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野巫の祭  作者: 凡栄
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野巫の祭 4

野巫の祭 4



そのお新香に箸を付けようとしたら開けっ放しだった店の扉の外から声がした

「作さん!」

誰だ・・・と思って外を見ると私よりも早くに会社を辞めた同期の山口だった。

「おう、山さんか」

言いながら表に出た。

「何してんだよ、こんなところでさ」

「いやぁ~話すと長くなる。いま飲み始めたんだが、もし時間があるのなら少し一緒に付き合わないか」

久しぶりの顔を見て懐かしいセリフを使ってみた

「時間がある~?よせよぉ作さんだってわかるだろう。時間なんて腐るほどあるんだぜ。喜んで付き合うさ」

笑いながら二人で店の中へ戻った。

新しいビールを頼み、そして乾杯。

誰かと乾杯なんてずいぶんと無かったように思う。

互いの近況報告。山口がこの東中野に住んでいること。私が去年で会社を辞めたことなど一通りの情報交換的な会話が済むと、山口は一気に自分の事を話し出した。

会社を辞めてから畑仕事をやろうとしたら思った以上に重労働で1年でやめたこと。夫婦で全国あちこちの温泉をまわったこと。酒をやめようとしたがダメだったこと。最近の家での会話がどこの老人ホームがいいかパンフレットを夫婦で吟味すること。どとらかが入院したら残った方は家の中の何をしなければならないかの「やることリスト」を二人で作ること、などなど続けざまに話した。

「大変だなぁ」

笑いながらそう言うと

「何言ってんだよぉ、作さんとこだって似たようなもんだろうよ」

顔をクシャクシャにして笑いながら言ってきたので言いずらかったが

「実は秋から独り身になってな、置いてかれちまったよ、うちのやつは雲の上だ。ははは」

悪いとは思ったが嘘は言えない。一瞬黙ってしまった山口だったが

「そう・・・だったのか。すまん、知らなかったからつい」

「いやいや、いいんだよ。会社を辞めてからだから身内だけしか連絡しなかったから知らなくて当然なんだよ。始めに言わなかった俺が悪い」

「そうか、いやすまなかった。知らなかったとはいえ申し訳ない」

「そんな山さんが謝ることじゃないって。さあ飲み直そう」

そうは言ってもギクシャクとしてしまい、少しして二人で店を出た。

連絡先が互いに変わっていたので電話番号を交換して山口とは横丁の入口で別れた。

辺りはまだ暗くなっていない。日がずいぶんと伸びたものだ。

このまま駅に向かう気にはなれないので酔い覚ましと時間潰しをかねて少し歩くことにする。

(まぁとりあえず新宿方面にあるくかな)

新宿に向かって歩き始めると下り坂になり、坂を下ると静かな住宅地になった。

どこをどう歩いたか、住宅地の中をウロウロしているとその中に突然と大きな木がしげるやしろが現れた。

細い住宅地の道に本当に突然に。

「ほほぅ・・・」

別に信仰があるわけではないが、あまりに街から浮いた存在に感じたので大きな鳥居をくぐり中へと入っていった。




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