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下手な励まし

「…!正月におばあちゃんに聞いたんだけどっ!」


「何の話だ?いきなり」


 ポンと手を打つ私を水原が怪訝そうに見たけど、気にせず話を続ける。


「今から19年くらい前に起こった不幸な出来事。ご近所ではザリガニ事件って呼ばれているんだけど…」 

 

 まだ私が3歳になる前の話しだ。

 

 ママと池でザリガニを釣ってきて、水槽に入れて飼っていた。

 大きなザリガニと中くらいのザリガニ、小さなザリガニをそれぞれ1匹ずつ。

 

 大きいザリガニをパパ、中くらいをママ、小さいのを狭霧。

 そう名付けて世話をしていたある日、悲劇は起きた。

 

 その3匹が家族のような愛情を持って、水槽の中で暮らしていると言うのはこちらの勝手な解釈だった。


「パパがハサミを振り回してるっ!狭霧が危ないっ」


「ママ、いたいいたいよ~っ!」


 ザリガニは喧嘩早く、共食いする生き物。

 体が小さい方が餌食になるというのは、自然界では当たり前のことだ。


 でも大きいのはパパで、小さいのは狭霧だと思っていた幼少の私と、それに合わせて同じ呼び方をしていたママはショックで大声を上げてしまった。

 

 急いで洗面器に水を入れ、ママと狭霧を救出。

 ママはこれで安心、あとはパパが帰ってきたら相談しようと思っていたらしいが、大きな問題が起こっていた。

 

 パパがハサミを振り回してるっ!狭霧が危ないっ!と言う声が近所に響き渡っていたのだ。

 ついでに泣いている私の、いたいいたいと言う声も。

 

 何も知らずにパパ帰宅。

 近所の白い目とヒソヒソ声に晒されながら。

 

 ここで唯一幸運だったのは、お隣がママの実家だった。

 おばあちゃんは玄関先で、ママを説教。

 何となく見ているご近所の方々にも状況が把握できるように、わざとやったらしい。


「全く…ちゃんと反省しなさいよっ!」


 と言うおばあちゃんの締めくくりの言葉に、ママはションボリしながら


「うん。もう小さな水槽でザリガニは飼わないし、大きな声はあげない」


 と答えた。


 おばあちゃんがポーズではなく、本当にママを叱り始めた。おばあちゃんはご近所に迷惑をかける行動は慎みますという言葉が欲しかったらしい。

 

 しおしおと反省中のママを庇うパパ。


「洸君はそうやって真琴を甘やかすから…くどくどくど…」


 パパ、とばっちりで叱られる。

 

 おばあちゃんに2人が叱られている間、私は


「パパはほんとのパパないよ~」


 と入れ替わるギャラリーに向けてパパの無実をアピール。


 ハサミを振り回していたパパは、ザリガニのパパでここにいる狭霧のパパじゃないよーと言う意味で言ったらしいけど、ご近所さんは義父と誤解。


「大きなザリガニをパパと呼んでいたと言えば、誤解は解けると思うが」


「その時の私、さ行が上手くしゃべれなくて、ザリガニって言いたくなかったらしいよ。小さい子って“さ”が“ちゃ”になったりするじゃん。年齢聞かれて、にちゃいって答える典型的なパターン」


 2歳児のプライドからか、それともパパの無実を証明するためにははっきりといえる言葉を使ったほうが良いと思ったのか、記憶がないので分からない。


「でも君、名前に“さ”が入っているじゃないか」


「そうなんだよ、そこで新たな誤解を招くわけなんだけど」


 “さ”が“ちゃ”になるなら、のだちゃぎりとなるはずだ。

 しかし子供とはそう一定のルールを守るものではないので、のだちゃーりーと名乗っていたらしい。


「本当のパパじゃない発言の後に、野田チャーリー。ますます怪しい」


 昔から住んでいる人は、私の名前も知っているし、事情をすぐに察したんだろうけど、そういう時に限って疎遠な住民がいたりする。

 

「えー、何を言いたいかと言うと、何も悪い事をしていないパパがご近所の白い目に晒された上、おばあちゃんに怒られると言う理不尽な目に遭ったわけです。ついでにその事件中にザリガニ大脱走、大捜索のオマケ付き」


 そう締めくくって、大阪の銘菓を食べる水原をちらっと伺う。

 本人に罪がなくとも、理不尽な目に遭うことはあるよねと言う話をしたかった。


「えー…まぁ…そういうことで…」


 声が小さく消えて終わった。

 

 結婚式に出るとか出ないとか、家族の関係はどうした方が良いとか、私には全く分からない。

 その辺を外して励まそうと思ったけど、何だか途中から間違っている気がした。


 パパは理不尽な目に遭ったけど、それ私のせいでもあるし。

 何をしたかったんだろう…と自問自答。


「ごめん、今のなし」


 なかったことにしよう。


「君は、母親似だろう」


 ありがたいことに、水原はその話には突っ込んでこなかった。


「ううん。私はパパ似だよ」


 話題の変更に乗って答える。

 私は外見も内面もパパ似だと思っている。


「身長の高さもパパに似たし、性格も男っぽいと言われるからパパ似」


「会ったことがないから外見は分からないが、内面は明らかに母親似だ」


 ぷるぷる首を振って否定。


「実はね、ママはうーん…何ていうか…ちょっとドジなところがある天然な性格なんだよね。この間もママが熱々のうどんの汁をちょっと足に零してさ、冷やした方が良いよって言ったら、ママがうどんをふーふーしてた。パパはすぐに氷を持ってきてた」


 天然のママ、冷静なパパ。

 どちらかと言えば、私はパパに近いと思う。パパほどしっかりしているかと言われれば全否定だけど。


「実はねと打ち明け話のようにされても困る。分からないやつはいないとしか答えようがない」


「確かに。ママの行動って天然だよね」


「………………………」


 うんうん、と頷く。

 

 話題が逸れた事にほっとして下手な励ましは止めよう、と反省。

 今日、このタイミングで水原に家族の話をするのはどうなんだろとも思い


「えー…っと…大阪ってご飯とお好み焼きが定食で出てくるんだってねっ!」


 無理やり話題を変えた。

 

 言った後で、ちょっと後悔。事の真偽は定かでない。

 えーっと続きを口ごもる私に


「…別に俺は、君の家族の話を聞くのは嫌いではない」

 

 さらっと告げる水原。

 たまにエスパーかと思う。


~後書きじゃないお知らせ②~


パソコン、余命宣告されました。

入院は検査だけで、治療には6万8千〇百円かかるとの事。


宜しいですか?と聞かれ、宜しくないと答えました。

買い換えます。

のでデーター移行などの設定で、もう暫く更新停滞中になりそうです。


合間にちょこまか書きつつ、キリが良いのでストーリーの改訂も同時進行しようかと思っています。

よろしくお願いします!

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