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どうしてこうなった。
俺はレイジョ様として、一国の王子様と婚約破棄した。
ここまで馬鹿な事をする女なんて、みんな呆れて近寄ってこなくなるだろう。そう思っていた。
だが、婚約破棄のニュースが流れた後、お友達からでも、デートしましょう、ラブレターといった俺とは縁の無かったはずのものが押し寄せてくる。
ようするに、フリーになってさらにモテモテになったのだ。
野郎達から……。
女の子が好きな俺のストレスは物凄いスピードで貯まっていく。マッハだ、マッハ!
しかも、そんなゴタゴタもあって、まだ目的の少女とは出会えていない。
とはいえ、例の男の方には、既に出会っていた。
いや、正確には──。
「なぁ、ルト」
「ん? てんせーしゃんどうしたの?」
レイジョ様の寝室。
唯一、俺の心が安らぐ場所だ。
ちょっと広すぎるから、部屋の隅っこに体育座りしているが。
「本当に、男一人じゃなくて、不特定多数の男なのか?」
「え、えへへ……読み間違えていました~」
ルトは、申し訳なさそうに視線を泳がせ、耳と尻尾がシュンと沈んでしまっている。
つまり今回、女神からの命令は、例の女の子と、他の男性誰ともくっつけるなというものだった。
俺がすべき事。
今の状況。
ここから導き出される答えは──。
「ええと、もしかして……野郎共を、俺が惹き付けておけばいいって事か?」
「ま、まぁそれが一番簡単かな!」
悪夢だ。
婚約破棄した事により、目的達成への道をいつの間にか突き進んでいた。
だが、俺の精神をガリガリと削る方向性。
ああ、女の子……女の子……。
俺は気が狂いそうだった。
「なぁ、ルト。俺の精神がやばいんだ。ちょっと協力してくれるか……?」
「ふぇ?」
ルトは目をまん丸にしながら、俺に引っ張られてベッドへと倒れ込んだ。
見つめ合う瞳と瞳。
お互いの吐息がかかる距離。
段々と熱を帯び──。
* * * * * * * *
俺は、緊張で縮こまっているルトの敏感な部分を優しく触る。
「んぅ」
微かに甘い吐息。
責めるような視線を向けてくるが、抵抗はしない。
「力を抜いて」
「う、うん」
いつもと違って弱々しく答えてくる。
やはりルトも女の子なのだ。
俺は、ルトの突起している先端を優しく撫でる。世界一美しい芸術品を扱うように。
「はっ、あっ」
「可愛いよ、ルト」
「恥ずかしい……」
俺はその声を聞いて、もう我慢の限界が近くなってきていた。
用意してあった、棒状の素材に突起を付けたモノを手に取った。
それをルトのアソコに押し当てるように動かす。
「それ、だめぇっ!」
「ふーん、どうダメなの? 言ってごらん」
「そんなのっ! 言えるはずっ、んんっ!?」
興奮に合わせて段々と、手を動かす速度を上げていく。
ルトは、シーツを噛んで声を押し殺している。
外に聞こえたら恥ずかしいのかも知れない。
だが、そこに扉をノックする音が聞こえる。
誰か部屋を訪ねてきたのだ。
「ふふ、ルト。こんな事してる声を誰かに聞こえたら大変だね」
「あっ、やっ、んぁっ!」
俺は意地悪したくなり、ルトに声を出させようと、手の動きに緩急を付ける。
アソコがプルプルと震えていて、とても可愛い。
「ほら、ルトのアソコ、もうこんな事になってる!」
「や、言わないで! んっ、ああ、もうダメぇ! やめてぇ! てんせーしゃん!」
俺達の声を異変と感じたのか、部屋の扉が開け放たれた。
そこには、一人の金髪の少女が立っていた。
呆然としながら一言。
「あ、あの……何をしているんですか?」
「ブラシで毛繕い」
* * * * * * * *
例の少女──フロランタン・ルニルとは最悪の出会いをしてしまった。
年の頃は中学生くらいだろうか。
この世界では比較的多いブロンドのショートボブで、それをシンプルな白いカチューシャで止めている。
小柄な身体を質素な服で包み、胸も器量も平均的。
乙女ゲーの無難なヒロインといった感じだ。
そんな普通の子が、こちらの行為を何かと勘違いしたらしく、顔を真っ赤にして視線を合わせてくれない。
俺はただ、野郎達との駆け引きのストレス解消に、ルトにモフモフさせてもらう事を約束して、実行していただけなのに。
どこをどうしたら勘違いするというのだ、全く。
それにルトに手を出すと、ルトパパから八つ裂きにされるし、本人からも指先一つで死亡オチへと導かれてしまうだろう。
エーテルの影響だか知らないが、ルトの身体能力は異常に高まっている。
戦闘力的に、悲しいかな俺がヒロインの状態だ。
「あ、あの……申し訳ありませんでした!」
「ふんっ、ウブな子ね。何と勘違いしていたのかしら?」
俺はレイジョ様プレイで会話を返す。いじめるような言い方でごめんよ~。
「え、あの……それは……その」
「まぁ、いいわ。それで何の用で、この私のプライベートルームに訪ねてきたのかしら? 私に興味がお有り?」
うっひょー、縮こまっちゃってルニルちゃん可愛いぜー。という本心は出せない。
キャラを崩しては、野郎達を惹き付けるという目的が達成出来ないし、股間の相棒も人質に取られている。
でも……嗚呼、普通の胸の大きさ、素朴な子というのもいいなぁ……。
とか、胸へ視線へやって顔を緩めたら、ルトの肘鉄が飛んできた。
「ごぶっ!?」
目に見えるかどうかの高速技。よっぽど動体視力が良い人間じゃないと誰も気付かないだろう。
結果、俺がただ一人で奇声を発した状態になった。
「ごぶ?」
「ご、ゴブリンのような卑しさね、貴方は。目下の者が自己紹介もせずだなんて」
レイジョ様はいつもクール。脇腹がすごい痛い。もしかしたら折れているかも知れない。
「あ!? そうでした。私はフロランタン・ルニルと申します! 新しく雇われて、ここで働かせてもらうことになったので挨拶をしにきたんです!」
「ふぅん、ゴブリンではないようね。私はレイジョ。気軽に呼んで頂戴」
「は、はい。レイジョ様!」
ルニルは、必要以上に深々と頭を下げた。
これは守ってあげたくなるタイプだ。
確かに俺が野郎共をブロックしなければ、誰かが立場を利用して18禁展開まっしぐらだろう。
むしろ俺がそうしたい。
乙女ゲーのヒロインって何故か可愛く見える、あると思います!
……チラッとルトを横目で見る。
垂直落下式ブレーンバスターを放ってきそうな可愛いジト目が見えたので、俺は我慢した。
「あ、ところで……てんせーしゃんとは誰でしょうか? 何かそう聞こえてきたのですが、ここにはルトさんとレイジョ様しかいませんよね?」
あ、まずい。




