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死んでもめげない異世界紀行 ~ドSな女神様のせいで大体死亡オチ~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
簡単なりきり悪役令嬢セットの世界

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 身体の接触によるエーテルの補給。

 これは前から考えていた事だった。

 だが、ルトにボディタッチしても効果は無し。

 粘膜による接触はどうだろう、と考えるも実行には移せなかった。

 12歳の子に出来るか、んなもん!

 

 後は、ミトラ君の時のように神の強力なエーテルが充満しているような環境か、全く嬉しくない粘膜接触……溶けかけによるエーテル補給。

 どうするかなー、と考えていた時に、ヒントとチャンスが舞い込んできた。

 ようするに、もうやけくそでエリにキスをしたのだ。

 結果としては心を許していたらしいのでエーテルが補充できた。

 もちろん、こんな俺と口付けだ。

 逆上して殺されるという死亡フラグも想定していなかったわけではない。

 エリの仲間になるという選択肢を排除したため、本当に他に手がなかった。


「もうちょっと非情になれば、死亡フラグを減らせていたのかもなぁ」


 俺は、つい独り言を呟いてしまう。

 サンドワームの時も、非情に成り切れていれば助けなくても良かったケースだ。

 獣人を餌に自分だけ逃げ出すという作戦を立てられなくもなかった。

 フーリンの時もそうだっけ。

 そもそも、最初に鋼鉄の幼女を助けなければ女神に目を付けられる事も無かった。

 なぜ女神は、こんな非効率な俺を選んだのだろう。

 女神は何者なんだ。

 ……いや、よそう。考えても仕方が無い事だ。

 今は、ここから脱出する事を優先しよう。


「風よ……」


 両手が自由になった今、左手から出したカッター状の風刃を使えば鉄格子など……。

 左手を見る。

 指先には、ちょっと長めのつけ爪サイズの何かが見えた。

 ……おかしい。昔に使っていた時は大剣から塔サイズまで自由自在だったはずだ。

 い、いや。もしかしたら凝縮されて一点集中型みたいな強化かもしれない。うん、きっとそうだ。

 俺は、ていやっ、と鉄格子に向かって左手を振ってみる。

 見事に空振り。

 射程が短すぎて距離が把握しにくい。

 もう一度、今度は腕を伸ばして……風刃の一撃!


「つぅ!?」


 今度は近すぎて、左手自体が鉄格子とぶつかった。

 すごく地味に痛い。タンスの角に足の小指をぶつけるやつの、手の小指版だ。

 痛みが治まるまで、患部を必死にさすりながらうずくまった。


「おかしい、おかしいぞ……エーテルさえ戻ればチート無双的な立ち位置じゃなかったのか……」


 気を取り直して三度目の正直。

 ……にならなかった。

 鉄格子と、ミニサイズの風刃が接触した瞬間、俺の指先のエーテルは霧散した。

 床、壁にも試したがそんな結果になった。

 そうだった、ここは魔法使いが普通にいる世界。

 牢獄も対策がなされているだろう……。

 火、水、風、土全てが駄目だった。

 鉄格子の間を通すことすら出来ない。


「だめだ……脱出できない」


 一瞬、絶望仕掛けたが、まだ何とかなるだろう。

 少なくとも、俺をパティ・スリーが終わるまでは生かすつもりだ。

 つまり食事を運んでくる。

 その時に……この究極四大元素魔法をマスターした俺の……マスターしてた俺の……マスターしていたけど爪先威力になった俺の力で脱出だ!

 と言っても、もう菓子食い勝負は明日だ。

 さすがにそれまでに脱出できるとは楽観もしていない。

 牢屋の中で暇だし、最終戦の決闘に備えて色々と考えておかなければ。

 最強の対巨人の切り札となる、ルニルを巡る戦い……。


「あれ? そういえば、エリに異性を魅了するチートが効いていたという事は……」


 今までに無い悪寒がぞわりと身体中を走った。


* * * * * * * *


 私、フロランタン・ルニルは愛してしまったのです。

 絶対に釣り合わない身分のレイジョ様──いえ、天性様を!

