熟成された乙女と騎士と
言葉足らずだったので、加筆しました。申し訳ありません。
さらに次の年
「ドアは開けられる様になったのですね」
「おかげさまで。ようこそいらっしゃいました……先生」
今年は神殿騎士様を踏まないですんだわ
儀式前日の夜、忙しくなかなか時間の確保が出来なかった神殿騎士様と、町長の屋敷の応接間でお会いした
1年前送られてきたワインを渡す、すぐ飲めるように低温保存の魔法をかけておいたので、神殿騎士様は鮮やかな手付きで封を切りコルクを抜く。テーブルにはワイングラス、深い良い色のワインが注がれる。色は綺麗だわ
「良い色ですね。香りもまだ若いはずなのに、大分深い」
くるりくるりと回されるワイン。そのまま口に含み転がす、ゆっくり時間をかけて飲み、やっぱり……と呟く神殿騎士様。やはり加護が足りないのだろう、私の精一杯をかけても気に入るものは出来なかったのだから、これで諦めてくれるはず。覚悟はしていたのだけど、その時を前にするとやはり辛い
神殿騎士様は空のグラスをテーブルに置き、私を部屋までエスコートして下さった。明日の儀式はよろしくお願いしますとの言葉を残して
儀式はつつがなく終わりを迎えるはずだった
以前と同じ3人の乙女の頑張りで、儀式は粛々と、その後は楽しく大いに盛り上がっていた
のだが
「何をなさるの?」
「ブーツと靴下を脱がせます」
儀式を見守っていた私の袖を引いて、神殿騎士様にせかされながら清めの泉まで連れていかれ、押し倒されスカートの中に手を入れられ、パチンパチンとガーターの金具を外されそのまま靴下を剥ぎ取られます。絹のそれは途中で引っ掻いてしまったのか、ビリリと音を立てて破けてしまいましたが、神殿騎士様はそんな事気にもせずに、そのままポイと投げ捨てられました
「冷たいですが、我慢して下さい」
「ひゃあぁあ!!」
そのまま素足を泉の中へ、ブラシでこすられ洗われます。足をばたつかせようとしても、強い力で押さえつけられ全く抵抗できません。ぐったりした私をそのまま横抱きにして、神殿騎士様は走る
ここまできたら、嫌でもわかる。私に儀式をさせようとしているのだ
広場には小さめの桶に葡萄の山、町民の大きな歓声と拍手に迎えられて、桶に腰掛けさせられた。神殿騎士様は私にその右手を差し出して微笑みながら「あなたの為の葡萄です。どうか見捨てないでやって下さい」なんて、反論できない言葉を投げつける
彼の手を取り立ち上がる。スカートのすそをつまみ、軽く持ち上げる。呼吸を整えるとあふれてくる神の力。その力をそのままのせて、高く低く祝詞を唱え、足を踏み出した
「葡萄に嫉妬してしまいますね、あなたに踏んでもらえるなんて」
「……馬鹿」
私の葡萄は神殿騎士様の研究用として仕込まれた
儀式が終了したと同時に彼に求婚され、返事もしていないのに町民や3人乙女達ははしゃぎまくり、おめでとうの嵐。いえ、まだ返事をしていないのですがの声も無視され、またもや横抱きにされ拭ってもいない足に葡萄の皮と香りを靴下代わりに……そのまま食べられてしまいました。
実は神殿騎士様は町長家の次男でした
以前話した私の最初の男も町長様の息子でしたので、念の為に私の『葡萄の乙女』の血が欲しい訳ではないと言う証に、家を出る・子供も諦めてもいいと閨で仰ってくれましたが、そこまでする必要はありません
結婚してから2人で、畑の側にある研究所を兼ねた家へと移ることに。家を出るというよりは、普通に次男が独立しただけです。お義父様もお義母様も、お義兄様家族もみんないい人たちで、不慣れな若い夫婦を助けてくださいました
少したって授かった三つ子の娘達は『葡萄の乙女』となった。何故どうして?と疑問符を大量に浮かせていると夫は
「俺が『葡萄の騎士』だからではないでしょうかね?『葡萄の騎士』と『葡萄の乙女』が愛情でしっかりと結ばれたから、良い葡萄がなったのですね」
「そうなのでしょうか?」
「『葡萄の騎士』は葡萄が上手く育てられるギフトです。俺のワインをあなたがあれだけ極上に育てたのです。相性が良く、愛情があったからとしか考えられませんね」
正直出会ってからの年月は長いですけど、過ごした時間はとても短かったのに。長い間、気付かないうちに熟成されてしまったのかしらと、下手な洒落のようなことを考える私に、夫は極上の口づけを贈ってくれました
現在はワイン用と食用の葡萄の世話をして、研究目的のワインを醸造し、家族で飲む分以外は全て神殿へ奉納しています。娘達は葡萄をうまうま(《4の国》の言葉で美味しいとのこと、表現がかわいいですね)と食べています
娘たちが出歩けるようになってから初めて見た祭りでの『葡萄の乙女』の儀式をいたく気に入り、私達もやりたいと夫にせがみます
そして困りながらも嬉しそうな夫は、かわいい娘達が踏みしめた葡萄を使ってワインを作る。ついでに作業でお疲れの父親の背中も踏む娘達
私にも「踏んでいいのですよ?」なんて……M疑惑はまだ去っていなかった。