて目が回るように景色が歪む。
走る二人の背中を見ながら力が抜けた私の体は膝から崩れるように地面に落ちていき、座り込むような形になっていた。
さらに背中が丸まっていき、顔が地面につきそうになってようやく手が動き、地面を突いてなんとか体が止まった。
一体何が起こっているのか皆目見当もつかない。
今の子供達も奴らの仲間なのか?
わからない。
何もわからない。
何も考えられず、顎や鼻からボタボタと垂れる汗が、目の前のアスファルトに染みていくのをただ呆然と眺めていた。
暑さで焼けたアスファルトは染みた汗をすぐに乾かしていく。
熱気で周りの景色は陽炎のように揺れていた。
横を通り抜ける車のタイヤが転がる音だけがこの世界で動いているように感じるほど気が遠くなっていた。




