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死んでもめげない異世界紀行 ~ドSな女神様のせいで大体死亡オチ~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
簡単なりきり悪役令嬢セットの世界

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 こちらが、頭にずだ袋を被せられて、運搬されてきた悪役レイジョ様でございます。

 ……俺でございます。

 結構な距離を運ばれたらしい。

 振動や音からして、荷車か何かに乗せられてきた感じだ。その後に歩かされている。

 そして今はどこか。

 見えないんだから、どこかとしかわからない。

 ちょっと恐いけど聞いてみるか。


「ふん、このレイジョをどこへ連れて行くつもりかしら? 獣のような本能に任せて、犯罪的な行為でもするつもり?」

「それも見物ね」


 え、エリの返答がやばい。

 ヤブからスティーック!

 いや、藪を突いてヘビを出すだ。誤用はいけない。


「あら、藪からスネークだったわね」

「どこの独特な喋りの芸人よ……」


 とりあえず分かった事がある。

 エリは日本人だ。

 4444が縁起悪いとか普通知らないだろう。

 それに今のピンポイントな返答。

 前も似たような感じで違和感があった。

 ロギが同じ様な可能性もある。

 ……それにしても、こんな内容で相手の正体を掴んでもいいのだろうか。

 もっと、何か、こう……一騎打ちに勝って格好良く聞く的な。


「はぁ~あ……」


 俺は、ついつい落胆した気持ちが口に出てしまった。


「転生者、余裕があるのはそこまでよ!」


 エリの声が聞こえた瞬間、俺の視界が開けた。

 頭のずだ袋が取られたのだ。

 目に映るのは、暗い牢獄。

 硬い石の地面と壁に、鉄格子、簡易的なトイレやベッド。

 一応、外が見える窓がある……、だが高所にあって鉄格子もセットだ。

 そんな同じ様な牢屋がいくつか見えるが、生きている者は俺だけだった。

 無言の先客はいくつか落ちていたが、静かに永眠させたままにしておいてやろう。


「どう? 転生者、あなたはここでパティ・スリーが終わるまで閉じ込められて死ぬのよ」

「そっか~」


 俺は驚くほどに心に余裕があった。

 さっきまでは得体の知れない相手だったが、今はただの地球からの転生者相手だ。

 幽霊の正体見たり枯れ尾花、というやつだ。

 それにエリ以外いないのなら、もうレイジョ様口調で話さなくても良い。


「それで、日本人のエリはどうして転生者になってこんな事をしているんだ?」

「……え? どうしてそれを」

「俺は何でもお見通しだ」


 と、まだまだ手札のカードがあるブラフをするのもいいだろう。

 だが。


「というのは冗談で、エリの反応が日本独自の事を知りすぎていたから気が付いた」


 自分は手札をさらけ出しました、というアピールで対話の流れへ持っていくのもいい。


「ええっ!? 何か日本独自の事なんて喋ったかしら……」

「4444とか、カタカナ交じりの芸人言葉とか、その他諸々」

「世界共通じゃなかったの……?」


 こいつ馬鹿だ。

 前の勝負の空回り感もこれだったのか。


「ラー大柴は日本人だぞ」

「……そんな」


 一応、会話的には対等な立場に立つことが出来た……のか?

 色々と必死に準備してきていたが、軽く死にたくなってきた。


「転生者。今回の罠は、どこから気が付いていたの?」


 最初は、女神像を壊してからの不運の連続でビクビクだったが、あの二姫とかいうヌイグルミを抱えた少女と出会ったら冷静になってしまった。

 その後の事がすべて胡散臭く見えて気が付いたのだ。

 

 だが、そんな事を正直に言う必要もない。

 もう会話の立場も気にする必要もないし、最初に手札を晒すような事をしたので相手の信頼も得ただろう。敵対しているのに信頼とはおかしな話だから、人質と犯人の信頼関係的な何かなのか。


「最初からだよ」

「じゃ、じゃあ私が館に忍び込んで靴紐に細工してたら、物凄い殺気を感じて逃げ帰ってきた事も……」


 物凄い殺気……なんだろう。とりあえず知っているフリで通そう。


「ああ」

「世界一まずいというアレが入荷されたという情報を流した事も……」


 ……ものすごい勢いで釣られたな、俺。

 ロギに最悪の菓子モドキを食わせるという欲求には勝てなかったよ。  


「もちろん」

「その店の周辺にオープン記念を吹き込んだり……」


 すごい地味に工作してたんだな。


「フォーチュンクッキーのレシピ教えて、文面を一生懸命考えたのも……」


 あの中二病臭い文面……。


「必死にカラスを捕まえたり、マタタビで黒猫たちを誘導したのも……」


 何か微笑ましくなってきたぞ。


「我慢して犬のお尻の前で待機して、くっ!」


 やっぱり可哀想になってきた。

 何かフォローでも入れてやろう。

 今にも泣き出しそうだし。


「エリの占い服姿は様になっていたぞ。ビシッと決まっていて騙された」

「え、そう? ……まぁ、そうでしょうね!」


 エリは急に得意げな顔になり、割と大きい胸を突き出してエッヘンとポーズを取った。

 ぐぬぬ、縛られていなかったら触り……たくても度胸はない。


「あの店にあったの、サイズが小さいのしか無かったから苦労したわ!」

「……それであんなにピッチピチに」

「何か言った?」

「いいえ」


 カメラさえあったら、と俺は心底思った。


「でも、私の変装は完璧でも、内容がバレていたのなら仕方が無いわね……さすがに一点の曇りもなく作戦を立てるのは難しいわ」

「そ、そうだね」


 まぁ、それなりに相手に満足感を与えただろう。

 今なら、いくつか質問しても答えてくれるかもしれない。


「でも、どうして転生者──あなたはワザと捕まったの?」


 誘導した、相手に抱かせる疑問。これを待っていた。

 そうだ、相手の策略を知っていて、ワザと飛び込んできた理由が気にならないはずない。

 俺はそういう風に思われているのだ。

 本当はロギに嫌がらせしたい衝動と、不幸の女神像と、エリのダイナマイトバディに冷静さを奪われていたとか言えない。


 これも最初に相手を動揺させる事が出来たからだ。

 ありがとう、ラー大柴!


「お前の事をもっと知りたいからだ」


 黒の転生者2人の事を知る事ができれば、今後の対応も決めやすいだろう。

 孫子曰く、黒の転生者を知り己を知れば百戦殆からず!


「え、ちょっと……そんな急に……」


 返ってきたエリの甘い声。

 あれ? 反応が変だぞ?

 俺の想定では、ゲゥッバッバッバ……交渉に乗り込んでくるとは肝っ玉と睾丸の大きい男よ、的なアレだ。

 そういえば、占いをしていたエリもおかしかったような。

 死亡フラグになっていない事を祈ろう。

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