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Bounth High  作者: 水波
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第一話  入学

その運命のような因縁めいた設定を自分が持っていることに酔っていたのかもしれなかったし、はたまたただの気まぐれか。詳しい理由なんて特にないが4月8日、白球磨高校の入学式の日である。



あの日。家に帰って考えた。親父に相談しようとも考えたが自分で決めてこそだと思い止めた。


そしてそのまま自分の中の素直な意思に従っていたらいつの間にかこうなっていた。


選んだのは対決。そして茨の道なのかもしれない。


白球磨高校への入学が決まってから佐藤監督に電話したが妙に上機嫌だった。


「実に残念だが同時にとても嬉しいよ。白球磨高校と対戦する日を楽しみにしているよ。」

その声色からは機嫌の良さと言うよりは余裕みたいなものが伝わってきた。

それもそうだろう。

朝野高校は部活に力を入れている高校だ。選手にも設備にも金をかけている。

対する俺、白球磨高校。通称クマコーは花園出場八回を誇っていて当時こそ三重県最強の名を欲しいままにしていたがその栄光も今は昔。

現在は生徒の減少に伴う部員の減少。加えて学校側も部活には特に力を入れない公立校。

分が悪すぎる。それこそ「負け戦」だ。

まあ最初から諦めるなんて論外だし考えていても仕方がない。できることからやるだけだ。


「できること」ってなんだ……?

前言撤回。できることを見つけるところから始めてみるか。



とそんなことを考えているといつの間にか入学式が終わっていた。

整列し体育館から出る。そこからはバラバラになって各自が教室に向かう。俺はA組だった。D組まであるから比較的前の方だ。

そんな時後ろの方の列から声が上がった。



「喧嘩だあああ!!!!」

いまどき喧嘩かよと思っていると前の方から「おい!見に行こうぜ!」なんて声が上がるが早いか何人もの生徒が逆走し始めた。

そのうちの一人が俺にぶつかるが「わり」とだけ言って走っていく。

あいつ……顔覚えたからな……だなんてことを思いながら俺は教室に戻る。


教室に入ると座席の数に比べて生徒の数が明らかに少なかった。

恐らく何人かは喧嘩を見に行っているのだろう。その影響で残った生徒たちも少しざわざわとして落ち着きがなかった。


それとは別に何人かが黒板の隅に集まっている。恐らく座席表が貼ってあるのだろう。

俺も自分の席を確認するためにそこに向かうがなにぶん人が集まっているのでなかなか近づけずにいた。


少し後ろでしばらく待っていると人が捌けていき見える位置まで出る。


「えーっと……」と口に出しながら座席表を端から順番に人差し指でなぞっていく。

そんな俺の様子を横でじろじろ見ている奴がいる。身長は俺より大きい。

なんだこいつ?見たことねえけど知り合いか?

気味悪く思いながら「西神って何番だ?」俺がそう口に出した時だった。


「君!西神涼平やろ!?U15の!!」


さっきまで横で俺のことをじろじろ見ていた奴が急に言い出した。

こいつなんで俺のこと知っているんだ?U15?ラグビー関係者か?

湧き出してきた疑問や俺の反応など露知らずといった具合にそいつは続ける。

「やっぱりそうや!僕、君のファンなんや!クマコー入ってたんやなあ」

ファン?なに言ってんだ?っていうか馴れ馴れしいなこいつ。

「愛知選抜との試合見たでー。いやーすごい試合やったわ」

佐藤監督と似た匂いを感じるなこいつ。

「あんだけぼっこぼこにされながら最後まで足を止めんだ君の姿見てたら一発でファンになったわ」

ますます佐藤監督っぽいな。

「いや、あれは周りが諦めるのがおかしいだけやから」

「あ、ちなみに俺は柿崎健一(かきざき けんいち)。中学生の方の選抜に友達が出てて、それの応援に行ってたんよ」

人の話し聞けよ。うっとおしい奴だな。

正直めんどくさい奴に捕まったと思いため息をつく。

でも同時にラッキーだとも思った。ほとんどがラグビー未経験者のクマコーではラグビー経験者のこいつは戦力になる。

「お前もラグビーやってたんだよな?」

「いや僕は中二の頃に辞めたんや。下手くそやったからなぁ」

「高校ではやらんの?」

「やるつもりはないなあ」

前言撤回。全然ラッキーじゃなかった。

ただめんどくさいだけの奴だった。ネギも持ってないし鴨でもない。

「西神君は入るん?」

「当たり前や。そんために来た。」

「かっこいいなあ。やっぱり才能ある人はちゃうなぁ……」

才能、そんなものねえよと言ってやりたくなるがギリギリで止まる。こんなやつに言ってもしょうがない。

それに本当に才能なんてあったらそれこそ四強なりの強豪にいく。


「仮入部だけでもしてみたらどうや?」

―多分再熱するぜ?と言いかけるがその前に柿崎が

「いや、再熱したら怖いやん。きっとまたやりたくなる」

と言い先を越された。


「そうか」

と返すとニヤニヤしながら柿崎は自分の席に帰っていった。

更に前言撤回。ラッキーだ。こいつはラグビーから離れられないタイプの馬鹿だ。



それから一週間。入学オリエンテーションがあり、俺はその間も基本的に柿崎と一緒にいた。

途中の部活紹介でラグビーの番が来ると柿崎は少し身を乗り出し鼻息を荒くした。その時の眼はラガーマンのそれだった。

俺はそんな柿崎を見てある提案をする。


「柿崎、勝負しよや」

「ん?」

「仮入部期間に俺と一対一。攻守三回ずつ。オフェンスは抜いたら勝ち、ディフェンスは止めたら勝ち」

柿崎は目を丸くする。

「俺もここ最近は一人で走るくらいしか練習してないし。さすがにいきなり現役に混じるのはつらいものがある。でも未経験者と一緒になんて欠伸がでる。丁度いいのはお前や」

柿崎はまだ目を丸くしている。

こいつに足りないのはきっかけと俺は睨んでいる。だからそれを与えてやればこいつはきっと……。


「うん、ええよ。正直勝てる気どころか相手になる気すらしやんけど。僕これでもタックルとコンタクトはそこそこ得意なんよ」


その言葉を聞き確信する。

きっかけさえ与えてやればこいつは、この馬鹿はきっとラグビーに戻ってくる。


仮入部期間は明日から二週間だ。


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