田沼総司
田沼総司場に着いたときには、
もうその〔何か〕は終わっていた。
そして、〔誰か〕がいた。
「誰ですか?あなたは。」
「名を乗らせるのであれば、
まず自分から名乗るのが、礼儀であろう。」
「あ、はい。俺、雷田悠介っていいます。」
「『雷田』!?まさかお前、十字郎の?
あの十字郎のせがれか!?」
「あ、はい。そうですが。」
「『そうですが。』か。
十字郎とは反対に、誠実そうだな。
十字郎のせがれよ。」
─正直、十字郎がいい人なのか、
悪い人なのか、分からない。
橘は誉めるし、
こいつは暗に
「誠実じゃない」
と言ってるし。
ま、人それぞれってことだろ。多分。
「儂は田沼総司。儂の武器は、
魔龍石で鋳られたこの刀。
見てみい。これぞまさしく魔龍石!
魔龍石の輝きであろう!」
確かにきれいだった。
しかもよく斬れそうだ。
この爺さんだけは敵に回さないでおこう。
「実は十字郎は儂の友人でのう。」
「十字郎が外国に行ってからでも、
時々文通をしておる。」
文通!?古いな。
「ふっ、今、古いと思ったじゃろう。
でも十字郎は忙しくてのう。
電話をかけても、専ら繋がらんのじゃ。
だから届けばいつでも読める、という
手紙にしておる。こっちも忙しくての。
分かったかな?」
「は…はい。」
俺は子供か!
『分かったかな?』はいらん!
全く変な爺さんだ。