 それは最高の出会いだった。

 絶対に許されないであろう無礼をしてしまった私を、天性様は一言で許してくれた。

 そして、最初はゴブリン扱いされていたが、最後はこんな私を人間扱いしてくれた。

 名前を呼ぶことを許してくれた。

 親しい間柄じゃないと呼ぶことが出来ないその御名……。

 私は、天性様から離れた後、身も心も震えてしばらく動けなかった。

 後で床掃除をするのが大変だった。


 だけど、この気持ちは隠さなければいけない。 

 昔から私はこうなのだ。

 記憶を失って、田舎の村で生活しだした時も……。

 領主の息子に一方的に一目惚れした後、面倒に思われて無理やり売られてしまったのだ。

 ちょっと家に忍び込んで、彼が使っていた生活用品を1年分コレクションしていただけなのに。


 唯一の友達であったフーリンは、私をかばって一緒に売られてしまった。

 その事だけが悔いとなった。

 もう、この愛情は二度と咲かせまいと思った。

 領主の息子への未練も無くなったので、コレクションしておいた数点を証拠として使い、賄賂や人身売買の証拠を国に送っておいた。

 風の噂では、親子共々死んだらしい。特に興味は無かった。


 話を戻そう。

 天性様。

 そう天性様だ! 愛しい愛しい天性様!

 信じられない事に、いつの間にか私が、この売られた身分である私が、なぜか遠国の王子を天性様と取り合うというパティ・スリーなるものが発生していた。

 なぜ最高を具現化したであろう天性様がいるのに、どこかの王子程度に構わなければいけないのだろうか? あのロギというやつ、殺してやろうか。

 いえ、でも天性様が勝負を受けたという事は何か理由があるはず。

 天性様が望むのなら、私の純潔なんていくらでも犬畜生に食わせましょう。むしろ言われたいです。嗚呼、天性様天性様天性様天性様天性様。


 そんな私を、自分の所有物扱いしてくれるなんて……もう天性様無しでは生きていけないじゃないですか。

 あの時は嬉しくて数秒間、立ちながら気を失ってしまいました。

 現実だとわかった瞬間、脳や顔の血管が興奮で破裂した音も聞こえました。

 たぶん顔が真っ赤になっていた事でしょう。

 さすがに顔の穴という穴から血が流れるのを見せるわけにはいけないので、失礼にもその場を走り去ってしまいました……。

 直後に心臓が破裂して、その掃除が大変でした。

 気付かれたくない、私の気持ち、私の体質……。

 だけど……だけど、ルトさんにだけは隠せませんでした。

 こんな私の事を知っても、あたし達は似たようなものだから、と軽く流してくれました。

 彼女には敵いません。だから、私は二番で良いのです。

 天性様の愛が一片でも受け取れるのなら、順位は関係無いのです。

 ですが、そんな私に天性様は──。


 後日、パティ・スリーでフーリンが殺されてしまうという話を聞きました。

 彼女は大事な友達です。

 私は悩みました。

 悩みましたが、売られた身分の私達では誰にも頼る事ができなかったのです。

 そんな私に優しくしてくれる天性様がおかしいのです! 嗚呼、天性様……。

 その天性様に、私は恐れ多くも甘え、頼み事をしてしまったのです。

 

『ご、ご機嫌麗しゅう、天性様。恐れ多い事ですが、今日はお願いがあって参りました』

『ふんっ、この私にお願い? 百年早いのではなくて?』

 

 私はその代償として、その後に死ぬ事を考えていました。こんなちっぽけな命では足りませんが、他に何もないので……。


『私の友であるハーピーを助けてください! か、彼女は! ずっと一緒にいて、私が落ち込んだ時は慰めてくれたり! おいしいクッキーを焼いてくれたり! それから、それから──』

『もしかして、今度の狩猟に使われるという……』

『……はい』

『ほう、この私にハーピーを助けろと? あなたのご友人だからという理由だけで?』

『は、はい』


 そして、あろう事か天性様のお気を患わせてしまいました。


『あはは、馬鹿な子ね!』

『……っ』

『ふん、いい気味。泣きなさい、もっと泣きなさい。そして無力を呪いなさい!』


 それはそうですよね。天性様はフーリンを殺す事によって勝利を得る事が出来るのですから。


『いえ、すみませんでした……。レイジョ様に御迷惑をかける事になるところでした……』


 もう私に、天性様の友、所有物でいる資格もありませんでした。

 

『では、失礼致します……』


 死んで詫びようと思い、部屋を出て行こうとすると──。

 

『無様で! 無残で! 無策で! 無価値なルニル! 貴女が一番嫌いな人間から手を差し伸べられて、屈辱に歪む顔を見るのもいいわね!』


 天性様は全てお見通しだったのか、私とフーリンを助けてくれると仰いました。

 その時、気が付きました。

 今までの愛と呼んでいたものは、感じていたものは全て薄っぺらなまやかし。

 この瞬間、天性様から感じられるモノこそが真なる愛だと。

 私は、本物の恋に落ち、本物の愛を受け取ったのです。


 天性様愛しています愛します愛してます愛してる愛をください愛し合いましょう愛の言葉愛人敬愛愛して愛を一緒に愛を集め愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。

 胸が愛でいっぱいというのは、きっとこういう気持ちを表すのでしょう!


