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死んでもめげない異世界紀行 ~ドSな女神様のせいで大体死亡オチ~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
簡単なりきり悪役令嬢セットの世界

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 ルトが語っていた強さの基準、天上の階位(ヒエラルキア)

 下級第三位──素手の人間や、ゴブリン。

 下級第二位──中世レベルの武装した人間、オーク、牙や爪を持つ強めの野生動物。

 下級第一位──魔法やアイテムで強化された熟練の冒険者や、魔法使い。ゴーレムやリッチ。


 中級第三位──人外の強さ。エーテルをある程度使えると、この段階になる事が多い。ルト本人がここに位置するらしい。

 中級第二位。

 中級第一位。


 上級第三位──神々の領域。

 上級第二位。

 上級第一位。

 俺はまた牢屋の中で起床した。

 昨日の菓子食い勝負はどうなったんだろう……。

 そして、今日も食事はこない。

 これは完璧に忘れられているパターンか?



 ……昼になっても状況は変わらず。



 ……夜になっても状況は変わらず。

 鉄格子付きの窓で、今の時間が大体でもわかるのが救いだろうか。

 現時刻は夜だ。

 大雑把に夜だ。

 夜、うん夜だ。

 さすがに閉じ込められ続けて疲れてきた。

 何か、こう、変化でも起きればなぁ。


「ん? 夜なのに明るい……」


 その明るさ、太陽の物ではなかった。

 森の方からの燃え上がるような光源で、一緒に煙も上がっている。

 ついでに、大勢の怒号のようなものまで微かに聞こえてくる。


「大規模な戦闘でも起こっているのか……?」


 ルトが巻き込まれていない事を祈ろう。

 いくら強いからといって、真っ正面からでは武装した数人と戦うのが精一杯みたいな事を言っていた。

 年齢的にもまだまだ子供だ。

 あんな戦闘に巻き込まれたら一溜まりもないだろう。


「……ルト、どうしてるかなぁ」


* * * * * * * *


 あたし──ルトは2000の軍勢、数百人の冒険者、中級第三位のドラゴン数体と戦っていた。

 どうしてこうなったんだっけ。

 確か、あれは数時間前の事──。




 今日もてんせーしゃん探しに走り回るも、一向に手がかりは得られなかった。

 聞き込みもいくつかそれらしいものに当たったのだが、女神像を壊してびびっていたとか、ぬいぐるみを抱えた少女とイチャイチャしていたりとか、犬のフンを踏んでいたとかである。

 肝心のどこへ行ったかがわからない。

 とりあえず、てんせーしゃんを見付けたら、イチャイチャしていたというのを問い詰める事にしよう。

 ……そのために絶対、見付けてやるんだから。

 この巨大な街は冒険者や行商人が多く、人の動きはかなり流動的だ。

 一日経つだけで、もう聞き込みは難しくなってくる。

 そんな中──。


「ああ、レイジョ様なら城へ行ったみたいだぜ」


 という情報が入った。それも複数。

 昨日までは全く手に入らなかった情報が、沸いて出たように数ヶ所から得られる。

 以前のあたしなら手放しで大喜びだろうが、てんせーしゃんに口を酸っぱくして言われていた事がある。

 うまい話には裏がある。

 自分の望み通りに行っている時こそ警戒しろ、と。

 さすが、てんせーしゃんである。

 だが、罠なら敵対している相手に行き着くだろう。

 ついでにクレープ王子に話を聞きたいのもある。

 罠は踏み抜けば問題無い。

 あたしは城へ向かった。


 辿り着いた時には日が傾きかけていて、もう夕暮れ時近くになっていた。

 門番に素性を明かし、クレープ王子に会いたいと伝えた。

 その後、しばらく待つとクレープ王子のお付きだという者が現れた。


「ようこそ、ルト様。クレープ王子は森で狩りをしています。私も向かうところなので一緒に参りましょう」


 今から森に向かうと、到着する頃には夜になっているだろう。

 夜の森は危険だ。そんな中で王子が嗜みで狩りなんてするだろうか?

