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ミツコちゃん、八の字ダンスをおどる

作者: 笛伊豆

「はい、これをかぶってね」

 案内役のお姉さんが、ミツコちゃんに帽子を渡してくれます。手にとってみると、網のようなものがついています。

 ミツコちゃんがとまどっていると、お姉さんが説明してくれます。

「これで、蜂さんが顔に飛んでこなくなるのよ。だから、絶対に脱いだら駄目よ」

 なるほど。蜂さんは驚いたりすると、人を刺すと聞いています。刺されるととても痛いそうです。ミツコちゃんはしっかりと帽子をかぶります。

 帽子だけではありません。ミツコちゃんたちは、みんな長袖の服と長ズボンをはいていて、首の周りにタオルを巻いています。これで、蜂さん対策は万全です。

 最後にお姉さんがみんなの服装を点検して、用意ができました。

 今日は校外学習で、ミツバチ農場に見学に来ているのです。先生とミツコちゃんのクラス全員で、蜂さんについて学びます。

 ミツコちゃんは、ハチミツが大好きなのですが、今までどうやって作られるか全然知らなかったので、とても楽しみです。

「それでは、一列になってついてきて」

 お姉さんの号令で、ぞろぞろと歩き始めます。

 これから蜂さんのおうちである巣箱を見るのです。

 しばらく歩くと、空き地に大きな箱がいくつも並んでいる場所に着きました。

 お姉さんは、みんながあまり箱に近寄らないように並ばせて、説明を始めます。

「ミツバチは、この巣箱に住んでいます。巣箱には蜂の女王様と働き蜂がいて……」

 子供向けのお話なのか、ミツコちゃんが知っていることばかりでした。

 そんなことは、ミツバチ農場のパンフレットにみんな書いてあります。ミツコちゃんはちゃんと予習をしているので、あまり面白くありません。

 ミツコちゃんは、お姉さんの説明を聞きながら、巣箱の周りを歩いてみました。もちろん、近寄りすぎないように気をつけます。

 その時、お姉さんがミツコちゃんの知らないことにふれました。

「蜂さんは、例えば新しくレンゲのお花畑を見つけると、ダンスを踊って仲間に知らせます」

 なんですって!

 蜂さんがダンスを踊るの?

 ミツコちゃんは、お姉さんの説明に聞き入りました。

 お姉さんによれば、蜂さんが大きな花畑を見つけると、戻ってきて巣箱の前で八の字に飛んで合図するのだそうです。空中ダンスです。でも聞いただけでは、どんなものか思い浮かべることができません。

 残念ながら、お姉さんはすぐに別の説明をはじめてしまって、よく判らないままになってしまいました。

 ミツコちゃんとしては、ぜひとも蜂さんのダンスを見たいと思うのですが、巣箱のそばにいる蜂さんたちは、誰も踊っていません。さっきからお姉さんのお話そっちのけで周り中を見回しているのですが、ただブンブン飛んでいる蜂さんばかりです。

 きっと、新しいお花畑が見つからないからでしょう。

「……というわけで、蜂さんたちが集めてきた蜜がこの巣箱に貯めてあります。あとで、取れたての蜜をなめてみましょう」

 お姉さんのお話が終わって、ミツコちゃんたちはまたぞろぞろと戻ります。

 ミツコちゃんはがっかりして、とぼとぼとお姉さんについていきます。

 とうとう、蜂さんの八の字ダンスを見ることができませんでした。

 その夜、ミツコちゃんは夢を見ました。

 ミツコちゃんは、大きな建物の屋上にいます。

 周りには、同じような黒い建物がいくつも建っています。ビルみたいですが、黒くて真四角で窓がありません。しばらく見ていて、やっと気がつきました。これは蜂さんの巣箱ではないでしょうか。

 ビルに見えたのは、ミツコちゃんから見て物凄く大きいからです。ミツコちゃんが屋上の端の方から見下ろすと、目もくらむような高さです。

 でも、これは巣箱が大きいのではなく、ミツコちゃんが小さくなっているのでしょう。

「みんなそろそろ、行くよ」

 なかよしのアイちゃんが言いました。大きな籠を持っています。アイちゃんは、ミツコちゃんのクラスで学級委員をしていて、みんなのリーダーです。

 気がつくと、ミツコちゃんの周りにはリコちゃんやサトシくんがいて、みんな同じ籠を持っています。これから、何かを取りに行くみたいです。

 でも、ミツコちゃんは何も持っていません。

「蜜を集めに、出発!」

 アイちゃんの号令で、みんなは一斉に飛び立ちました。今気づきましたが、みんなの背中には透明な羽が生えています。あわてて振り向くと、ミツコちゃんの背中にも羽らしいものがありました。

 クラスのみんなは、次から次へと飛び立っていきます。でも、ミツコちゃんは何も持っていないので、蜜を集めることができません。どうすればいいのでしょうか。

 泣きそうになっていると、アイちゃんがやってきて言いました。

「ミツコちゃんは、お花畑をさがす班だから、蜜集め用の籠はいらないんだよ。今行っているお花畑にはもう、蜜がなくなりそうなんだ。ぜひ、新しいお花畑を見つけてね。見つかったらいつものダンスを踊ってくれれば、すぐに行くから」

 それだけ言うと、アイちゃんも飛び立っていってしまいました。

 どうしてクラスのみんなが蜂さんになっているのとか、なんで私だけお花畑をさがす役目なのとか、色々聞きたかったのですが、仕方がありません。ミツコちゃんは巣箱を飛び立ちました。

 とりあえず、みんなが行ったのとは違う方向に飛びます。

 といっても、何の手がかりもないので、適当です。そもそもミツコちゃんには、お花畑をさがす方法なんかわかりません。行き当たりばったりで行ってみるだけです。

 こんなことで、本当に新しいお花畑なんか見つかるのかと思いましたが、どうしようもありません。

 しばらく飛ぶと、草原が切れて、川がありました。

 川を飛び越えるのはちょっと怖いので、向きを変えて川に沿って飛びます。

 高い木がたくさん生えていたので、そこをよけて飛ぶと、林に隠れるように日当たりの良い空き地がありました。

 そして、そこにはぎっしりとレンゲの花が咲いています。お花畑です。

 やった! 見つけた!

 ミツコちゃんは、思わずその場でくるりと宙返りしました。

 いや違います。お花畑を見つけたら、こんな宙返りではなく、八の字ダンスを踊らなければなりません。

 でもそれは、巣箱に戻ってからです。

 ミツコちゃんは、全速力で巣箱に向かって飛びます。不思議に、巣箱の方角がわかります。

 巣箱に着きましたが、みんなはまだ戻っていません。

 今のうちに、八の字ダンスの練習をしなくては。

 ミツコちゃんは、一生懸命飛びました。

 なかなかうまく八の字が書けなくて、くやしくて涙が出ましたが、がまんです。

 そのうちにだんだんとダンスがうまくなっていくのが、自分にもわかりました。

 空中でぐるりぐるりとまわり、頂点でぴたっと止まります。完璧な八の字ダンスができました。

 さあ、これでもう、いつアイちゃんたちが帰ってきても大丈夫です。

 そう思ったとき、気がゆるんだのか、目の前が暗くなってきて、ミツコちゃんはぐっすり眠ってしまいました。

 まあ、明日学校に行ったら、みんなの前で八の字ダンスをおどって、レンゲのお花畑が見つかったことを教えてあげればいいですよね。

(終わり)

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