退院
─1時間後─
奈々は本格的に困った。
見つからないのだ。あの石が。
あたしには分からないが、少なくとも
彼や病院の人々にとっては大切らしい。
そして病院の庭を歩いていると、
何かを踏んでいるのに気がついた。
見てみると、小さな、とてもきれいな
輝きを放つ石だった。
これだ。
見つけた瞬間、奈々は目覚めたことを
病院の人に報告するのを忘れていた
事に気がついた。ここ最近ろくに
寝てないし、なにしろ目覚めたことと
石のことにすっかり気をとられていた。
「早く戻ろ。」
独りで呟くと、彼女は急いで彼の病室に
駆け戻った。
気がつくと、奈々は病室の前にいた。
あれ、こんな近かったっけ、と思った。
中に入ると、
「早いな。もっとかかると思ってたが」
「報告しなきゃ、って思って。」
「報告?」
「あなたが目覚めたこと、まだ
看護師さんに言ってないもん。」
「あ、そういえば。」
「石も見つけたよ。」
「お、サンキュ。さっすが。」
喋んねーな。
「なぁ。」
「なに?」
「俺、どのくらい寝てた?」
「うーん。そうねぇ。1週間かな。」
「結構寝てたな。」
「でもそれでも、
生きてただけ奇跡なんだって。」
そうだな、確かに。奇跡だな、こりゃ。
悠介はどこか寂しそうな顔をしている。
「どうしたの?」
「いや、なんでもねぇよ。」
「じゃぁ、呼ぶよ。」
「OK。」
暫くして、ドクターとナースが来た。
「あと1週間入院、と言いたい所ですが、
もう健康体なので、退院をお勧めします。」
「ありがとうございます。」
「では、失礼します。」
「荷物は?」
「ない。」
「俺は大荷物。」
「持とうか?」
「いいよ。」
「じゃ、いこうか。」
「ああ、ホントに、ありがとな。」
「いいって。」
二人は、病院を後にした。