 それに普段なら気にも止めないが、彼は狩りのお供としては腰の剣以外に暗器を隠しすぎだった。

 サーコートの上からわかる投げナイフ数本、チャクラム、エーテルの込められた使い捨てのマジックアイテム。

 それにチェインメイルとは別に音でわかる、拘束用の太い鎖。

 汗に混じって緊張と自責の臭いが伝わってくる。


「わかりました。案内お願いしますね」


 あたしには分かっていた。

 距離は離れているが、既に城付近の森から大人数の気配が漂っている事を。

 数百、いや、数千だろうか。

 本当は嫌だが、アレを使う用意をしておいた方がいいかもしれない。

 森へ近付くにつれて、予想は確証へと変わっていった。

 離れていたり、隠れていたりはするが冒険者達までいるらしい。

 その独特のむき出しの殺気や、上等なマジックアイテムのエーテルで判断が出来る。

 そして、到着した暗い森の中で護衛に囲まれて一人の男が立っていた。

 妙に恰幅がよく、高級な貴族服を着ているのに表情は釣り合わずにだらけている。


「よくぞ参った、ルトとやら」


 偉そうな喋り。

 もちろん、クレープ王子ではない。


「余は第二王子の──」

「レイジョ様──てんせーしゃんはどこ?」


 面倒臭いから遮ってしまった。

 彼の名前も、何をしたいのかも興味が無い。


「ぶ、無礼であるぞ! この方は──」

「それで、てんせーしゃんはどこ?」


 あたしはイライラしていた。

 てんせーしゃんがいれば間違いなく止めるパターンだろう。

 だけど、今は誰も止める人間がいない。


「所詮、魔王城からの客人と言っても獣か! 言葉すら解さぬとは!」


 さっきから、護衛らしき騎士達が何か言っている。


「よいよい。きっと全て説明してやらぬと分からぬのであろう」


 にやつく第二王子。

 あたしは本当に興味が無い。


「偶然にも、付近の砦から訓練で2個大隊──兵士2000人が戻ってきて、数百人の冒険者と実践形式の訓練をする事になっていてな」


 護衛の兵士達から笑いが起きる。

 何がおかしいのだろう。


「そこへ偶然、第一王子と関わりがある魔王城の客人が乱入してきて死亡してきてしまったという事だ。その後で魔王へのケジメとして、第一王子を処罰せねばならぬだろう」

「その筋書きでは、あたしが死ぬらしいけど?」

「我が方に下れば、他のやり方を考えてやってもよいぞ」


 何のメリットがあるのだろう。

 心底わからないし退屈だ。

 ついつい暇つぶしで耳や尻尾を触ってしまう。

 今日の毛並みはなかなか良い。


「ルトとやら、なかなか良い身体をしておるな。余にペットとして飼われる事を光栄に思うであろう?」


 そうか、こいつらは敵対したいのか。

 初めて理解したかもしれない。

 たったこれっぽっちの戦力で挑もうとしているらしい。

 そんな事に気が付けなんて、お互いの認識的に絶対無理である。


「丁重にお断りします」

「メイド風情が……調子に乗りおって! いくら魔王城から来たといえ、この人数相手にはなぶり殺しになるだけだろう! くくく……攻城用のドラゴンまで連れてきているのだぞ」


