雑誌
~お詫び~
申し訳ございません。信じられないほど月日が経っておりました。
小説思考錯誤(数か月)→プロバイダ変更→小説思考錯誤(数か月)→人生思考錯誤→転職→パスワード忘却→ログインできず→一年経過→大掃除の最中にパスワードメモ発見!→今ここ
実際のところ、完結には至っていないのですが、書き留めたところまでアップして置こうと思います。
また、おいおい感想を下さった方には返信させて頂きますが、とりあえず現段階では一度、感想をしめさせて頂きます。
頂いたメッセージも順に返させて頂きます。
まずはとりあえずのお詫びまで。
「ミッシェルいるー?って……何やってんの?」
部室に入ると、メンバーが1ケ所に群がって、何かを見ていた。
「お!野田、見ろよ~これ!ついに空手サークルから有名人がっ!」
「???」
一体何だ?
輪に入って覗き込めば、そこには一冊の雑誌。
「えーと、何々?町で見つけたイケメンボーイ…ってこれ」
ミシェルじゃん!
表紙を見れば、私ですら知っている有名な誌名。
「おぉ!すっごい……」
そのコーナーは、見開きカラーで割いてあって、半ページミシェルの写真。載っている男の子は全員で6人。
1位ミシェル、2~4位いなくて残りは全員同着5位みたいなページの配分。
差がつけられすぎて、可哀想だよ。これは。
「あのっ狭霧さん。違うんですっ!」
私がまじまじと見ていた雑誌を、ミシェルが引っ張った。
違うって何が?
先日ミシェルは、ぜひ写真を本誌に掲載させてほしいとカメラマンに声をかけられたらしい。
ミシェルは即座にお断り。
しかしカメラマンは諦めずに、しぶとく交渉。
ミシェルは重ねてお断り。
カメラマンは粘り強く交渉。
ミシェルは丁寧にお断り。
カメラマンは必死に懇願。
昨今、出版業界はインターネットシェアに押されて売り上げが厳しくなっているから、記事の濃さは死活問題なんだろうな。
雑誌はクリスマスに備えた特別号なので、それも含め、かなりの部数を期待したのかもしれない。
ついに、根負けしたミシェルは小さく載るならと条件をつけて了承した。
どう見ても小さくないけど。
「え~でも良いじゃん!格好良く写ってるし」
爽やかに微笑むミシェルは見慣れているけど、この写真みたく少し不機嫌そうにしている表情は珍しい。
斜めに逸らされた横顔が大人っぽく見える。
「…そっ…そうですかっ?」
ミシェルが照れ笑いをしつつ、雑誌を閉じた。
ミシェルは王子とあだ名が付くほど整っている。学内でも無許可で写真が出回っているけど、それとは比べ物にならないほどきれいな写りだ。
流石はプロのカメラマン。
「ところで、どうしてこの雑誌を?僕、誰にも言ってないのに」
「え?学内で出回っているぜ。女の子がキャッキャしながら見てた」
「………………………」
ミシェルががーんと言った感じで、机に手を付いて項垂れた。
こういう情報が回るのって早いからなぁ。今はインターネット文化だし。まさに音速で情報が走る時代だ。
「やーっぱり面が良いってのはそれだけで人生特だよな~」
「同じ服着ても、イケメンはお洒落、ザコメンはワロス。同じ事言っても、イケメンは飾らない、ザコメンは田舎に帰れ。子供に話しかければ、イケメンは子供好き、ザコメンは誘拐犯……………俺…迷子かなって思っただけだったのに…」
何だ、何だ。過去に何があった?
通じるものがあったのか、お互いを励まし始めたメンバー。お前はフツメンだよ、お前もフツメンだよ、お前だって中の下の上だよ、いやいや下の上の上だよとか何とか。
「雑誌は…どうでも良いですから…それより狭霧さん、僕に用事があったんですか?」
「あ、うん。あのさ、モン・サン=ミッシェルのこと聞きたくて」
ガイドブックを開いて、有名なフランスの世界遺産の寺院の写真を見せる。
どこに行くにせよ金銭的な事情から、観光ツアーなどには申し込まず、自力で行くのが前提だ。
フランスに行くなら、絶対外せないスポットだけど、アクセスに少々難あり。
ミシェルはちょっと待ってくださいね、と言いながら携帯を操作して、サクサクと何かを調べている。
どれどれ?と覗き込んだけど、フランス語なのでさっぱり分からない。
「あとね、オムレツのこと知りたい。モン・サン=ミシェルで有名なオムレツがあるってテレビで見たんだけど」
「僕は食べたことありませんが、友人たちには好評でしたよ」
ふむふむと頷きながらメモを取っていると
「何々、モンサンミッシェルって何―?ミシェルは王子って知ってるけど、モンさんって誰―?」
「馬鹿か、お前!さんっつーのは、日本の敬称だろーが。フランスじゃ使わねーよっ!モンとサンとミシェルの3人だろ」
暇を持て余したメンバーがガイドブックを奪って絡んできた。
「おぉ!すげぇじゃん!この豪邸、もしかしてミッシェルの家~?」
「リアルメイドさん、いそうだな!」
「こんな大きい家羨ましいけど、生活するにはちょっとなぁ~トイレが遠すぎて漏らしそうじゃね?」
「問題ねーよ、机の上のベルを鳴らせば颯爽とメイドさんが現れて、おまるが届くとか……それはちょっと人としてダメだな」
