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アナザーワールドガイドブック後編

「なんだ、夢か」


 俺は現代世界に戻ってきていた。

 そう、さっきのはきっと夢だろう。

 大体、俺がホモ世界へ行ってホモ王になるなんて、いくらあの狂った女神でも……。

 ホッとしたのも束の間。


 日も落ちかけてきた交差点。

 ちらほらと近くの小学校から帰る児童達も見えてきた。

 俺は、あれデジャブか、と思いをふけらせながら、信号が青になったのを確認して道路を横断する。

 後ろから、一人の幼女が元気に走ってきて、道路の中央で転んでしまう。

 あ、これアカンやつや。

 現実逃避していたが、やはりこれはループしている。 


「逃げ出した方がいいよな……?」 


 すると突然……ではないが、速度が上がりすぎて騒音を撒き散らしているトラックが幼女へと向かっていく。


「幼女が……」


 さすがに二度目となると冷静だった。ここで助けたら俺は死亡コース。

 そして、転生か人生終了コースだろう。

 今回もトラックは一直線の弾丸レース状態。運転席の女は、にこやかに女神スマイルであった。

 あいつなら、間違いなくアクセル全開のままだろう。

 幼女には悪いが……。

 ……。


「幼女ー!」


 俺は、幼女をかばって死んだ。

 幼女を見捨てるなんて……できねーよ。


* * * * * * * *


「お久しぶりです、転生者さん」

「……」


 さっき、俺をにこやかにひき殺した気がする。

 転生者が最初に来る例の部屋だ。

 チリ一つ落ちてないのは、きっとレンタル方式で業者が掃除しているに違いない。


「さてと、次はどんな世界で、どんな特典チートを付けましょうか」


 大人のビデオでお馴染みのプールみたいなものなのだろう。きっと数々の神達、転生者達がお世話になってる部屋。

 運営してる側は結構儲けてるのではないだろうか。


「あの~、話聞いてます? おーい」


 何かを運営して儲ける、これは上でふんぞり返ってるだけで楽なのではないだろうか。


「ちょっとトラックのタイヤでミンチにしすぎちゃったかなぁ……。次からはもうちょっとソフトに殺した方が……」

「女神様! 俺、ダンジョン運営したいです!」

「よかった! 元々悪い凡人の頭がさらに悪くなっちゃったのかと思った!」


 酷い言われようだ。この糞女神、素は言葉攻めプレイ専門の夜の店で働いてるアレ的な人なんじゃないか?


「それじゃあ、ダンジョン運営に適した異世界でー……特典はどうしましょうか」

「あ、女の子がいる世界でお願いしますマジで。特典は……」


 強力な魔法だと、ダンジョン運営には向いていないだろう。

 何か運営向きのチート……。


「て、手の平から黄金を生み出せるチートで!」

「……さすが浅ましい転生者さん。はい! わかりました!」


 何か小声で浅ましいとか言われた気がする。否定しきれないところが庶民の悲しいところである。


* * * * * * * *


 ダンジョン運営。

 前回の魔法の力は無くなっていたし、意外と楽ではなかった。

 金を使って設備、人員を揃えたところまでは良かった。

 だが、所詮は経営をしたことのない一般人。

 フリーター程度のノウハウでは、異世界のダンジョン運営の難易度は高すぎた。


「てんせーしゃちょー、この設備の維持費高すぎて赤字っすー」

「そ、そうか……」

「あと、上級モンスターを含めた労働者から賃金アップ交渉もきてるっすー」


 この間、人手が足りなくて雇ったバイト君が報告をしてくる。

 落ち着いた雰囲気の丁度品でまとめられている社長室。

 高給革張りの椅子に深く座りながら、俺は嫌な汗を流していた。

 というか、ダンジョン運営を始めてから、ずっとそんな感じだ。


「こ、この黄金で赤字を埋めてね……」


 維持費、人件費、その他諸々で大赤字が続いていた。

 果ては付近のライバルダンジョン運営会社や、国同士のいざこざまで起きている。

 似た建築構造やモンスター配合があるといって、国外の大手ダンジョンアトラクション運営からも訴えられている。

 うちのメインダンジョンデザイナー自身は盗作をしていないと主張してるが、新人ダンジョンデザイナーの目が死んでいた。

 胃が痛い……。

 人の上に立つって……指示する立場ってきつい……。


「てんせーしゃちょー、もう国中に黄金が出回りすぎて価値が落ちてきてるっすよー」

「え?」

「知らないんすか、じゅよーときょーきゅーっすよ」


 黄金は価値有り続けるもの。永遠の輝き。

 そんな常識に囚われていた。

 だが、チート能力によって、それを打ち砕いてしまった。


「転生社長、役員会での決定事項をお伝え致します」


 グラマラスな秘書が話しかけてくる。

 社長にはエロい秘書と相場が決まっていたので、高給だが一番それっぽい女性を王族経由で雇った。

 有能そうに見えるが、そんなに有能ではない。大体の仕事はバイト君が代わりにやっている。


「といっても、もう伝えるの面倒なので、これ」


 一枚のペラい紙を差し出してきた。何やら外部向けの物らしい。


『拝啓、貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。

 平素は格別のご高配を賜り厚くお礼申し上げます。

 さて、私こと、

 このたび【転生社長】代表取締役社長を辞任いたしました。

 社長在任中は、公私ともに格別のご厚情を賜りまことにありがとうございました。

 厚くお礼申し上げます』


 途中まで読んで、思わず目玉が飛び出しそうになった。


「え、だって俺、ダンジョン運営の社長……」

「なお、新たな社長は、現副社長が」

「お、俺がダンジョンを作って……運営して……」

「大赤字ですね。無能な転生社長のために、副社長は苦労して根回しして、今後の再建を図るようです」

「ち、チートで黄金だって……」

「はい、転生社長には、地下室で黄金を生み出し続ける役職に就いてもらいます。……死ぬまで」


 転生先で有能な人物がいる場合、無能な転生者は能力だけの存在となった。

 ありがとう、異世界住人の副社長。これからダンジョンをよろしく、異世界住人の副社長。


「悪い、ちょっと最後にダンジョンの様子見てくる」


 俺は、『たのしいもーじゅーモンスターハウスゾーン』に全裸で飛び込んだ。

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