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死んでもめげない異世界紀行 ~ドSな女神様のせいで大体死亡オチ~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
簡単なりきり悪役令嬢セットの世界

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20

 唐突にエリの告白タイムが始まった。


「そ、そりゃ最初に見た時はパッとしない男と思ったわよ……」


 前の世界では、初対面からそんな事を言われた気がする。


「で、でも……次に出会った時は何か凛々しくなっていて……」


 女体化して凛々しくなるってどういう状況。

 俺は真顔で聞いていた。

 だっておかしいだろう。

 俺は今、女だぞ?

 なぜ女が女からモテる。

 誰か三百字以内で感想文を提出しなさい、転生教授が採点してあげるから。


「き、極めつけはあのハーピーを助けた所! あれはどうしろっていうのよ! どうやって敵として憎めっていうのよ!」


 エリは涙目になりながら感極まっているが、これは恋のパワーというやつなのだろうか。

 若干、流されそうになる俺。落ち着け俺。

 ええと、あそこで本格的に好きになったという事ですか。

 ヤンデレから愛されて二度目の殺害をされそうになり、敵と思っていた娘に惚れられる……何だろうこの展開。

 違和感しかない。

 もしかして今回のチート……男女関係無く、周りを全員恋愛脳にするというものなのか? 女神が言っていた異性にモテモテというのも、今の俺は、男でもあり女でもあるわけだし……。

 いや、全員ではないか。ルニルには嫌われっぱなしだ。

 まだまだ謎のチートだ。


「ちょ、ちょっと待って欲しい」

「ふぇ?」


 この話の流れのままいくとアウトだ。

 やばい選択を迫られかねない。

 とりあえず、話を遮ってでもこちらの知りたい状況を仕入れておこう。


「もっとエリの事を知ってからにしたいんだ」

「う、うん……」


 こんな感じでいいのだろうか。イケメン的に喋るのは非常に難しい。

 女の子に好意を寄せられて冷静になれというのも、エロい事を言わないようにするというのも不屈の精神がなければ出来ない。

 スリーサイズを知りたい! とか言いたくなるがグッと我慢だ。


「スリーサイ……じゃなかった。エリは、どうして転生者になったんだ?」

「私は……昔、人に酷い目にあわされたの。私を助けてくれなかった人、私を殺した人、その環境を作った全ての人を憎みながら死んだ。そこを転生で蘇らせられたの」

「誰が蘇らせた?」

「……巨人族」


 なるほど、神と敵対するのは巨人か。

 どっかの神話とかで、そんな感じだった気がする。


「辛い事を話させてごめん」

「ううん、私は……私達は覚悟してるから。絶対的に悪い人間だから。だからこそ、人間に対して復讐できる権利があるの」


 私……達? ロギも似たような感じなのか。


「それで、どうして俺達はルニルを巡ってやり合っているんだ?」

「あなた……本当に何も聞かされていなかったのね」

「はは……うちの女神様は性格が最悪で……」

「苦労してそうね。フロランタン・ルニルは、巨人に対する最強の武器らしいわよ」

「武器? 何かルニルに秘められた能力でもあるのか? ちょっと力持ちで、軽い治癒魔法しか使えないけど」

「さぁね。神と巨人は、この地の魔王に配慮しつつ、ルニルを仲間に取り入れる事を目論んでいるのよ」

「だから、こんな遠回りに争っていたのか」

「滑稽な私達を見て楽しんでいるのかもね。あいつらは」


 何もかも達観したようなエリ。

 過去にどんな悲惨な経験をし、ここまで歩んできたのだろうか。

 ……いや、本人も覚悟してこうなったのだろう。

 ミトラ君を封印したり、獣人の村を巻き添えにしたりと、そう許せるものではない。

 あれ、何か違和感がある。


「そういえば、エリが転生者になったのはいつ?」

「数年前ね」


 ……この答えに嘘がなければ、ミトラ君を封印した年代と合わない。

 あれは少なくとも数十年くらい前の事だ。

 あと聞きたい事は──。


「ねぇ、転生者」


 エリに先手をとられた。


「あ、あの……その……私達の側へこない?」


 予想はしていた。

 引き抜きだ。

 もちろん、この返事にオーケーを出して、仲間になったフリをした方が有利だ。

 そして、頃合いを見計らって裏切る。

 相手は悪人だ。

 これくらいやっても心は痛まないだろう。

 それなら答えは決まっている。


「エリ……」


 ……だけど、本当にそれでいいのか?

 彼女は、今は誠実に接してくれている。

 たぶん、たぶんだけど彼女は一度人に裏切られた。

 そのせいで転生者になった。

 それを再び、人である俺が踏みにじろうとしている。

 人に裏切られた辛さは知っている。

 そして、その心の傷を癒してくれた娘も知っている。

 俺は──。


「悪い、エリに嘘を吐くことはしたくない。俺は、ルトが16歳になるまでは側にいて守ってあげないといけないんだ」

「……ふ、ふん! 冗談に決まってるでしょ! 誰があんた何か……あんたなんか……あんたなんか!!」

 

 俺は、ルトに顔向け出来る人間でいたい。

 エリから平手打ちを食らった。

 人生で一番痛い一発だったかもしれない。


「っ!?」


 俺は、平手打ちのために近寄ったエリの顔を睨み付けてから、そのまま近付いた。

 口付けだ。

 エリの唇は温かく、柔らかく、俺が今まで触れてきたどんなものより魅力を感じた。

 お互い、一瞬身体をこわばらせたが、自然と力が抜けて受け入れ合った。

 数十秒後、何かに気が付いたようにエリが急いで離れる。


「な、ななななななな!?」


 顔が真っ赤になり、動転している様が丸わかりだ。

 ……たぶん、俺も似たようなものだろう。


「ファーストキスなのよ!? それを、断ったあなたがなんで!?」

「キスしてくれるって約束だったろ。良い女に約束を破らせたりはしないさ」


 演技とは言え我ながら恥ずかしすぎて憤死しそうなセリフだ。実際、死にたい。

 だが、もうやりきるしかない。


「俺も初めてなんだ、キス」

「あ、あああ……」


 エリは後ずさり、どこか分からないが逃げようとする。

 だが、ここは牢獄。すぐ壁に当たってしまう。


「も、もう帰る!!」


 ポケットから何かを取り出し、淡い光に包まれてエリは消えてしまった。


「ああ、恥ずかしかった。さてと、博打だったけどどうかな……」


 俺は内心、エリに謝りつつ気を集中させた。

 指先から風の魔法を刃のように放出し、腕を拘束している縄を断ち切った。

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