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こじれた結果

「あのさ…私、今日は帰るね」


 小声で囁くと、水原は不機嫌そうな表情になった。


「何故だ。あんみつとアイスクリームは?」


「この状況でアイスを作る度胸はさすがにないっ!」

 

 最優先事項あんみつなのかっ!と思いながら、部屋に戻って鞄を掴む。

 複雑な話が始まりそうなので、そうなるとやっぱり私は邪魔だろう。


 水原のお母さんに出来る限り丁寧な挨拶をし、部屋に入ってきた水原にじゃねっと軽く手を挙げる。

 音を立てないように後ろ手に扉を閉め、玄関に直行。

 

「…………………靴がないっ!」

 

 玄関には高そうな草履だけ。

 水原の靴もない。

 どこにやったんだっ!と玄関を探るものの見つからない。


 息子さんに靴を隠されましたと部屋に戻ることも出来ず、玄関とキッチンを行ったり来たりする。

 

 牛乳を出しっぱなしにしていたことに気付き、冷蔵庫に収納。ついでに作った抹茶寒天が固まっているか確認。

 

 寒天はゼラチンよりも固まるのが早い。

 うーんと悩んだ末、そーっと気配を消してあんみつを作成。

 

 物音を立てないように細心の注意を払う。

 こっそりクッキングなんて初めての挑戦だ。

 

 寒天と小豆、白玉を皿に入れ、ラップをかけて冷蔵庫に戻していると、部屋の扉が開いた。

 

 ぎくしゃくとした動きをする私に水原のお母さんは、にこりと上品そうな笑みを向けるとすっとした足捌きで水原の家を出て行った。

 

 部屋をそっと覗きこむ。

 背を向けているので水原の表情は見えない。


「………あんみつ、食べる?」


「食べる」


 冷蔵庫から皿を取り出し、市販のバニラアイスを乗せて完成。

 自分の分も持って、水原の前に座る。


「あのさ~…お母さん用事、何だったの?」


「兄が結婚するらしい。その結婚式に出て欲しいと言う話だった」


 お母さんの来訪はそれが目的だったらしい。

 

「やはり冠婚葬祭に血縁上の弟が出ないのは問題あるだろうか」


「問題っていうか…お母さんは水原と会いたいだけのように感じたけど」


「…どうなんだろうな」

 

 水原が端的に家庭環境を語った。


 水原の両親は、北海道で旅館を営んでいるらしい。

 水原のお母さんは和装が似合って上品な立ち居振る舞いだった。

 女将といわれると納得する。

 

 両親は旅館にかかりきりで、子供にあまり時間を割けなかった。

 ご飯は旅館で出すのと同じもの。豪華といえば豪華だけど、羨ましいかと聞かれれば、そうでもない。

 

 水原の子供時代があまり想像つかないが、手がかからない子供だったらしい。

 本人談なので、疑うべき点はあるが、スイーツの面を抜かせば確かに自立精神はある。


「ある時父親が計算ドリルを持ってきた。言われた通り終わらせたのに、父は俺の大事な本を取り上げて、燃やした。全く理由が分からなかった。なぜ母や兄が、父を止めてくれないのか、それも分からなかった」


「あ~…それはですね…」


「少し経ってから母に聞いた。父は俺が答えを丸写ししたと疑って、本を燃やしたんだろう」


 むっ…難しい問題になってきた。

 

 少し経ってから聞いたって事は、それまで水原は何で本を燃やされたのか理由が分からなかったわけだ。

 その間、家族への不信感が募っている。

 

 何で本を燃やしたのか、と言う問いにお母さんはそう答えたけど、お父さんはそう言わなかった。

 だから同じ本を買ってやっただろう、と答えたらしい。

 

 水原にとっては同じ本ではなかった。

 水原の家族は些細な事だと思ったが、水原にとってはそうではなかった。 

 

 大事なものを失ったその時に、家族が誰も味方をしてくれなかった事。


 それにより出来た溝は埋まらぬまますれ違いを重ね、高校進学を機に水原は家を出た。


「結婚式か…」


 スイーツを食べているのにピリピリしている水原は初めて見た。

 スイーツセラピーが利かない。


 寛いでいたデビーナを引っつかみ、水原の前に差し出す。

 アニマルセラピーを期待するも、デビーナは後ろ足で水原の顔面にキックを食らわす。


 しずしずとデビーナを定位置に戻し、正座。

 水原から何がしたいんだ?と言う視線を感じる。


「あのさ…ごめん。やっぱり家にあげちゃまずかった?」


 ちらっと水原の顔を伺う。

 お母さんにも複雑な思いを持っているから、家に上げなかったのかもしれない。


「別に良い。まさかあのタイミングで来るとは思わなかった」


 あのタイミングって水原が牛乳を買いに行った30分程度の不在時間のことだ。 

 言葉のニュアンスに引っかかりを覚える。


「あれ?その言い方って…お母さんが今日来るって知ってたの!?」


「ここ連日押しかけて来たからな。今日も来ると思ってた」


「言ってよっ!」


 お母さんの訪問を知っていたら来なかったし、来てから聞いてもすぐに帰った。

 しれっとした顔で水原はそっぽ向いている。 


 行くのか行かないのか気になったけど、結婚式は先の話なので、まだ悩む時間は沢山ある。


「ところで、私のサンダルどこにやった?」


 あんみつを食べているフォークで水原はクーラーの上を指差した。

 

「埃塗れになるじゃんっ!」

 

 ぎろっと睨みつけて、あんみつを取り上げる。


「冗談だ。君の靴は新聞の下だ」


 経済新聞の下を見れば、私のサンダルと水原のスニーカーがあった。

 単純な隠し場所だったけど、お母さんがいるのに、捜索するわけにはいかないので部屋にある限り結果は同じだ。


 結局、結婚式に出るのか、出ないのか答えは聞けなかった。



~お知らせ~


パソコンから妙なカラカラ、ビーンと言う異音がするので今夜パソコンクリニックに持って行く予定です。


電話したところ部品交換をしなければいけない可能性があると言われたので、入院になるかもしれません。


更新と感想のお返事、戻ってきてからになります。


よろしくお願いします☆

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