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「え、えーっと……ルトだよな」
「うん!」
話を生理しよう、もとい整理しよう。
今は本当に生理できてしまう身体だから困る。
いつものように女神に騙されて、モロッコもビックリの性転換でどこかのお偉いさんな女性になってしまった。
場所は金持ちっぽい建物内で、そこにメイド姿のルトがいた。
俺の今回のチート能力は不明。
とりあえず、ルトが目の前にいるのだから、まずは本人から聞けることを聞いた方が早い。
「ルトはどうしてここに?」
「てんせーしゃんと同じ、転生者になったから!」
「え?」
俺は驚きと共に、誰かに聞かれたらまずいという事を思い出した。
だが、ここは広い部屋だが今は2人きりだ。
ルトがこの部屋を選んだという事は、俺達に取って都合の良い部屋なのだろう。
安心して話を続けよう。
「あ、正確には、身体はそのままだから、転移者というやつなのかな?」
「そ、そうなんだ」
ルトが性転換して男になっていたら、俺はショックで白目をむいてしまうだろう。
ほれほれ、とルトは肌を無邪気に見せて確認させようとしてきているが、そっちには実際白目をむいた。無垢なる悪魔というやつか……俺の色欲カモンッ!
じゃねぇ! 理性よ、理性よ降臨するのだ。
「転移者って、女神様にでも目を付けられてしまったのか……?」
あのクソビッチ女神の魔の手がルトにまで迫っている場合、それはきっとあんな事やこんな事でR18展開になってしまうだろう。それだけは避けなければ。
「ミトラ様に頼んで転移者にしてもらった!」
「ああ、ミトラ君なら安心か。って、何でミトラ君の事を知っているの!?」
それから俺は聞かされた。ストーキングの日々を。
「──というわけで日課になってる、てんせーしゃんのトイレを覗こうとしたら……」
「らめぇっ!」
どうやら、俺に全く気が付かれずに研究所内まで忍び込んでいたらしい。
そして、俺がミトラ君と別れた後に、直接話したのだという。
俺の力になりたいと。
泣ける、泣けるで……。なんて良い子や……。
「あ、そういえば、ルトパパの許しは得たの?」
ルトパパは怪我もしていたし、可愛い娘を俺なんかの所にやるのは相当に覚悟がいるだろう。
もし、ご両親に許可を取っていなかったら、俺が責任を持って送り返す事も考えなければ。
「うん。パパもママも、あたしの好きにしていいって言ってくれた」
「そっか。ご両親の許しを得てるなら、俺は何も言えないな」
それから数ヶ月間、目覚めたミトラ君と一緒に獣人達が世界の復興を進めたらしい。
順調に技術者の卵達も育ち始め、遠くない未来に遺跡の安定稼働も出来るだろうと。
ただでさえ優秀な獣人達と、復興まではという条件付きながらミトラ君という神が手を組んだのだ。そっちに不安はない。
「で、一息吐いたから、私は修業の最終調整も兼ねて地球にきたの!」
「ほへ~、って、数ヶ月経ったとか言ってなかったっけ」
「うん。あたしは数ヶ月間、転移者として修業してから、数ヶ月前の地球にきたの!」
「……もしかして、地球は時間がズレてる?」
考えてみれば、そうおかしな事でもないのかもしれない。
俺は何度も死んで、ループして時間を戻ってきている。
そんな場所の時間の感覚など当てには出来ない。
「うーん、転移とか転生とかで時間がズレる事はあるらしいけど、地球は特殊な状態だとか何とか……ミトラ君も、女神様も何か言ってたけど難しくてわからなかった!」
「女神……女神って、地球の?」
「うん」
あのクソ女神いいいいいい! 俺は何も聞いていないぞおおおおお!!
「女神様、いつもてんせーしゃんの話を楽しそうにしてくれたよ!」
「え?」
あの女神……実は俺に……。
「轢き殺しがいがあるとか、どうやって次に可愛がるか楽しみって!」
「オモチャだ! 俺オモチャだ完全にコレェ!」
「あ、あはは……ちょっと変わった愛情表現なんじゃないかな」
「同じ相手を4回轢き殺す愛情表現なんて、某スパイ映画でもしないから!」
そして地球にきたルトは、到着が数ヶ月早まってしまったため、女神の元でお世話になりつつ──。
「てんせーしゃんをずっと見守ってた!」
「あの、それストーカー……」
「ふぇ?」
「いや、何でもないです」
こんな可愛い子にストーカーされるなら、そんなに悪い気はしない。
「おはようからおやすみまで、トイレの中から深夜の布団まで!」
「ちょ、ちょっとまった! まさか数ヶ月ずっと!?」
「うん!」
ルトは天真爛漫な笑みのまま、元気よく耳と尻尾を動かしている。
あかん……。思い出せ俺。
女神ループする数ヶ月前、何をしていたか。
バイトして、インドアライフを楽しみつつ……。
ええと、深夜の布団。確か人に言えないニャンニャン動画とか見ながら……。
「そういえば、深夜の布団の中で何か見ながらゴソゴソしていたのはなーに?」
「……と、トレーニング」
「おぉ、寝る直前までトレーニングとは……さすがてんせーしゃん……」
「ま、まぁね」
キラキラ輝く純粋な瞳が辛い。
もっとも、今の女体化俺では、そのトレーニングも出来ない。
「あたしも、てんせーしゃんを見守る過程でトレーニングしていたとも言えるのだ!」
「な、なんのトレーニング?」
「ふっふっふ……忍者!」
「ええと、ジャパニーズ忍者?」
「イエース! でござる!」
どうやら、うちの女神様が、ミトラ君に資料として忍者本を渡していたらしい。
神様達の世界では、こうやって変な文化交流が行われているのだろうか……。
こちらの神話で話されてる方々も、実在の人物だったりする可能性が出てきて恐ろしい。
その内、ひげ面のおっちゃんが自称オーディンとして登場してもおかしくはない。
俺としては、美の女神とかそんな感じの巨乳露出度120%なのがバンバン登場してくれると嬉しいが。
「忍者としての修業は辛く厳しいものだったけど、あたしはやり遂げた……」
「へ、へ~。ところで、どんな内容の忍者を参考にしたの?」
「忍者対忍者の戦いで、最初は親しかったのに敵同士になったり、物凄い眼の力で戦ったりする本!」
「フィクションかよ! って、ああ、あのマンガか……」
きっと大人気の少年誌連載のアレだろう。
「そして伊賀と甲賀は、どんどん人数が減っていき、最後は愛する二人も……」
違った。もっと古いアレだった。
その先の内容をまとめると、どうやら完全に気配を消したり、短時間ならステルス迷彩のように姿を見えなくしたり出来るようになったらしい。
恐るべしジャパニーズ忍者。
といっても、こんな冗談めいた能力を使えるようになるのは、本人の才能が大きいらしい。ミトラ君が、ルトの体内のエーテルを引き出した結果だとか。
まぁ元々、俺に気が付かれないでストーキング出来ていたから、そういう面で元々優秀だったのだろう。
「あ、実は一回だけ地球で、てんせーしゃんと顔を合わせてるんだ」
「え、いつ?」
「ふふ……ヒ・ミ・ツ」
「女神様の口癖うつってきてないか」
「あー、数ヶ月一緒にいたから」
ルトがあの性格になってしまったら大変だ。
朱に交われば赤くなる。そんな事になったらルトパパに顔向け出来ない。
「る、ルト……。他に女神様に影響されてしまった事とかあるか……?」
「えーっとね。何か男の人がいっぱい出てくるゲームとか楽しかったかな!」
ルトパパごめん……。