 面倒臭いが、あたしは戦力計算をした。

 下級第二位程度の兵士が2000人。

 下級第二位と第一位混じりの冒険者が数百人。

 中級第三位のドラゴンが3体。

 んー、下級第三位の一般人換算だと、40000人くらいの戦力かな。


「生かして捕らえた場合は兵士全員に分け与えてやろうぞ。余は分かっている王になるのだからな!」


 一斉に篝火がたかれ、たった一人相手に円周状で全包囲状態。

 人のシルエットが魔物のように伸び、夜の森に蠢きながら不気味に広がっている。

 何か冒険者達が、ヒャッハーとかも言っている。テンション上がりすぎだと思う。


「矢や魔法は使うなよ! 顔が分からなくなったら首を差し出せないからな!」


 大量の土煙を巻き上げながら、少しずつ包囲を狭めてくる。

 割と統率が取れているのを見ると、魔法か何かで全体図を共有でもしているのだろうか。

 いつの間にか第二王子の姿が無かった。

 戦いに巻き込まれないように逃げたのだろう。


「一番槍は、この百鬼絶影のリバーサイド・リングだ! その首もらったぁー!」


 最初に案内してきた自称お付きの方が背後から迫ってくる。

 後ろからでも無駄なのに。


「まいったな……今はあの子の武器しか持ってないや」


 やりすぎたらてんせーしゃんに色々言われそうなので、怪我をさせないように力加減をしないといけない。

 いちいち相手を無力化する消耗品の暗器を使っていたら、手持ちはいくらあっても足りないだろう。

 仕方ない、面倒だけど怪我一つ負わせず気絶のみで2000人、その他と戦わなければいけないようだ。


「え~い……」


 あたしはやる気無く、軽く掌底を当てると同時にエーテルを放出した。

 相手は吹き飛び、上手く脳震盪を起こして気絶してくれた。

 それを皮切りに四方八方から兵士、冒険者が弾丸の様に突っ込んでくる。

 同時に襲ってくる限界である数人の攻撃を全てかわし、ひとりひとり気を付けながら気絶させる。

 想像以上に難易度が高い。

 相手の動きは止まって見えているのと同じなので絶対に食らわないし、食らったとしても蚊に刺されたよりダメージが少ないのだが、問題は相手の無力化だ。

 吹っ飛ぶ場所によっては大怪我をさせてしまいそうになる。


「なかなか片付かないではないか! ええい、ドラゴンを出せドラゴンを!」

「し、しかしアレは魔王ベルゼビュートから和平の証と送られてきた虎の子……、しかも今のタイミングだと周りの兵士達まで!」

「兵の命など投げ捨てるものであろう?」

「アレ一匹で、この国を全滅させかけたモンスターの王ですよ!? メイドの死体まで消し炭になります!」

「もう知らん! いいから出せ! 無能な兵も、凶暴なメイドもいらん!」


 何かひどい怒号が耳に届く。

 なまじ耳が良いから、こういう事まで聞こえてきてしまう。

 あーやだやだ。

 やっぱり、命令されるなら思いやりのあるてんせーしゃんみたいな相手が良い。

 どこか抜けてるところや、弱いところがあってもフォローをしたくなるような相手。

 あ~、てんせーしゃんどうしてるかなぁ。会いたいな~。


「あのメイドは諦めるが……。だが、レイジョをはべらせて早く楽しみたいのだ! いつもすましている、あの顔を苦痛で歪めてやってだなぁ……ヒヒ」

「わ、わかりました!」


 てんせーしゃんの顔を苦痛で歪める?

 あたしにはそう聞こえてしまった。

 頭の中で何かがブチキレタ。


「契約に従い戦え! ドラゴンよ!」

「ひ、ひぃ。まだ俺達兵士がいるのにドラゴンを出しやがった!?」


 テイマーらしき風貌の男が、鞭のようなものを振りかざすと背後の森が揺れた。

 それは地響きと共に天へ飛び上がり、その鋼鉄にも負けない強度の皮膚に包まれた巨体を現した。

 大きな背中の翼、鋭い爪、凶悪な表情をしながら牙で威嚇する伝説上の生き物。

 王者の種族、ドラゴンである。

 それが三体同時に出現したのだ。


「……お前らにてんせーしゃんの何が分かる」


 深く、冷たい水底のような感情が広がっていく。

 人には絶対に踏み込んではいけない領域がある。

 それをくだらない理由で波風を立てられ、汚い土足で踏みにじられたのだ。

 たぶん今のあたしは、てんせーしゃんに怒られてしまうような表情をしているだろう。

 自分でもわかる。沸き上がる怒りで視界が狭まってしまっている。

 でも、少し……そう、少しだけお仕置きするだけで気分は晴れるだろう。

 そう、少しだけなら……いいよね!?


