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 どうやら俺の名前は『てんせーしゃん』になったらしい。

 ルトから言われると、その可愛さに身悶えしてしまうが、割とごつい大人からも言われ始めてしまった。

 今も、道ですれ違ったリアルタイガーマスクみたいな相手から。


「てんせーしゃん! いつもありがとうな! 今度、礼として俺を使ってくれや!」

「……う」


 色々と俺が危ない。色々と危ない。二回言ってしまう程に。

 獣人達は、自分達の長所短所をキチンとわかっていて、肉体派の獣人は身体を使う事に誇りを持っていた。もちろん労働で、だ。変な意味はない。

 だからこんな感じなのだろう。

 何も不思議はない……うん……。

 厚い胸板を突き出して主張してくるのも何も不思議ではない。

 ルトの柔らかそうなおぱーいを突き出されたい。

 もっとも、俺なんかが本当に村人から好かれているなんて事はないだろう。


 前の世界で悟った。

 転生者なんて所詮、能力だけの存在としてありがたがられているのだ。

 俺の知識を与えきったら、きっといつもの俺として扱われる。

 ただのフリーター。ただの能力者。

 だが、そうなっても仕方が無いとわかっている。

 今は、生きてる事を喜ばれた。たったそれだけの事を嬉しく思い、彼らのために尽力するだけで満足だ。

 それに、ルトから聞いた話から、この世界の事に興味が沸いてきた。

 女神の呪い。

 地球にいる、あの女神がやった事なのか。それも確かめたい。

 後は、この村の外にいるというサンドワームもどうにかしなくちゃな。

 俺は襲われなかったから、たぶん人間が、狩猟動物や性奴隷扱いしていた獣人達だけを逃がさないために配置していたものだろう。

 この村だけで生活していては、いずれ種族が滅んでしまう。


 最近、文字や知識を得たいという村人が増えてきて、空いていた大きな遺跡の一つを使って教室を開いていた。

 ここは大きなエントランスホールがあるのに、その奥への扉はロックされている。

 まぁ教室に使えるくらいの都合の良い空間があるから、他は気にしないのだが。


「てんせーしゃんちゃん、外にはもっと色々な遺跡があるって本当?」

「じょ!」


 多数いる生徒の内、いつかのハーピー嬢が元気に質問をしてきた。

 遺跡──それは一見ただのコンクリート作りの建物だが、水工場のように稼働させると壁面にうっすら光るラインが入る。

 航空機の衝突防止灯のようなものか、進んだ科学のSF的な特殊効果があるのかはわからない。

 だが、住居の壁と違って、数十年以上は経過してるはずなのに傷一つ無かった。

 水工場といい、外で見てきたオーバーテクノロジーといい、この世界の科学は魔法の領域に達しているのかもしれない。


『はい。水工場のように、様々な物を作る工場や、技術者を養成するための遺跡などもあります』


 俺は、パソコンを使ってハーピー嬢に返事をしていた。

 言語自体は女神からもらったチートでどうにかなるが、キーボードらしきものから文字を入力するのは配置も違うので面倒臭い。


「へ~。いつか行ってみたいなぁ」


 昔、俺が通っていた学校の教室の数倍はありそうなフロア。

 そこに他の遺跡で補完されていたパソコン数十台を設置し、希望する村人達に授業をしている。

 最初から言葉は出来ていたので、文字を教えるのは簡単だった。まだ書けない子もいるが、読むのは差し障りがない。

 そこから最低限のパソコン操作を教えて、覚えた者を先生役として仕立て上げる。

 そんな事を数ヶ月も繰り返している内に、俺が直接教えなくても自習で大体の事は知識を吸収してくれていた。

 むしろ、平均的な人間より優秀といっても過言ではない。

 ここに残されていた研究データからして、獣人は遺伝子操作で生み出された人工生命体らしい。

 そして、法で抑圧された上流階級の汚い捌け口として一カ所で隠蔽され、獣として飼われていた。

 飛べないように作られたハーピーを銃で撃ち、狩猟もどきを楽しんでいたり、ルトのような猫獣人をペットとして扱ったりと反吐が出る報告の類が山ほど見付かった。

