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「ええと、てんせーしゃん。未だに状況がわからないんだけど……」
「俺も半分わからん……」
レイジョ様の寝室。
俺は部屋の隅で体育座りをして、ルトは豪華なシルクの天蓋付きベッドに腰掛けている。
あの衝撃の決闘──パティ・スリーを申し込まれてから数日が経った。
話は瞬く間に広がり、今や国中がこの話題で持ちきりだ。
ようするに平和で暇なのだ。
それは良い事だが、1人の王子を取り合う、平民と貴族の女性2人という刺激的な脚色がされている。
「ロギが勝ったら、ルニルちゃんを奪うというのは何となくわかるよ? でも、てんせーしゃんが、ロギとくっつくってどういう事なの……」
「女になってる俺がルニルを取り合うわけにもいかないし、他の人間から見たら勝負が自然になる……というロギの考えじゃないかな。後は嫌がらせ……」
「あ~、確かにてんせーしゃんのテンションがすごく低い」
「そりゃ、嘘でも野郎を取り合うとか死にたくなる……」
俺は女の子が好きだ、おっぱいが好きだ、太股も良い、プルプル揺れる二の腕も捨てがたい、特に気に入っているのがポニーテールにした時に露出するうなじだ。
あの女神のせいでひっどいシチュエーションに投げ入れられているが、俺の女の子好きは決してブレない。
とか力説すると、ルトにどん引きされそうなので言わないでおこう。
「そうなんだ。てっきり男の人同士が恋愛するゲームみたいな感じになったのかと思った」
「え、あの、ちょっとルト……」
俺は小一時間、ポニーテールとうなじについて力説した。
……こんな事をしている場合ではなかった。
今回の決闘の意思確認も込めて、ルニルを部屋に呼んでおいたのだ。
時間的にもうすぐ来るだろう。
早くきてくれ……!
ルトが、何か知らないけど優しい目で見てくるのが辛い!
間が辛い!
その時、奇跡は訪れた。
扉がコンコンとノックされる。それは神の福音とも言える救いの手。
「ッシャ!」
俺は天に向かってガッツポーズ。
「てんせーしゃん……素が出てる」
「おっと、いかんいかん。わたっ、ワタクシ……私はレイジョ」
ルトはベッドから移動し、ゆっくりと扉を開ける。
「ようこそ、ルニルちゃん」
「あ、どうも。ルトさん。ご機嫌よう、天性様」
どうやら2人はいつの間にか仲良くなっていたようだ。
下働きであるルニルを、比較的役職の高い侍女であるルトが面倒でも見てあげているのだろうか。
「ようこそ、シンデレラさん」
「え、あの、私……」
「ふふ、貴女のガラスの靴をぶち壊してあげるわ」
何か俺、すごい悪い事言ってる。
いつもだけど、レイジョ様として話す時は内心謝り通しである。
生前もこんな感じだったらしいけど、もしかして恨みを持った誰かに殺されたんじゃないか。
「天性様のお邪魔になるなら、私は身を引きます!」
「何か勘違いしているようね。この私は、あの男を勝ち取った後に無様に振ってやりたいのよ。私のモノであるルニルに手を出そうとしているんですもの」
「そ、そんな……」
ルニルは、顔を真っ赤にして、震えてうつむいている。
可哀想に……無理もない。
イケメン達のフラグをことごとくへし折られ、今度は女の子誰もが憧れる王子様のフラグまでへし折られようとしているのだ。
しかも同性に所有物扱いされて。
まさに俺は、レイジョ様は悪役である。
性格聖人のミトラ君が助走を付けてぶん殴ってきてもおかしくないレベルだ。
「わ、私……私……ッ!」
ルニルは、突然泣き出して扉から出て行ってしまった。
「やっぱ、やりすぎだよなぁ……俺……」
「ううん、レイジョ様は元々あんな感じだったよ」
「そ、そうか……でも、今回の事の説明すら出来なかった。ルト、後は頼んでいいか?」
「ん、任せなさい。このあたしに出来る事は任せちゃいなさい!」
頼りになる娘である。そう思いながら、部屋を出て行くルトを見送った。
はずだった……。
数十分後、戻ってきたルトは仏頂面。
今までに無い程に不機嫌。
「あ、あのルト……どうしたの?」
「別に……べ~つ~に~!」
しばらく目すら合わせてくれなかった。
信じて送り出した妹のようなケモ耳メイドが……以下略。




