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いやがらせ


「調子にのんなよ、どブス」


 振り返ると同時にばたばたと遠ざかっていく足音と、発しただろうと女の子の背。

 それを見送ってはぁっとため息を吐く。


 ミシェルから衝撃の告白をされて二週間ほど。

 学内の見知らぬ女の子に、悪意を向けられるようになった。すれ違い様の悪口や、いつの間にか忍ばされる悪意ある手紙などの嫌がらせ。


 恋する女の子の勘は強すぎる。

 女の子の恋愛センサーが作動し、私とミシェルに何かがあったことを感知したらしい。


 ミシェルが吹聴するわけないし、水原や野々宮さんにしたってそうだ。

 何故ばれたんだろう……と自問自答。


 誰かがいる時のミシェルの態度は以前と変わりはない、と思う。

 でも私がちょっと挙動不審になっているかもしれない、とも思う。


 信じがたいことにミシェルが私を好きになってくれた。でも私のミシェルへの気持ちはとうに消化されていたから断った。

 ミシェルには諦められない、と言われた。


 ……この状況にどういう対応していいのやら。ミシェルにどう接すればいいのやら。

 以来私はミシェルと話す時に妙に緊張してしまう。


 そしてそんな私の心境を察して、努めて普段通りに振る舞ってくれるミシェル。

 と思えば


「すみません。狭霧さんを困らせて……悪いなと思う気持ちもあるんですけど…意識してくれて嬉しいと思う気持ちもあって……」


 困り顔で、心臓に悪すぎる言葉を向けられたり。止めてくれ、吐血しそうだ。

 ミシェルへの態度はぎこちないものになってしまって、そこから女の子にばれたのかと思う。


「さーぎり。聞いてる?」


 オープンテラスで卒業旅行の計画を一緒に立てている友人が、ディスカッションを止めて私に注目していた。


「あ、ごめん、ごめん。何だっけ?」


 大事な卒業旅行の話し合いをしていると言うのに、思考がついミシェルに飛んでしまった。行き先がフランスのせいだ。

 頭を掻いて誤魔化しつつ、パリのカフェ情報誌に手を伸ばせば


「王子と何かあったわけ?」


 ピンポイントの質問をされた。


「……」


 沈黙。


「……へっ!? なんっ…なっ…なんでっ?」


 動揺も露わに、何か絶対ありました! と露骨な反応をする私を見て、友人たちが互いに顔を見合わせている。

 何でいきなりミシェル? 合っているだけに動揺が隠し切れない。


 落とした情報誌を拾うために屈みこんだけど、机にぶつかって更に色々落とした。


「狭霧……あんたさ、王子が載った雑誌見た?」


「えっ? 見たよ?」


 メンバーが群がって読んでいた有名雑誌のクリスマス特別号。

 いつもの柔らかい雰囲気とはちょっと違う、斜めに逸らした視線が大人っぽいミシェルの写真が載っていた。


「あれ見て何とも思わないわけ?」


「えっ?……何ともって…いや、プロのカメラマンが撮るとクオリティが違うなと」


「じゃなくて。そこに載っていた王子の好きなタイプ、まんま狭霧じゃん」


「……へっ?」


 好みのタイプ??

 雑誌はすぐにミシェルに取り上げられたから、写真しか見てなかった。


 そんなの書いてあった? 私に当てはまる?

 状況が飲み込めない私にため息を吐きつつ、友人が記事内容を教えてくれた。


 その流れでナチュラルに尋問される私。

 告白されたと白状すれば友人たちは驚いておらず、やっぱりねと言う反応。


 その反応に私の方が驚いてしまう。


「いや、この間フランスで行く美術館が決まらなくて、お勧めのところあるか狭霧が王子にメールしたら、丁度空き時間だからって来てくれたじゃん。その時の王子の態度さ」


「あからさまだったよね」


 だよね、あれはね~と頷き合っている友人たち。えーっと……どの辺が?


「王子はさ、一年も前から狭霧のこと好きだって言ったんでしょ? 狭霧は全く気付かなかったわけ?」


「……うん。ミシェルが優しいのなんて老若男女問わずだし、特に私が特別って感じじゃ……。サークルの先輩だから立ててくれているってのはあるけど」


「狭霧が気づかなかっただけじゃないの?」


 友人から向けられる呆れを含んでいるような視線。

 いや、ミシェルには一切そんな素振りはなかった、と思う。


「あんた鈍いからなぁ」


「鋭い方ではないけど、鈍いと言われる方じゃないと思うんだけど」


 何だか友人三名が揃って、信じていない目で見て来る。


「じゃ、ラブラブだった細田君と西村さんが別れたって気づいてた?」


 細田君と西村さんは選択言語のクラスメートだ。

 英語の他に、中国語、ドイツ語、フランス語の中から一言語の取得が必修で、一緒にフランスに行くこの友人たちとも、選択言語が一緒で仲良くなった。


「細田君、ユーターン就職だからなぁ~」


「遠距離恋愛は難しいって。社会人になったばかりなら特に」


「でも卒業するまで待てばいいのにね。授業中のあの微妙な空気は、こっちまで気まずいよ」


「……」


 別れたの気づいてた? と質問をされたけど、友人たちは流石にそれは気づいているだろ、といった雰囲気で答えは求められなかった。

 だからあの二人って付き合ってたのっ!? とは言い出せなくなった。


 まずい。あまり自覚はなかったけど私って鈍いのだろうか。

 眉を寄せて考え込んでいると、自分が鈍いって気づける子は鈍くないんだよ、と禅問答のようなことを言われ、更に悩む。


「でもほら、鈍感力が高いと現代社会生き抜きやすいらしいからさ」


「鈍感力あるとストレス溜まりにくいって言うし」


 友人からフォローが入った。でも現代社会と恋愛って別問題だと思う。


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