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「おぉ、ついにアレが見られるのか」
いつの間にかセコンドにいるでっかい角と翼の悪魔。
誰だこれ。
「無限の腕輪と、縦横無尽の獣の姉妹! その一振りは山をも砕き、敵を選ばず一撃必殺! 巨人達──いや、巨人の王をも恐怖させ、世界蛇ですら打ち払った神の鎚!」
何か解説を始めている。
というか、なんでルニルがリングに上がってきているんだ?
いや、俺が呼んだのか……? 何か色々とおかしい。
「天性様、私をお使いください」
俺の前に跪き、その手を差し出すルニル。
何だ? 俺はどうしたらいいんだ……。
「くはは! ようやく自分を思い出したのかルニル! その力、人への復讐のために頂くぞ!」
ロギが猛スピードで突っ込んできて、ルニルの手を握りしめる。
すると、ルニルの手は白熱化する程に熱量を上げた。
「ぐあぁ!? この野火のロギ以上の熱──エーテルだと!?」
ロギは急いでルニルから離れ、片手を辛そうに押さえている。
これって、俺も掴めば大変な事になったという事では……。
「天性様、その御手にヤールングローヴィ──金色のエーテルを纏ってください」
金色のあれか……?
俺は残り少ないであろうエーテルを右手に集中させ、心許ない金のグローブを作りだした。
俺はルニルを信じ、差し出された手を握りしめた。
不思議と熱くない。
懐かしく、握り心地の良い柄……。
あれ、柄?
「このミョルニル、天性様に一生お仕え致します」
いつの間にかルニルは、金色のハンマーへと姿を変えていた。
形はT字型で、サイズは俺の身長くらいだろうか。
複雑な曲線を幾重にも組み合わせた模様が彫金されており、そのいくつかのラインが幻想的な光を発している。
それは神の武器であり、芸術品でもあった。
だが、重い。
「あの、ルニル……いや、ミョルニル。重くて持ち上がらないんだけど」
「何を仰います。もう天性様は全ての要素を持っておられるじゃないですか」
持っている? 力が上がるチートなんて女神様からもらっていたっけ……。
今の俺が使えるのは頼りない魔法と、一週間は餓死しない程度の身体、それに今使っている右手が金色になる……何とかグローヴィとか呼んでたな。
それだけしかチートはもらっていない。
「てんせーしゃん! 女神様から伝言! 力が強くなるベルトを出せるようにしておいたから使え、って!」
セコンドのルトが力一杯叫び伝えてくる。
そんなのがあったのか……? 今までのパターンと違って唐突すぎる気もする。
ベルトって、腰に巻くベルトだよな。
いまいち、ぶっつけ本番過ぎてイメージが沸かない。
「おのれ……転生者……ミョルニルをよこせ」
憎悪の炎のような声が聞こえてくる。
ロギは待ってくれないらしい。
まずい、まずいぞ。
このままだと、無関係なセコンドにいる悪魔や、ルト、フーリン、観客達まで被害が出かねない。
早く何とかしないと……。
くそっ! 特撮の悪役とかは変身前は待機してくれるだろ!?
……特撮。
「そうか、特撮」
特撮のヒーローと言えばベルトだ。
あれがあるとパワーアップする。
イメージは掴めた!
(その時、不思議な事が起こった! 転生者の身体が、怒りの叫びと共にバイオ転生者へと変身したのである!)
自分ナレーションは恥ずかしい。
「うおおおぉぉ! 出ろザンライザー!」
「あ、天性様。力の帯──メギンギョルドです」
「わ、わかっていますわ」
だが、俺の腰の部分に黄金のベルトが出現してくれた。
こちらもミョルニルに負けず劣らず美しい装飾が施されている。
版権取って売れば高そうだが、残念ながら変身用の回転パーツは付いていなかった。
「お、持ち上がる」
力の帯──メギンギョルドを装着した途端、巨大なミョルニルを軽々と持ち上げられるようになった。
不思議と足首への負担も無いし、床の接地面も何とも無い。
もしかして『力』というより、重『力』操作なのではないだろうか。
エーテルというのは、こうも簡単に物理法則を無視してしまうものなのか。
「ミョルニル。ロギを殺さずに止める事は出来るかしら?」
「はい、天性様の仰せのままに」
俺はそれを聞いて安心した。
あんなのでも、死ぬと悲しむ人がいるからな。
「僕を馬鹿にして……お前は何なんだ転生者ァーッ!!」
ロギが火の鳥となって突っ込んでくるのが見える。
さっきまでの俺なら念仏を唱えていただろうが、不思議と今は落ち着いている。
春風吹く草原で寝転んでいるような安心感だ。
「エーテルは私に蓄積されているものを使います」
「うん、調節は頼んだ」
手に持つ粉砕するものを軽く振る。
ただそれだけで終わった。
「負けて、負けてなるものかああああああ」
一振りによって、突如ロギの頭上に発生した衝撃波は、雷のような稲光と轟音を発しながら奴を地面へと叩き付けた。
「負けん……人類を滅ぼすまで負けん……あの人を奪った奴ら……」
ロギが倒れた中心から、放射状にクレーターが出来ていた。
奴はその中で譫言のように、ただ呟いていた。
「ロギは場外。ミョルニルは武器の持ち込み。これで、この私──レイジョの勝ちね」
沸き上がる歓声。
今、長かったパティ・スリーが終わったのである。
やっとおわっ──殺せ。
まだ終わってない殺せ。
力、得たんだろう?
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。
神すら打ち砕くミョルニルを振るえ。




