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Bounth High  作者: 水波
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第三話  ルールのある喧嘩


俺と柿崎の勝負はどうやら仮入部に来ていた一年生に結構な影響を与えたらしく、勝負の次の日には仮入部に来ていた奴らが半分ほど減っていた。俺たちの真剣なプレーを見て怖くなったという奴が多かったらしい。確かにラグビーは怪我の多い印象のあるスポーツだし実際に多い。だがそれはどんなスポーツにも言えることだろう。しかし怪我への恐怖心がラグビーに対する楽しさに勝ってしまった以上は、それはもう入部しても仕方がないとも思う。

しかし怪我の功名というべきか残った一年生達は昨日までとはまるで違う目つきをして練習に臨んでいた。それは本人たち曰く真剣勝負をしている俺たちが純粋に「カッコいい」とのことだった。

残った一年生は俺たちを合わせて6人。 

赤坂東馬(あかさか とうま)は俺と対して変わらない身長だがすばしっこく、同級生の中でもハンドリングに優れていている。

花村守(はなむら まもる)は線が細いが180を超える長身と短距離走なら三年生よりも早く運動神経に溢れていて即戦力になりうるだろう。

増子洋一(ますこ よういち)は太っていて見るからに運動神経はないが筋力と独特のキャラクターが魅力だ。

そして陸島雪(りくしま ゆき)。体格は人並みだが元サッカー部らしく試しにボールを蹴らしてみたら抜群のコントロールを誇り足も速く体力もありハンドリングもいい。恐らくどんなスポーツをやらせてもかなりの選手になっていたであろう。そういうタイプの「天才」

柿崎健一はコンタクトプレーには優れるが本人も言っていたようにハンドリングは素人に毛が生えたレベル。

そして最後に俺。

全員の特徴を考えてまとめてみると悪くないどころかかなり恵まれている。

問題は人数であり6人ではさすがに少ない。最低10人は欲しかったところだがこればかりはしょうがない。正式入部の日までに増えることを願うばかりだ。


放課後。

「うおおおおおおらああああ!!!」

俺と柿崎が着替えてグラウンドに行くと咆哮のような声が響いた。

グラウンド中央にはラグビー部員による人だかりができていてその真ん中に見慣れない巨体の男。一年生の八木純次がフジさんをタックルで倒していたところだった。

八木純次は入学式の日に喧嘩を起こして謹慎処分を食らっていた市内一の不良だ。時代錯誤も甚だしいように思うかもしれないがその噂は俺たちの中学にまで広まっていた。巨漢、獣、野獣などと呼ばれる化物みたいなやつだと。

実際その体格は190cmほどの身長にがっしりとした骨格、鍛えているのか筋肉のつきもよく鈍重さは感じさせない。実にラグビー向きの凄まじい身体だ。

そしてなによりその闘争心と圧力。さっきの咆哮を聞けばわかる野性が人間の皮を被ったような闘争心。そして喧嘩慣れしていることによる圧力は並みの選手ならビビってしまうものだ。

「フジさん!大丈夫ですか!?」

俺は駆け寄ってフジさんに聞く。

「ああ、大丈夫や」

フジさんはあっさり答える。

そこで俺も状況を悟った。この人が一年生に花を持たせたのだと。三年のキャプテンを倒したとすれば気分もいいだろう。これも部員確保のための作戦だったのだ。

どおりで他の部員がフジさんを助けないはずである。八木も勝ち誇っていてさぞかし気持ちよさそうである。

しかしここで予想外の出来事が起きた。

「ラグビーも大したことないやん。簡単に勝ててもつまらんわぁ」

などと八木が言い始めた。

計算違いだ。

フジさんの顔が変なことになっている。周りを見渡すと他の先輩の顔もだいたい引きつっている。

これはマズいと思った俺は咄嗟に言う。

「じゃあ、次は俺と勝負しよや」

他の部員の顔が凍り付く。

「お前みたいなチビなんてすぐ吹っ飛ばせるわ」

八木のその返事が癇に障る。

「お前」

「あん?」

「ラグビーの和名、漢字で書くとどうなるか知っとるか?」

俺は突拍子のない質問をぶつける。

「知らんわそんなん、漢字の勉強が強さに関係あるんか?」

ふんっと俺は鼻で笑う。

「そやな。さっさとやるで不良少年!!」

「でかい口叩くなや。お前もその先輩みたいに手抜くつもりなら病院送りにすんで!!」

こいつ気づいていたのか。脳みそまで獣ってわけじゃないんだな。

「うおおおおおらあああああ!!!」

咆哮と共に八木は落ちていたボールを拾い俺に向かって突進してくる。

ただ真っ直ぐに、巨体を生かして、肩を突き出して向かってくる。そんな奴は何人も見てきた。

「悪いけど、カモや」

八木に聞こえたかどうかは知らないが俺はそう言う。そして同時に八木の足首に突き刺さる。

そこからは無意識だった。体に刻まられているどおりの動きをして八木の落としたボールを拾う。俺の勝ちだ。

八木の顔を見ると何が起こったかわからないという顔をしていた。

「ほら、大丈夫か?」

俺が手を伸ばすが八木はまだ目を丸くしている。

「なんやったんや?」

八木がようやく口を開く。

「いきなりお前が消えたと思ったら空を見とった。わけわからん。お前は俺に何をした?」

俺は精一杯にかっこつけて答える。

「タックル。ただの技術や」

余裕とは勝者の特権だと改めて思うような事件だった。

「なあ、さっき言ったことの答え教えてや」

八木は言うが俺にはなんのことかわからない。

「ラグビー。漢字で書くとどうなるんや?」

ああ、と納得する。

「ラグビーの和名は闘球。“闘う”球技や」

そして俺は続ける。大昔に親父に聞いた有名な言葉をそのまま引用して。

「ラグビーはな、闘球の名前の通りルールのある喧嘩や。かっこええやろ」

「わるくないわ」

八木はそう返事をすると立ち上がりトレセンに向かっていく。中に入りしばらくすると出てきてそのまま帰っていった。

呆気にとられた俺たちがトレセンに入ると一枚の紙が落ちていた。そこには八木純次の名前と希望部活欄にはでかでかと荒々しく「闘球部」と書かれていた。水滴のようなものが落ちた跡があったが誰もそのことには触れなかった。


なにわともあれ即戦力になりうるであろう七人目が部員になったことに俺は嬉しかった。

いよいよもって逸材の揃った新入生達は欠けることもなく仮入部期間を終え本入部していく。


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