野巫の祭 26
野巫の祭 26
「なに一人でニヤニヤしてんだよ〜」
笑いながら山口が言ってきた。
「あ〜いやいや、ちょっとな。でもニヤニヤなんかしていたか?」
反射的にとぼけようとしてみたが、山口はさらに腕組みしてその手をテーブルに乗せ、肩に首を埋めるようにしながらぐっと顔を近づけて
「な〜んか怪しいなぁ〜」
顔を斜めにして眉を片方だけ上げてこちらを下から見上げている。
「な、何だよ⋯」
「お前さぁ〜やっぱり女ができたんじゃないのかよ〜え〜?」
心配というより好奇心満々で言っているのがわかる。
「違うって⋯」
「嘘つけ!」
間髪入れずに否定された。
「嘘じゃないよ。嘘じゃない。そんなのいないし、まだ女房が逝ってから一年も経ってないんだぜ。」
全く聞いていないのか、眉をひそめながらビールのジョッキを持ち上げて、ジョッキを持った右手の人差し指をこちらに向けて
「しょ〜じきに話せよ〜、え〜作さんよぉ〜〜」
そのまま残りのビールをグーっと飲み干しテーブルにぶつけるように置くと
「おーい!お酒ー!冷やでいいから猪口二つねー!」
店員さんに向かって言うと
「はーい!お酒冷やでお猪口二つですねー!」
元気よい返事。
「おいおい、酒かよ。しかも冷やかよ!」
昔からこのパターンはあまり良くない結果になるので少し牽制してみたのだが
「そうよ!酒よ!酒が真実を導くのよ!」
言い終わると同時にお酒が来た。
「はーい、お待ちどうさまでーす。500円でーす。」
トントントンとガラス製の一合瓶と猪口を二つ並べて置いた。
シュパッという感じで山口が500円玉を渡す。
「ありがとうございまーす!」
店員の女の子はにこやかに去って行ったが、目の前の山口はにこやかではない。
「さぁ!作さんよぉ、胸襟を開いて大いに語ろうじゃ〜ないか!我ら吹けば飛ぶよな枯れゆく老人にも春が来るという話を!」
言いながら二つの猪口に酒をなみなみと注いで一つをこちらに渡してきた。
「おいおい山さんよ、ちょっと落ち着けよ⋯」
「んにゃにを〜!落ち着けだぁ〜!落ち着いてらぁ〜な!落ち着いて聞かせてもらおうじゃ〜ねぇ〜か!」
「た〜か〜ら〜、何にも無いって。何にも無いよ。」
「ほぉ〜、ほぉほぉほぉ。とぼけても無駄だぁ!さぁ〜飲めぇ!」
言うが早いか一気に猪口をひっくり返した。
「おいおいおい!山さん!早いって、早いよ飲むのがさぁ。」
ひっくり返した猪口に次の酒を注ぎながらこちらをジロリと見て
「飲まないのか?」
ダメだ、こうなると面倒になる。
それは避けたい。
「飲むよ、飲むよ。けどゆっくりやろうや。」
一口含むように口をつけると
「んなぁ〜んだよ、そのしみったれた飲み方は!ぐっといってくれよ!ぐっと!」
「いかないよ!ゆっくりな⋯ゆっくりやろうや。」
「隠し事が無いならぐっといけよ!それともやっぱり何か後ろめたい事があるのかなぁ〜?」
また眉をひそめてこちらを見ている。
「無いってば!無いよ後ろめたい事なんてさぁ。」
「ふ〜〜ん⋯。そぉ〜かなぁ〜。」
「そうだよ、信じろって。心配してくれるのはありがたいが山さんが思っていることは無いって。」
「そぉかなぁ〜⋯ふ〜ん⋯」
「本当に無いっての。」
「まぁいいや、時間はたっぷりあるんだ。必ず吐かせてやるぜ〜!」
言いながらまた猪口をひっくり返す。
こうなるとしつこいのは相変わらずか。




