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「天命占い喫茶……」
そんな名前の店が、俺の目の前にあった。
あの後ビラを渡されて、美人な客引きさんに引っ張られたのだ。
確かに、おみくじには天命を知る者がどうのこうのと書いてあった。
だが、さすがに胡散臭すぎる気がする。
大体、城下町での用事も済んだし帰って休みたい。
この身体は妙に肩が凝るのだ。
「え、えっと、私は興味がないので……」
「え~、レイジョ様ぁ~。一生懸命占いますからウィッチ~」
ウィッチって何だ! 語尾に付けるもんじゃねーだろ!
この露出度が異常に高い魔女コスの客引きが!
そんな見え見えの手に引っかかる奴なんかいねーよ!!
「ま、まぁそこまで言うのなら、ちょっとくらいはいいですわよ!」
……肌色には勝てなかったよ。
俺は、客引きに腕をガッツリと掴まれ、その胸の感触を楽しんだ。
店内に引きずり込まれると、そこはアキバのコスプレ喫茶を思い出す場所だった。
設置されてる装飾品は中世風だが、店員達は様々なバリエーションの魔法系職業コス。
いや、ここは魔法が実際にある異世界なのだから、本職の服なのかもしれない。
とんがり帽子に足下まであるマント。
そして胴部分は軽装、肌色が多め。
胸の谷間が見えている子もいる。
スカートからチラチラ見える太股も素晴らしい。
ああ、魔法詠唱の邪魔にならないための薄着理論さんアリガトウ!
「それじゃあ、14へ進んでください~。ピッチピチの新人ちゃんが占ってくれま~す。あ、ウィッチ」
「わかりましたわ」
って、あれ? 14へ進む……?
何か、その数字に進むと死亡確定になるという伝説があったような……。
「こ、ここかしら……」
頭上に案内板があるため、その場所はすぐ分かった。
君は……もとい、俺は14へ進んだ。
対面式のテーブル、奥には1人の女性が座っていた。
「ようこそ。本日のお悩みは……ふむふむ、なるほど」
いや、まだ何も言ってないが。
とりあえず、そのまま席に座った。
占い師らしき女性は、黒いフードで顔を隠しており、どんな人物かは分からなかった。
だが、パッツンパッツンの魔女服を着ており、そのボディラインとこぼれんばかりの胸の素性は分かった。
うん、胸の素性が分かれば平気だろう。
E……いや、アンダーも考慮するとFか?
重要なところだ、占ってもらうのもいいかもしれない。
「何か、良くない事が立て続けに起こっていますね?」
「いえ、今は最高な事が起こってますわ」
「ふぇ?」
意表を突かれてあげた声は、占い師風の冷静な声では無かった。
素の声は意外と可愛い。
「え、えと……靴紐が切れたりとか、13階段で4444人目だったり、カラスとか黒猫に襲撃されたり、合わせ鏡を見たり……。あ、あとその、う、う……」
「う?」
「……ウンコを踏んだりとか」
聞こえるか聞こえないかくらいの小声だ。
言うのがちょっと恥ずかしかったのだろうか。
俺も昔は、学校で言うのが恥ずかしかったな。
いや、そうじゃない。
何故、そこまで詳細に知っているのだろう。
それに、縁起が悪い事ってこの世界でも共通なのか? そこまで異世界同士の交流で伝わっているものなのか?
俺は、そこらへんを問いただしてみる事にした。
「聞こえなかったわ。もう一度仰ってくださらない。……最後の!」
「ひぇ!? あ、あの……その……う、ううううう!?」
何かに目覚めそうだ。
何歳になっても、新しい事に目覚める事は良い事だと思う。
どんな場所でも学ぶことは出来るのだ。
「と、とにかく! 次は身体の中でよくない事が起きるかもしれません! つまり、お医者さんに行くといいでしょう! 絶対に当たりますから!」
「ほほう。では、その絶対が外れた場合はどうしてくださるのかしら?」
「そ、それはその……」
「ふんふん?」
フードから見える顔半分が真っ赤に染まり、全身をプルプルと震わせている。
なかなか可愛い反応だ。
これなら、この占い喫茶は繁盛するだろう。
「き、キスでも何でもしてあげるわよ!」
なぜそうなる。
意味が分からない。
大体、今は女同士だぞ。
あ、あれか!
女同士のフレンドリーなキッス。
そうか、そういうのあるよな!
うん!
うん、そうだ!
はは!
俺の思考はマッハとなった。
「ちょっと医者へ行ってきますわ」
この流れに何もおかしな所は無かった。
* * * * * * * *
数十分後。
俺は、ドクターダックワーズに縛られ、荒い鼻息をかけられていた。
この流れは、何もかもおかしな所だらけだった。




