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野巫の祭  作者: 凡栄
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野巫の祭 19

野巫の祭 19



勘違いだとは思うがよく似て見えた。

一人でいる不安から昨日会った山口の姿を求めたのだろうか。

しばらく息を整えてからまた妻の写真を覗き込んだ。

今度は手にとってじっくりと。

やはり周りの者達の目は間違いなく妻を見ている。

偶然では決してないことが見れば見るほどにわかるのだが、この写真だけなのだろうか。

他の写真にもこういう者達が写っていないだろうか。

そもそも誰が何のためにこんな事をするのか。

一体いつから我々はこの視線で見られていたのだろう。

あまりにも異様なその写真を見て疑問が湧いてきた。

見られていたのは妻だけなのか?

家族も見られていたのではないか?

ここのところ感じていた違和感の原因がこの視線だとすると私は確実に見られている。

なぜだ?

押入れの中にあるアルバムを調べようと襖に手をかけてやめた。

怖い。

酔いは冷めてしまったが不気味すぎてこの場に居たくない。

と言って一人で外に飲みに行っても話し相手がいなければ酔えば不安が増えるだけだろう。

それに外に出たらあの視線がどこからか自分を見ていると思うと怖くなる。

そうだ、さっきの角を曲がった男がもし山口だったらまだ近くにいるだろうか。

慌てて昨日聞いた携帯電話の番号にかけてみる。

少し間があって呼出か音が鳴った。

「はい、もしもし」

「あっ、俺だ高瀬だ」

「お〜う、作さんかぁ、どうしたんだい昨日の続きをするかい」

「いや…まぁそうなんだか…」

少し言葉につまると山口がゆっくりと聞いてきた。

「作さんよ、本当にどうしたんだよ、なんか様子がおかしいぞ」

「いや…そうなんだか、いや、あのな山さんお前さん今どこにいるんだい」

「何だよおい、まさか今日も中野に来ているなんて言うんじゃないだろうなぁ、やっぱり飲みに行きたいんだなぁ」

心配する声からからかう声に変わった。

「いや、それはそうなんだがな、ひょっとして近くにいるんではないかと思って電話したんだが、どうかな」

「どうかなって、あのな、作さんがどこに居るのか分からんのに近くも遠くもあるかよ。そっちこそ今どこにいるんだい。中野じゃなさそうだが」

「ああ、浅草の部屋に居るよ」

「んじゃあ遠いわぁ、俺今日は中野から出てないもの。それに何で近くにいると思ったんだい」

「いゃね、さっき山さんによく似た後ろ姿を浅草で見かけたもんでね、近くにいるなら会いたいと思ってさ。昨日は何だかおかしな空気で別れてしまったからな」

「そうだったのか。まぁ昨日は突然奥さんのことを聞いたから俺の方が気まずくなってなぁ。さんざんと女房の話をした後だったからさ、まぁ気ィ使えなくて悪かったとこちらも思ってたんだよ」

「こちらこそ、久しぶりに会ったのにつまらん話をしてしまって悪かったな」

「そんな…つまらん話ではないよ…それじゃあお互い様でいいかい。ええ作さんよぉ」

「もちろんさ」

「それじゃ今日はもう出ていけないからあらためて今度飲み直そうじゃないか」

「ありがとう山さん、じゃあまた連絡するよ」

「そうか、また何かあったらいつでも電話してくれよな」

「ああ、またな」

電話を切った時、とても長い時間話していたように感じた。

昨日もそうだが人と話す機会が本当に少ない生活なんだとあらためて思う。

そうだ、子供達は。

子供達はどうなのだろう。

やはり見られているのだろうか。

そう思うと気になって置こうとした携帯電話を握り直し、子供達の電話番号を呼び出したが通話ボタンを押せなくなった。

もし今私が感じているものや気付いてしまった事を子供達も経験していたらどうしよう。

不安にさせていたのだとしたらどうしよう。

眉間にシワが寄る。

涙が出そうになる。

まるで身に覚えがないのになぜこんな思いをしなければならないのか。

どうしよう…

情けないが助けを求めるように妻の写真を見ると、当たり前だが変わらぬ笑顔。

ただこの時

「早くしなさい」

と言われた気がしたのだった。




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