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死んでもめげない異世界紀行 ~ドSな女神様のせいで大体死亡オチ~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
簡単なりきり悪役令嬢セットの世界

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10

「というわけで、パティ・スリーの内容を確認したいと思う」

「うん、わかった!」


 いつものレイジョ寝室。

 ルトの機嫌は直っていた。

 正確には、レイジョ命令で最高級の菓子を取りそろえ、6時間くらいぶっ通しで褒め倒したり、トランプで負けゲー接待した成果だ。

 チョロッ……くない。

 俺はゲッソリとし、ルトは上機嫌でお肌つやつやだ。

 そもそも、ルトがなぜ不機嫌になったのかすら分からなかった。

 まぁいい、気を取り直してロギ対策だ。


「勝負内容は三つ、狩猟、菓子食い競争、決闘。で先に二勝した方が勝ちでいいんだよな? 引き分けの時は、観客による判定を仰ぐ。お互い、試合以外は直接手を出さない」

「うん」

「狩猟は、ハーピーをどちらが早く狩るかの勝負……」


 ハーピー、それは獣人の村にもいた種族。

 鳥翼を腕に持ち、脚も鳥っぽい。

 それ以外は、ほぼ人間。

 それを殺すというのは抵抗がある。しかもルトの前でだ。


「てんせーしゃん、そんな顔しないで」


 どうやら顔に出てしまっていたらしい。

 気を遣うどころか、気を遣われてしまった。

 我ながら情けない。


「うーむ……どうにかしたいのは山々だが。どうしたもんかな」

「何があっても味方だから大丈夫!」


 ルール的に、ハーピーを殺さなければ絶対に勝利は無い。

 残酷な選択肢だが、覚悟しなければいけないのかもしれない。


「菓子食い競争、これは早食いと大食いしつつ、優雅さを競うという、この国らしい競技だな」

「そうだねー。この国──プチフールはお菓子が重要視されてて、菓子職人の地位も高いし」

「菓子を征する者は国を征す、そう言われる程だからなぁ」


 といっても、現国王が本当に菓子職人という事は無い。例えだ、例え。


「最後は決闘。これはシンプルだ。武器の途中持ち替え有りで一対一。戦闘不能か場外、降参させた方が勝ち。殺しは事故以外、御法度。大体は審査員の印象が悪くなって敗北以上の不名誉になる」

「うーん、ロギと一対一は辛いと思う。あたしが代わってあげられればいいんだけど無理だよねぇ」

「全勝負、俺とロギの本人同士の戦い。代理は、棄権と一緒で失格扱いを受ける」

「うーんむむむ……」


 つまり、最後の決闘はロギの勝利確定である。

 消去法的に、狩猟と菓子食い競争で勝たなければいけない。

 菓子食い競争は、戦闘経験も関係無いので勝てる可能性は普通にあるだろう。

 問題は狩猟。

 いくら工夫がきくからといって、銃でも弓でも罠でも使いこなされたらアウトである。

 小手先の工夫ではなく、勝ちを確定させるくらいの何かを用意しなければいけない。


「とりあえず、狩猟を何とかしないとなぁ……」


 と、その時。

 コンコンと部屋の扉がノックされた。

 何だろう。誰も呼んではいないはずだ。


「ルニルちゃんだね」

「え、ルトが呼んだの?」

「いや、呼んでないよ。気配がルニルちゃんなの」


 俺が知っている気配というモノは、個人を識別したりは出来ない。

 ルトのスペックが恐ろしい程上がっていると実感してしまう。

 それに比べて俺は、未だにエーテル問題で過去チートを使うアレを再現できない。

 現在発動中のチートはいいとして、過去のチートは電池が抜かれたような状態にでもなっているのだろう。

 その電池であるエーテル、これがどうにもならない。

 そう都合良くエーテルが満ちていそうな場所というのも無い。

 あったとしても、またバケモノの腹の中じゃないと使えないとかは自爆技すぎる。


「ご、ご機嫌麗しゅう、天性様。恐れ多い事ですが、本日はお願いがあって参りました」


 ルトが開けた扉から、おずおずとルニルが入ってきていた。

 声が震えている事から、この前の事がよっぽど恐くてトラウマになってしまったのだろう。

 だが、レイジョ様は容赦しない! 本当にごめんよ!


「ふんっ、この私にお願い? 百年早いのではなくて?」

「はい……重々承知しております。ですが、友の命がかっているのです!」


 うっ、重い。話が非常に重い。さすがにこの状況までレイジョ様はやっていられない。


「よろしい、聞きましょう」

「あ、ありがとうございます!!」

「して、誰を助けたいのですか?」

「私の友であるハーピーを助けてください! か、彼女は! ずっと一緒にいて、私が落ち込んだ時は慰めてくれたり! おいしいクッキーを焼いてくれたり! それから、それから──」


 一気に捲し立て、必死に訴えるルニル。

 息も絶え絶えで見るに堪えない。


「もしかして、今度の狩猟に使われるという……」

「……はい」


 なるほど。

 ルニルと知り合いのハーピー。

 狩猟で殺せば、ルニルの好感度は激下がりというわけか。

 冷静に考えれば、ここでルニルの頼みを断るしかないだろう。

 万が一ロギに勝利されても、ほぼ確実にルニルがなびかなくなるし良い事ずくめだ。


「ほう、この私にハーピーを助けろと? あなたのご友人だからという理由だけで?」

「は、はい」


 可哀想に、俺が高圧的に物を言うから震えてしまっている。

 内容も内容だ。

 この先の展開も分かっているのだろう。

 純粋な願い。友のために悪役令嬢である俺に頭を下げている。


「あはは、馬鹿な子ね!」

「……っ」


 どっちにしろ俺は、元から好感度上げが不可能なほどルニルに嫌われていそうなのだ。

 ハーピーを助けて良い事なんて一つも無い。

 むしろハーピーを殺して勝たなければいけないし、負けてハーピーが死んでも得がある。


 チラッとルトを見たが、その表情は普段のままだ。

 村にもいた仲間の種族が殺されるのが嫌ではないのだろうか。

 そんな中、ルニルは泣き出してしまった。


「ふん、いい気味。泣きなさい、もっと泣きなさい。そして無力を呪いなさい!」


 俺はただひたすら罵倒する。

 そうしなければ、衝動に任せて言ってしまいそうだったからだ。

 言ってはいけない事を。 


「いえ、すみませんでした……。レイジョ様に御迷惑をかけるところでした……」


 ついには天性様ではなく、レイジョ様と名前で呼ばれてしまった。

 胸が痛い。

 どうしよう、どうすればいいんだろう。

 ルトに助けを求めようとするが、ただ普通の表情で見ているだけだ。


「では、失礼致します……」


 ルニルは、魂が抜けたようにフラッと扉から出て行こうとする。

 そうだ、それでいい。悪役令嬢なんかに助けを求めてはいけないのだ。

 悪い事が大好きな奴なんだ。

 だから俺は決めた。


「無様で! 無残で! 無策で! 無価値なルニル! 貴女が一番嫌いな人間から手を差し伸べられて、屈辱に歪む顔を見るのもいいわね!」


 ──ルニルを、ハーピーを助ける事に。

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