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周りの人々はこう語る

年若い『葡萄の乙女』はこう語る




神殿騎士様はおねえさまをすごく気にしていらっしゃる。私たちはピンときた!!


だって、おねえさまは立ち姿は凛々しく、甘い葡萄の香りをくゆらせている、極上の『葡萄の乙女』なのに。恋に破れて少々捨て鉢になっているだけなんですよ。なんとかこの2人をくっつけて差し上げたい。神殿騎士様なら傷ついたおねえさまの心を癒してくれるのではないかと


「期間が短いから、なるべくお話させてあげたいわよね」

「男の人的に、処女じゃないのってどう思うのかなぁ?」

「それくらいでつべこべ言うのなら、神殿騎士様におねえさまを託すことは出来ないわ」


そうそう、でもやはり期間が短くていまいち手ごたえが無かった1年目



「どうやら神殿騎士様が、おねえさまを祭りにご指名したらしいわよ。神官長様情報!!」

「さらに仲を深めるチャンスね」

「そうね、もう少し踏み込んでもらいましょう」


さりげなくおねえさまと神殿騎士様を2人きりにしてあげた。ちょっと深刻そうな顔でお話されている……、どうなの?押しているの?あぁ、じれったいと思った2年目



「おねえさま、お断りなさったそうよ」

「もう、駄目なのかしら……。あのヘタレ騎士め」

「ちょっとちょっと、2人とも!!神殿騎士様が神殿まで来ちゃったわよ!!」


おおぅ!!これはやってくれるな神殿騎士様。と思ったのもつかの間、お断りの意志を覆せず、私達の一緒に行きましょう攻撃も効かず撃沈


しかし


「先生にワインを贈ろうと思っています」


神殿騎士様は、まだ若いワインをそっと箱に詰め中身保護の魔法をかけた。神殿騎士様が言うには、おねえさまの頑なな心も葡萄の事なら少しはほぐれるかもしれない、ワインを育ててもらって来年の祭りに勝負したいと。それを聞いて私達までキリっと緊張してしまった3年目



「あぁ、今頃おねえさまは神殿騎士様に貪られているのね」

「やだぁ、明け透けすぎるぅ」

「受粉かしら、それとも接ぎ木?」


なんてちょっとウフフな話題で盛り上がる私達。神殿騎士様が分けて下さった、おねえさまのワイン。まだ若いワインなのに極上だ、わが神様に捧げられるほどの逸品だと思う。ゆっくりとワインを楽しみながら、ぽつりとつぶやく私


「……おねえさま神殿を出てしまうのね」

「仕方ないわ、お嫁にいくのだから。通いはさすがにきついでしょ」

「…………うぅ、複雑。嬉しいけど、さみしいわ」



3人で大泣きしてしまったのが恥ずかしくて、おねえさまを置き去りにさっさと神殿に帰ってきてしまいました。おねえさまは神殿騎士様と一緒に神殿まで帰って来ました、香しく芳醇な葡萄の香りをまとわせながら。




町長はこう語る




長男が結婚したので、わが町の神殿騎士が代替わりした。誰にしようかと職人会で話し合ったところ、わしの次男へと引き継がれた。朗らかでちょっとお調子者の長男と違って、思慮深い穏やかな学者肌の『葡萄の騎士』で、こう言っては悪いのだが、いわくつきの上級神官様を招くのにちょうどいいのではないかと思われたからなのだが


正直、次男があんなに情熱的なタイプだとはわしも妻も思っていなかった


町を訪れた上級神官様は、男にだまされギフトを失ったという。しかしお会いした瞬間それは嘘だとわかった。芳醇な香しき葡萄の香りをまとった上級神官様、ギフトを失っていない……むしろ


「お父さん、お話が」


真剣な表情でわしにかの上級神官様と結婚したいと言い出した。もしかしたら親子の縁を切ってもらうかもしれないので、そのつもりでいて欲しいと。こっそりと王冠の女神神殿へおもむき、書類をもらって自分の欄にサインをしてあった……どうやら本気らしい。それはちゃんと口説いてからにしなさいと次男に言いつつ、神官長様に内密で手紙を送る。何事も根回しは大切だ



数年後、かの上級神官様は祭りに来られなかったので、次男振られたな……と妻と話していた。そろそろ嫁を見つけてやった方がいいのかもしれないと思っていたところ、まさかの大逆転


次の年の祭りで町民全員の前で公開求婚、すげぇ!!わが息子、すげぇ恥ずかしい!!


これ、振られたらアイツ立ち直れなくなると、上級神官様の返事を聞く前におめでとうと叫び派手に拍手を贈る。わしの考えにピンときた町民達も、騒ぐ騒ぐ。乙女3人衆殿もきゃあきゃあとはしゃいでいたから、たぶん大丈夫、無理矢理じゃない……と思う。息子よくやった


結局、例の書類は使うことが無かった。上級神官様、いやうちの嫁の手でそれはビリビリに破かれめでたく結婚。けじめだからと言ってワイン事業からは手を引いたが、『葡萄の騎士』は葡萄からは離れられない、栽培の方を担当している。まぁ、ワインの研究は趣味の範囲で進めているらしい


そしてかわいい孫たちが「おじいちゃん」と叫びながら走ってくる。現在、わしはデレデレ町長として皆に呆れられているのだった。




神官長はこう語る




強い香りがする。『愛と豊穣の神の乙女』はそれぞれの植物の力をまとっている。特に強い香りをまとう乙女は、恋に破れ純潔を失ったのに、なお芳醇な香りをまとっていた。しかし彼女は気が付かない。自分の能力は下がっていると思っているよう……他人には解る濃厚な香りを。葡萄達は彼女をなぐさめたいのに、彼女は気付かない


そして少したった頃、例の町では葡萄の木が枯れ始めていると連絡を受けた。あぁ、それは罰なのだろう。葡萄達の溺愛している神官を傷つけた彼らを。神殿としては何もできない、自らが気付きどうすればよいかなんて、少し考えればわかるはず。その町は原因を排除し、若木から大切に育てなおしていると聞く


そして彼女は彼と出会い、新たな葡萄を産みだした


彼女の夫が手掛けるワインは神殿へと奉納され、小さな葡萄達が愛らしい笑い声を上げながら、私にあいさつにきてくれる。奉納されたワインは、程よく冷やし民へふるまう。今年も極上、皆に幸せのおすそ分け。

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