 人間のやり方を知っている親世代はともかく、子世代が知ったらショックを受けるだろう。俺が最初警戒されていたのも当たり前だ。


「てんせーしゃん先生。結局、女神の呪いって何だったの?」

「ようーじょ……」


 女神の呪い、そっちの方は相変わらず進展が無かった。だが獣人の方は、この場所に設置されていたスタンドアローンの機器から情報を引き出すことが出来たのだ。

 同じように隠蔽されている可能性が高い。


「てんせーしゃん、ちょっといいかの?」

「よ、よーじょ!」


 手を上げたのは、この村の最古参である長老だ。データによると初期ロットの狼獣人。

 もっとも、今は貫禄を携えた小さな老犬といった体をしている。

 ……狼にゃくニャンにょ、もとい老若男女からこの呼び名はやはりきつい。


「何かの偶然かもしれんが、この遺跡の事を人間は『神の封じられた場所』と言っていた」

「じょ!?」

「まぁ、人間がまともだった大昔に聞いた……気がする程度じゃがな」


* * * * * * * *


 偶然だろうか? いや、むしろ女神の使いとしての俺が、そっちに引き寄せられたのかもしれない。

 こんな砂漠のど真ん中、隠蔽するには持ってこいだったので、ついでに獣人の施設も一緒だったのだろう。

 今頃、あの女神がどや顔してそうなのがイラッとしてしまう。

 この村に入った時から持参していた小型爆薬と、そこらへんの遺跡で拾ったハンマー、村長が遺品として補完していたIDカードらしきもの数枚を持って『神の封じられた場所』へ向かった。

 もし、あそこを爆破する事になってもパソコンは別の場所へ移しておいたし、現時刻は夜中なので人的被害も出ないだろう。

 居候しているルトの家から、ちゃんとこっそり抜け出してきた。完璧だ。


「よっ!」


 昼は教室だったが、今は薄暗いエントランスホール。現代だと、高級マンションが廃墟になったらこんな感じになるのだろうか。

 IDカードの束から権限が一番高そうなレベルファイブを選んで、開かずの扉の前にある端末にかざす。

 非接触でIDカードを感知し、甲高い電子音の後に扉が開く。

 フワッとした空気の流れと共に、ホコリっぽさと薬品臭さが漂ってくる。


「う……」


 死臭は無かった。床を這いずった跡のような上に白骨死体が転がっているのに。

 観察すると、医者が着るような白衣を身につけていた。ここの職員だろうか。

 一瞬、中に女神の呪いが残っていた場合は大丈夫なのか? と思ったが、今までの体調を見ると転生時のチートで作られたこの身体は平気だろう。たぶん……。

 もし、この白骨死体の仲間入りしてしまったら、後で女神に文句を言ってやろう。


 現代の研究施設と病院を併せたような遺跡内部を見て回った。

 地獄だった。

 過去に行われていた痕跡は、肉体を傷付けずに精神だけを破壊する方法。

 おぞましいレポート、ホルマリン漬けの獣人達。

 俺は勘違いしていた。

 獣人が上流階級に遊ばれていたのはついでだったのだ。

 大量の人体実験のあまりだった。


「うう……」


 村人達の姿とかぶり、思わず胃の中の物を戻してしまった。

 さすがに、次はもうちょっと楽しげな異世界に送ってもらえるように女神に頼もう。

 最初の世界で魔法無双して、無血で大陸を制覇した時が一番楽しかったかもしれない。ホモ世界だったけど。

 そんな気の滅入りそうな現状を、軽い現実逃避でバランスを取る。

 弱い人間だなぁ俺……、と自虐しながら前に進み続ける。

 薬品臭さに鼻がやられてきた。

 幻覚作用があるのかわからないが、何か気配を感じるようになってきた。

 いるとしたら獣人達の怨霊か、ドッキリでしたとプラカードを持っている女神だろうか。

 そして、一番強く気配を感じる場所。

 最後の扉を開けた。


「幼女……?」


 そこには、幼い少女が機械に拘束されていた。

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