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 あの夜出会った幼き女神は、まだ消耗した力を取り戻していないらしく、しばらくは眠るそうだ。

 次に起きたら、獣人達の生活が安定するまでは力を貸してやって欲しい、と俺が頼んで快く了承された。

 最後、別れ際に名前を伝えられた。どうやらミトラというらしい。

 ミトラ君と馴れ馴れしく呼んだら、はにかんだように可愛く笑ってくれた。

 何か危ない気分になってしまう。

 お、俺は女の子が好きだ。本当だ。


「幼女!」


 ……も愛でるのが好きだ。もちろん犯罪者とは違いノータッチだ! 頭を撫でたりしたくなるが我慢だ!


「てんせーしゃん。いきなり叫んで頭を撫でられるとビックリするんだけど……」


 俺の手の下で、ルトがジト目をしている。

 そういえば、今は砂漠のど真ん中で、試したい事があるからとルトを誘って2人きりなのであった。

 まだ日は高く、ギラギラとした熱線が俺達を焦がそうとしている。

 さすがに長居はしたくない。俺は、ルトに意思を伝えるために手持ちのホワイトボードに文字を書く。


「て、てんせーしゃん……まさか、あたしと2人きりになって……。い、いや、まさかね」


 何を言っているのだろう。誤解されてそうだ。

 明確に意思を伝えておこう。


『パンツを脱いで欲しい』

「……え。あの、下着のパンツだよね?」


 俺は素早く頷く。


「そ、その……まだ心の準備というか……段階を踏んでからというか……ね!」


 何やらルトがモジモジしている。

 あ、あれ。出発前に説明しておいたと思うんだけど……。2人きりで、と最初に言った瞬間からソワソワし出して、まさか後の内容を聞いていなかったのか!?

 まずい、この方向はまずい!

 一回り以上年下の娘に無理やり手を出したとして、獣人達に八つ裂きにされてしまうパターンだこれ!


「で、ででででででででも男の人が我慢できないって聞くし、もし本当にしょうがないのならああぁぁぁ……」


 ルトが1人でヒートアップしてるところに、ホワイトボードを差し出す。

 今度はちゃんと目に入るように、顔面近くに。


『サンドワームをおびき出すために、体臭が一番ついてそうな下着を提供して欲しいだけ何だけど……』


 固まるルト。

 さっきまで口走ってしまっていた言葉を思い出しているのだろうか。


「無かった事にー!!」


 ルトの掌底が、俺のみぞおちに、ごぶり……と音を立ててめり込んだ。

 人間より数段高い筋力やしなやかさを持つ獣人が全力で放つ攻撃。

 それが俺の骨を伝わって、未だ聞いた事のないメロディーを鼓膜に届けてくれる。

 視界は反転し、次に聞こえた音は、俺が砂漠に顔面を突っ伏したモノだった。


「……うぅ」


 爪での攻撃だったなら、俺の身体に風穴が空いていたかも知れない。


「う、うわわ!? だ、大丈夫!? ごめん、ごめんー!」


 俺が吹っ飛んだ場所まで、ルトが大慌てで近付いてくる。

 困り顔の彼女を安心させるため、微かに動く手を使ってホワイトボードに文字を書く。


『きもちよかった』

「……」


 あ、これアカン顔や。呆れるを通り越して、何かどん引きしてる。

 はぁ、と溜息をついて、ルトは俺の視界の外へ移動した。

 何か衣擦れする音。

 顔を向けてはいけない雰囲気。

 だが、俺はそれに叛逆する!

 例え神が俺の前に現れても逆らってやる!

 首を反対側に……。

 向けようとしたら、何か足らしきもので頭を踏まれた。

 こ、これはこれで……。


「何かてんせーしゃんって、村にはいないタイプの男性だと思うの……。はい、これ」


 パサッと、目の前に落ちる白い布。

 落下した風圧で若干、にほひが。

 とりあえず気が付かれないようにクンカクンカしながら凝視しよう。

 眼福、眼福。


「あの……サンドワームに使うんじゃないの……?」

「う!?」


 思いっきり気が付かれてしまった。

 そういえば、そんな目的もあったと最後に残った5ミクロン程の理性さんが言っている。

 そうだった、俺は理性に生きる男だった。

 ラノベもちゃんと中身を見て買う、ジャケ買いなんてもってのほか! 頑張れ俺、頑張れ歩く理性!