 そしてパティ・スリーの一試合目の当日。

 私は全く緊張していませんでした。

 母なる海にたゆたうような安心感があったからです。

 天性様が助けてくださるというのなら、それはもう大丈夫なのです。

 私が出来るのは、メイドの格好で給仕をするくらいです。

 いつものように、天性様が私に死ねと命令してくれないかな~とニコニコ妄想している間に勝負は終わっていました。

 愛くるしく、凛々しく、深い愛をお持ちの天性様は今日も最高だった。

 今度、私も天性様のお菓子になりたいものです。

 私の○○○○(これはただのまるです)を天性様にお召し上がりになってもらって、○○(いみのないまる)で喉を潤し、まだ動いている新鮮な○○(ただのまるですよ)を……。

 おっと、いけない。

 こんなのだからフーリンとルトさんからも、愛が重いと言われるのだ。

 天性様のご迷惑にならないようにしなければ……。

 気を取り直して、いつものように背後に密着するかしないかの距離で天性様を見詰めていると──。


『る、ルト。俺って格好良いか?』

『格好良いというか、可愛い?』

『ぐあああああああ女の身がにくいいいいいいいいいいいい』


 突然、天性様の雄々しい叫びが聞こえてきて、新しい一面を知った嬉しさで卒倒してしまいました。


『ま、まぁルニル、いたの? あまりに自然すぎて気が付かなかったわ』


 そんな私を、自然だとお褒めになられ、その御手を差し出してくださいました。

 私程度が触れていいものか……でも、でも、でも、このままというのも失礼。

 そう、そうなのだ。天性様に失礼になるので私は御手を取るのだ。

 ハァハァハァハァハァハァハァハァ。

 心臓が急激に動き出す。

 危ない、これは天性様と触れ合ってしまったら内蔵の何割を破裂させる事になるか。

 でも、目の前には、ハァハァ、あの天性様の、ハァハァ、お美しく、ハァハァ、力強く、ハァハァ、万能を司る御手があるのだ。

 その魅力には勝てない。

 宇宙に逆らう事ができるか? できない。

 当たり前の事である。

 銀河と、1つの流星が接触するが如く、レースの手袋越しではあるが宇宙の真理が発生した。

 私の身体の中を変質させるフレアが飛び散り、ブラックホールとホワイトホールが発生し、ビッグバンが駆け巡った。

 即2割の内蔵が持って行かれた。

 耳からの血を誤魔化すために、顔の角度を調節する。

 この身体の痙攣っぷりから、たぶんもうちょっとしたら5割は持って行かれるだろう。

 それまでに天性様から離れなければいけない。


 だが、急に身体を引き寄せられて、眼前には天性様が。

 密着。

 そんな単語を天性様で想像した事は無かった。


『し、失礼します!』


 本当に失礼だ。私はすぐその場から逃げ出してしまった。

 天性様の視界から逃れた瞬間、身体が幸せな破裂音を発して内蔵の9割が持って行かれていた。

 しばらくは動けないだろうが、幸せな痛みを感じながら絶頂の顔を晒してしまっていた。

 後で血溜まりに沈む私を見付けたルトさんが、着替えなどを持ってきてくれた。

 あの時に察してくれていたらしい。

 本当にルトさんには頭が上がらない。


* * * * * * * *


「る、ルニルちゃん……ルニルちゃ~ん」


 ルトさんの声が聞こえた。

 それによって現実へ引き戻される。


「あ。は、はい!」

「てんせーしゃんが帰ってこないからって、ベッドを血で汚すのはちょっと……」

「はっ!?」


 私はいつの間にか、天性様の寝室のベッドにいた。

 その香りを嗅ぎながら鼻血と耳血と吐血を撒き散らしていたらしい。


「ご、ごめんなさい! 今すぐシーツを取り替えます!」

「は、はは……手伝うよ……。それにしてもてんせーしゃん遅いなぁ」


 そういえば、もう夜だというのに館にお姿がない。

 いったい、どうしたのだろう。

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