「メイドさんと言えば、オムライスに萌え文字だ!」
「そーいや、さっき野田がここには有名なオムレツがあるとか何とか」
「ってことは…それって萌え萌えオムライス…っ!?」
「あーもう邪魔!」
なんで世界遺産の写真を見て、メイド喫茶の話にワープするんだよ。フランスじゃなくて秋葉原の話をしているメンバーをしっしと払って、本を取り返して仕切り直し。
なんだよーと言いながら、メンバーが離れてトランプをやり出したのを見てから、こそっとミシェルに耳打ちする。
「あのさ、モンサンって何?」
実は私も知らない。
人じゃないとは思うけど、正確なところは分からない。
「モン・サン=ミシェルは、聖なるミカエルの山と言う意味です。モンは山、サンは聖なる、ミシェルは、大天使ミカエルのフランス読みなんです」
ミシェルは、携帯で調べたルートを走り書きしながら、私を見てにこりと笑った。
「へぇ~ミシェルって名前、天使からとってるんだ」
ぴったりだ。ふんわりと柔らかそうな金色の髪(今は短いけど)、透き通るような目の色、死角のない完璧なミシェルの容姿は王子とも言えるけど、天使とも言える。
「キリスト文化圏では聖書から名前を取るのは珍しくないんです。例えば、ミケランジェロとかラファエロとかもそうですよ」
天使に名前負けしないのも凄いなぁと感心していると、照れた感じのミシェルが、名前仲間を挙げた。
ラファエロは分かるけど、ミケランジェロのどこが天使?と首を捻る私に気付いて、ミシェルがMichelangeloと走り書きしたメモを渡してくれた。
「ミシェル、エンジェルとも読めるでしょう?」
「本当だ!」
これは面白い豆知識だ。未だに行先をディスカスしている友だちに披露しよう。
「あとさーこの入場チケットって当日購入って結構並ぶ?」
「状況次第だとは思いますが、調べてみますね」
それからしばらく、ミシェルとフランスの見どころについて話していたけど、またも中断することになった。
今度は空手メンバーではなく、例の雑誌を持って、きゃっきゃはしゃいでいる女の子の集団が、ミシェルを訪ねてきたのが原因だ。
断髪で落ち込んだミシェルの人気が、雑誌の写真ひとつで一気に浮上している。
ミシェルは困った顔をしながら断っていたけど、昨今の女子大生はかなり積極的だ。半ば強引に連れ出されていった。
「狭霧さん、あとでメールしますから!」
「うん」
振り返りつつ、ミシェルが私に声をかける。私は分かったと頷いて、手を振った。
「うぉっ、今の子たち、野田のことすげぇ目で睨んでいたぜ~おぉっ!ここで革命っ」
「…それは私も気づいた…。久々の絶対零度ビームだった…」
ミシェルと連れ立って出て行った女の子たちは、ミシェルから見えない位置で、私を睨んでいった。ミシェルを見るうるうる潤んだ目をすっと細めて、ばしゅっとビーム。
殺気に慣れてるはずの私が、怯んだ。
一瞬で女の子たちの熱っぽかった温度が氷点下まで変わるのが、怖い。
「たまにいるんだよね~有岡先輩とか、ミシェルとどういう関係なのか聞いてくる子」
先輩は卒業したし、ミシェルは木下さんと付き合っていたから、暫くはご無沙汰だったけど。
「くそっ…パス!野田って、男だけじゃなくて、女の子の敵でもあるんだなー」
「女の子大好き~な俺らでも、あの勢いで問い詰められるとこわこわって思う時あるしなぁ~、縛りっ」
「年上のお姉さまの迫力には俺らもちびる時あるしなー、更に縛りっ!」
「なんで、そっちも?流石に女の子たちも、そこまで邪推しないっしょ」
メンバーはうんうんと頷き合っているが、話が読めない。
「ちげぇよ!お前について、俺らに探り入れてくんのっ、ここで8切りだっ!」
「差し入れの時とか、試合の時とか、野田のこと聞いてくんだよ!俺なんて2だ!」
「うぉぉっ!パスだ、パス。俺も聞かれたことあるー。あの子、有岡君を追って空手サークルに入ったんじゃないの?とか、ミシェル君が入るって知って、先回りしたんじゃないのとか何とか」
「先回りって私はエスパーかっ!……っーか、初耳なんだけど。その時言ってくれればいーのに」
大部分の女の子は私を見て、ありゃないわ~あのシャツはないわ~あの子が有岡さんとミシェル君と?ないわ~と引き下がったらしいが、中にはそれでも疑う女の子がいたそうだ。
直接言ってくれれば、その場で先輩にしろミシェルにしろ、何ら疑う様な関係ではないと説明したのに。
「俺ら、そういうことあったらまず有岡先輩に報告するよう言われてたから。食らえっ砂嵐!」
「へ?」
「俺も。先輩に言った後は何もなかったし、別に野田に言わんでもいいかーって。俺、あがりっ!」
「え?」
それも初耳なんだけど。
「次は、一休さんしようぜ、一休さん」
「あ、私もやる」
気を取り直して、トランプを囲む輪の中に入る。
先輩の話は全く知らなかった。
その件に関しては今度会ったとき、直接先輩に聞いてみよう。
ちなみに一休さんをやったら、トランプが廃棄処分になった。白熱しすぎだ。