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『俺は、この村の人々の可能性という名の光を信じています。だから、その障害となるサンドワームを倒します!』
「私達のために……。てんせーしゃん殿、何という崇高なる意思の持ち主……」
サンドワームを倒した後は、獣人である彼らの未来なので、先にルトパパへ話しておく事にした。
もちろん、パンツを餌にしたという部分はナイショだ。
ルトに助けられ、この村に住み着いて数ヶ月。もうすっかりルト家の居候が性に合ってきている。
この村の藁っぽいベッドにも慣れてきた。
最初は、ルトの水浴びの時間に動こうとすると、ルトパパとルトママの視線が痛かった。
だが、最近ではどうぞどうぞ、むしろ覗いてくださいという感じがする程のノーガードだった。
信頼されたという事だろうか。
テレビの旅番組で、しばらくホームステイした後に家主に抱きついての別れ。あんな事は仕込みだと思っていたが、不思議と俺の方も情が移ってきていた。
本当の両親……とまではいかないまでも、親友か恩人という感じだ。
「ところで、てんせーしゃん殿……」
「う?」
ルトパパは、いつもの柔和な猫の表情から一転、ライオンのような雄々しい男の顔になった。
そういえば獣人って、ルトみたいな人間ベースに獣耳と尻尾の場合もあれば、ルトパパみたいに顔まで獣の場合もあるな……。
こうやって真剣に見詰められると若干恐い。
「娘の事はどう思いますか?」
「じょ!?」
いきなりの不意打ちに動揺してしまった。
やばい、パンツを脱がした事がバレたのだろうか。
そりゃ目に入れても痛くないような愛娘のパンツを脱がしてクンカクンカしようとした男がいたら、ライオンのような形相になってもおかしくない。鋭利な爪で八つ裂きコースだ。
よし、誠心誠意……土下座だ。俺の頭で地面を掘る!
「いや~、娘も年頃ですからな。そろそろ結婚の目星を付けておいてもいいかなと。て、てんせーしゃん殿、急に頭を地面にこすりつけて、すごい勢いで震えてどうしたんですか!?」
セーフ! ……いや、結婚?
手元のホワイトボードに書き書き。
『結婚? ルトは誰か好きな人でもいるんですか?』
「はは、やだなぁ。てんせーしゃん殿にゾッコンじゃないですか」
「……う?」
いや、ちょっと待つんだルトパパ上殿。俺が物珍しい人間で、年上で、先生という立場でああいったふれ合い的な程度で……つまりルトが恋愛と思っているとは限らない。
「この前も、てんせーしゃん殿にパンツを脱がされてドキドキしたって言ってましたよ~、ハハハ~」
「うじょー!?」
ふぁああああああああっ!? るぅぅううううとおぉぉおお!! 伝え方がやばいぞおおおお!!
ルトパパの目の奥が笑っていない。
あいつ大胆な所があるとは思っていたが、まさか親にまでオープンだったとは……恐るべし獣人族。
あ、やばい何か言わなきゃ。アーメン……。違う、いや違わないか……。
「いや~、まさか2人がもうそんな関係になっているなんて。喜ばしい限りです」
あれ、意外と友好的な感じだ。ルトパパも大胆で大らかな感じなのか。
ふぅ……良かった。助かった。誤解だと言えば何とかなる雰囲気なん──。
「ルトが大人の年齢になるまでは、生殖行為はダメですからね。それを破ったら、いくらてんせーしゃん殿でも爪で八つ裂きです……」
あかん。目が座ってる、マジだ。手を出したら殺すって言われてる俺。
娘を溺愛する親というのは、簡単に人を殺せるのだろう。今の空気で分かる。
メトロノームのように大きく震える手を押さえながら、ホワイトボードに文字を書いていく。
『あの、ルトはまだ子供ですし、少し落ち着いてください』
「ああ、すみません。あの子の話ばかりでしたね。そういえば、てんせーしゃん殿の世界で大人の年齢は何歳なんでしょうか?」
『結婚できる年齢は16歳ですね』
「なるほど。では12歳であるルトは、あと4年でてんせーしゃん殿に大人と認めてもらえるわけですな」
え、ルト12歳。いや、いくらなんでも……。身長と顔的には中学生~高校生、胸的には大人という感じだ……。
パッと見、胸の大きい15、6程度に思い込んでいた。
「おや、驚いていますね。そういえば、獣人は成長が早いと教えていませんでしたね」
「うじょー!?」
「というわけで、16歳になるまで生殖行為はやめてあげてくださいね。その後、二人がお互いに結婚したいという意思を持っていたら娘をもらってやってください」
あれ、これって死亡フラグじゃね?