 あたし用の武器が手元に無い。

 仕方なく、落ちていた木の枝を拾う。

 何の変哲も無い、樹木から折れ落ちた葉っぱ付きの木の枝。

 それにエーテルを込めて片手で振るう。

 高速飛翔する見えないもや


「グギャアアアア」


 3体のドラゴンの断末魔が響き、真っ二つになった巨体から臓物や血しぶきが雨になって降り注ぐ。

 グロい……あたしは後悔した。

 さすがにこれを見ると若干、冷静になってしまう。


「ルーン文字も刻まれていない、ただの木の枝じゃ加減がわからないや」


 さっきまで戦勝ムードだった周りは、打って変わって静まりかえってしまった。

 急にどうしたのだろう。

 もしかして、本当に勝てる気でいたのだろうか。

 再び冷たい感情がどんどん深みを増していく。


「馬鹿な……中級第三位のドラゴン3体を一撃だと!? あのメイドは中級第三位以上だとでも言うのか……。いや、今の一撃で力を使い果たしたかもしれん!」


 どうしよう、まだやる気だ。

 さすがに何も知らない兵士さんを殺す気はしないし、逃げると寝てる時に起こされそうだし……。

 第二王子とか心底どうでもいいし……早く終わらせて、てんせーしゃん捜索に戻りたい。

 でも、あたしがひとりひとり気絶させていくと夜が明けてしまうかもしれない。


「あーもー!」


 さすがにストレスが貯まりすぎた。

 思い知らせるために一瞬、全員殺してやろう。


「プラノ、後は頼んだ。モード……サムライ」


 文字通りモードは切り替わった。

 ボクは、久しぶりに身体の権利を受け取ったのだ。

 ポニーテールを止めていた髪留めを外し、それを両手で握った。

 手の中の髪留めは光へと変化し、美しい直刀へと形状を固定させた。

 肉厚な白刃で、長さはボクの身長を超えている。

 冷たい心と、冷たい刀。

 ボクはその一体感が好きだ。

 次の一太刀で数百人を斬り殺……おっと、ダメでしたね。

 そのためにこっちになったんです。


「全く、ボクに面倒臭い事を押し付けるんですから」


 ボクは美しい直刀を縦に持ち、眼前に構える。

 それにエーテルを注ぎ込み、ちょっとだけお願いをする。


布都御魂ふつのみたまよ、生有る者の生を奪い、生無き者を維持せよ」


 美しい直刀──布都御魂から強烈な光が広がった。

 そして、立っているのは自分1人になった。

 死屍累々。

 敵対する二千人以上は全員、一瞬にして死亡したのだ。

 傷一つ無く、布都御魂に魂だけを吸い取られていた。


「ねぇ……。君達、死んだ気分はどうですか?」


 刀の中に吸い込まれた魂達へ話しかける。

 あ、でも頭悪そうな第二王子に通じるのかな? あれはオークの類かもしれない。


「ボク達は、一瞬で君達を全滅させる事ができる。理解しましたか?」


 刀の中の魂達は怯えきっていた。

 全く、お互いに最初から避ければいい戦いなのに。

 ボクは布都御魂に念じ、全ての魂を元の場所へ解放した。

 死体となっていた身体も、ちゃんと支障ないように維持していたので後遺症は大丈夫だろう。


「はぁ……本当に妹使いが荒い姉ですよね~……。あの人に嫌われたくないからって自分の武器も持ち歩かず、強さも嘘を吐いてたりとか何なんですかね……」


 そういえば、あの人を侮辱されてルトお姉ちゃんは怒っていたな。


「ルトお姉ちゃん、あの第二王子どうするんですか? ……え? 本当にそれやらないといけないんですか……嫌だなぁ」


 リクエストなのでしょうがない。

 ボクは、名も知らない第二王子の股間に向けて足を上げ、ブーツのカカトで狙いを定めて──。

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