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 女神よ、わかるか?

 女の子に『ころしてください』と言われた気持ちが。

 この奥歯を噛みしめる気持ちが!

 

 どうしようもなく、とりとめようもなく溢れてくる衝動。

 自分でも操作できない、唐突すぎる感情に操られる。

 だが、それは理解できた。

 普段、煮え切らない俺は、身を任せたいとも思った。

 頭の中の、乱気流のようなソイツと一体になっていた。

 

 リスク? リターン? そんなちっぽけな思考は関係ねぇ。

 どうにかなったら俺が責任を取ってやる。

 だから、今、目の前にある黒い機械をハンマーでぶち壊す。


「よぉぉぉおおおおおおおおおおじょおおおおおおおおおおおおッッ!!」


 ただの鉄製のハンマーは、幼い女神を拘束している黒い機械に吸い込まれていく。

 だが、相手は硬い。一発目は弾かれ、二発目は手からハンマーが飛びそうになる。

 倒れそうになりながらも、その反動を使って全体重をハンマーに預ける。

 三発、四発、五発と滅茶苦茶に打ち付ける。

 目の前の機械に傷一つ付かなくても、ひたすら打ち付ける。

 出来る出来ないじゃない。目の前にいる女の子を助けるためだ。やるのだ。

 六発目。

 たまには自分を信じる。

 七発目。

 目の前の女の子を助けたい。

 八発目。

 意思の力。

 九発目。

 誰よりも強い願いを込めた一撃。

 十発目。

 手で触れている柄の部分が金色に輝き、それがハンマー部分にまで伝わって黄金色の鈍器となった。


「神のつち……?」


 俺のハンマーは、何の手応えも無く、女神を拘束していた黒い機械を削り取った。



 黒い機械は光を失い、拘束されていた幼き女神はゴロンと地面に放り出された。

 俺が持っていたハンマーも元に戻り、何の変哲も無い鈍器になってしまった。そこらへんから持ってきたが、何か特別なハンマーだったのだろうか……。


「あの、責任を取ってくれるって本当でしょうか?」

「よ、幼女?」


 いつの間にか幼き女神は、ちょこんと正座をしてこちらを見詰めていた。

 もう拘束されていた時のような毒気は抜かれ、あどけなさと神々しさが同居するアルカイックスマイルを浮かべている。

 あれ? 今の俺って、ようじょ以外喋ってないはずだけど……。


「あ、すみません。あまりに強い心の声だったので聞こえてしまいました」

「う……!?」


 やばいまずい。恥ずかしい。いや、その前に犯罪チックな事も若干考えてしまっていた。

 あれ? これ俺もしかして不敬とかで死ぬんじゃね? 死ぬならピンヒールのカカトで死にたい……。


「え、えっと……そのご期待には添いかねます。とにかく、助かりました。ありがとうございます、地球の転生者さん」

「よ!」


 いえいえ!

 何か普通に話せるって新鮮だ! 女神様に向かって変な事は考えられないけど……。


「あ、ボクは男神です」

「よ、幼女……」

「幼女じゃないですね」

「うじょー!?」


 確かによく見てみれば美しい顔立ちだが、男の子に見えない事も無い。なんてこった……。

 あああああああああ!!

 なんてこったあああああ!!


「あ、あの……そんなにショックですか……。一応、外見くらいは自由に変えられますが」

「じょ!」


 いえ、お構いなく!


「なぜか、ボクの性別を勘違いしたらしく、変に伝わってしまっていたらしいですね」


 つまり、女神の呪いにかかった男達は男神を信仰して童貞のまま……恐ろしい。

 あれ、そういえば女神の呪いって何だったんだろう。


「私は日々、この星を見守ってきました。人間の善事も悪事も。そんな時、2人の黒い転生者が現れたのです」


 転生者って俺以外にもいたのか……そりゃいるか。


「彼らは、ボクをさっきの黒い機械で拘束し、どこかへ去っていきました。残されたボクは、人間達に研究され尽くされました。自分達の勢力のみに富をもたらせという馬鹿な願いを否定し続けていたら、この機械を使って頭の中をいじくられて……」


 いい、もういいです。

 俺は気付いていた。

 幼き神は、ずっと人間を見守り続けてきた。

 我が子を見守るかのようにずっとだ。

 そう、この星の人間達は、我が子と変わらなかった。きっとそうだろう。

 だから気付いてしまう。


「無理やり……」


 言わなくていいです。

 床にポタポタと落ちている。


「人間を……」


 悪いのはあなたじゃない。

 だってあなたは、私達のために泣いてくれている。


「うっ……うぅ……」


 幼き神は、ボロボロと涙を流して、嗚咽をあげて泣いていた。

 悲痛、苦痛、嫌悪、憎悪、全て自分のせいと感じて悔いているのが痛い程わかった。

 心優しき神は、そんな事をしたくはなかったのだ。

 俺は、その小さな身体をただ抱きしめた。

 これで女の子だったらなぁ、と考えたら、脇腹を小突かれてしまった。

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