 呼吸を阻害するくらいの激痛が続くみぞおちを抑えながら、俺は立ち上がる。

 そして、ぱ、ぱ、ぱんつをつつつつつつつ摘んでええええええええええええええ!!

 おおおおおおおちつけ俺!

 何をしにきた俺! 整理しろ! 一回整理しろ!


「てんせーしゃん、すごい挙動不審になってるよ……」


 数年前にルトの妹を襲ったサンドワーム。

 あれがまだいるのなら、オアシスからの移動が不可能になる。

 だから、まだいるのか確認としてルトに協力してもらっているのだ。

 パンツを提供してもらって。

 よし、何もやましい事はない!

 1、パンツを摘む。ふぉおおおおおおおお!!

 2、適当な石に巻き付ける。ああ、勿体ない……。

 3、サンドワームの縄張りの線引きである、巨大な岩の向こう側へ投げて確認する。そぉい!


「きゃっ」


 軽い地震のような震動のあと、ゴバッと砂漠が割れてサンドワームが現れた。

 その体格は、砂から全て出ていないのに細めの数階建て建築物クラスのサイズはあった。人はおろか、車を軽く飲み込みそうだ。

 身体は白っぽく蛇腹構造で、先端の口と牙だけが凶悪に肥大化している。俺のマイ・サンなんてこれに比べるとミミズサイズだろう。

 サンドワームは、投げ込まれたパンツを飲み込むと、そのまま砂漠の中に潜っていってしまった。


「な、何か前に見た時より大きくなってる……」

「うじょー!?」


 やばい、ハンマーとか弓じゃどうしようもないサイズだ。

 ハリウッドなら、これ相手にショットガンで挨拶というレベルだ。

 だが、まだ可能性はある。このオアシスを抜けて、他の廃墟となった街から武器を持ってくればいいのだ。

 そのために、俺はパンツを脱がなければならない。


「きゃっ!?」


 ズボンを下ろして、トランクスを露出させる。

 ルトは顔を手の平で隠しながらも、指の隙間からチラチラと見てくる。

 俺の動きが止まる。


「……」


 見つめ合う瞳と瞳。

 いや、あの……そんなに見られてると脱ぎにくいのですが。


「み、見ちゃおっかなー!」


 顔を赤らめながら開き直るルト。

 いや、その大胆さはルトさんと呼ぶべきか。


「……」


 俺は、ジッとルトの顔を見た後、そのままトランクスを下へズリ下ろそうとした。


「う、うそ! やっぱうそ! 見ないから、見ないから!」


 ルトはそのまま大急ぎで後ろを向いてしまった。

 勝ったな……。理性が、ああ……、と返事をしてくれた。

 トランクスを脱ぎ、ズボンを装備する。フルチンでズボンというのも、なかなか新鮮でいい。

 これから一週間に一回くらいフルチンズボンの日を作ろうか迷う。

 いや、社会の窓が開いていた場合は豚箱直行だ。

 危ないところだった。俺は理性的な人間……。


「てんせーしゃん、なんでそれ、頭にかぶってるの……?」

「……う」


 一度やってみたかった。

 俺は、頭に装備された相棒を取り去り、重りの石にくるんだ。

 そして、さっきと同じようにサンドワームの縄張りに投げ込む。

 これで反応しなければ、人間である俺の体臭には反応しないという事になって、安全に街まで行ける。


「あ、トランクス食べられた」


 ルトのパンツと同じ運命を辿った。

 つまり、俺がここに入り込めたのは、サンドワームは外側からの生き物に関しては襲ってこないという事だ。

 逆に、内部から出て行こうとすると問答無用で襲われる。

 もしかして昔、オアシスにいた人間はヘリで出入りしていたのかもしれない。

 現在は、オアシスに乗り物は無い、詰みだ。

 ……いや、まだサンドワームを倒せそうな物がある。


「じょっじょっじょ!」


 ハンマーはあれから何度試しても、うんともすんとも言わないが、アレがある。


「ど、どうしたの急に……」


 ルトはスカートを抑えながら、不安そうに聞いてきた。

 そういえば今、2人はノーパンだった。

 2人はノーパン……!

 可能性という名のスカートやズボンの向こう側にある奇跡。

 そうだ、俺はそういう光を獣人達に見せてあげたいのかもしれない。

 何か良い事を言えた気がする。後でノーパン部分だけ取り除いて生徒達に教えてやろう。

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