就職活動
書類、筆記試験はクリアできても、そこから中々進まない就職活動。
二次面接してきたけど、手ごたえはなし。
はぁっとため息をつきながら部室の隅に置いてある教科書を探す。
「おーい、野田!元気ないな」
「就職活動ばっかりで、飽き飽きしていると思ったからお前の教科書、部室に隠しておいたぞ。気分転換になるだろ」
「ならないっ!とっとと出せ」
ノートも隠しておいたぞ、と言うメンバーを軽くアッパー。講義を受けたあと、就職指導課に行く用事があって時間がないのだ。
「いってぇ!いつもよりもいてぇっ!」
野田が八つ当たりする~と訴えるメンバー。
「見るからに手負いの野田に手を出すお前が悪いっ」
「激しく同意。やんちゃすぎる」
上手くいかない就職活動に苛々している自覚はある。
はぁっと溜め息が止まらない。
「まぁ、野田も元気出せよ。来週、有岡先輩が来るらしいからさ。そこで対策を聞けばいいんじゃね?」
有岡先輩にはホワイトデーに会ったきりだ。
新社会人の先輩も何かと忙しいようで、最近ご無沙汰になっている。私自身学校に来るのが週1になっているので、顔を合わすのが久しぶりのメンバーが多い。
面接で躓いてばかりなので、ここは先輩にアドバイスを貰おうかと来る日を聞けば、ちょうど一次面接と被っている。
はぁっと溜め息を吐く。
筆記まではスムーズに行くのだが、面接が不採用ばかり。
どこをどうすれば良いのか、セミナーを受けたり、ビジネスマナーを学んだりしているが、それだけでは足りない。
今日は圧迫面接と言われるものに、初めて遭遇した。
話には聞いていたが実際やられると、かなり心が磨り減るものなのだと実感した。
面接官がわざと困る質問をしてきたり、こっちの言葉を全否定したりプレッシャーをかけてくる。それをどう切り抜けるか評価の分かれ目になるようだけど、うろたえてしまう。
あなたがこの会社に入ることによって、わが社にどのような得があると思いますか?と言われ、頭の中が真っ白。
最後の言葉は、あなたは当社に向いていませんね、だった。
ここまでの面接は初めてで、心がやられた。
「圧迫かぁ~つれーよな。あれは。俺が何言っても、だから?しか言わない面接官とかいて、もう心がメタメタ。ストレス耐性テストらしいぜ」
「そうなんだ…」
「有岡先輩は圧迫面接、何か楽しんでたっぽいけど。あんたなんて採用する気ないけど、どうしてもって言うんなら志望動機とか聞いてあげてもいいよ?って感じで脳内でツンデレ変換するらしいよ」
「何それ…」
「俺も真似してみたけど、無理。威圧感たっぷりのおじさんが嫌味なこと言ってるとしか思えなくて、冷静になれんかった」
「野田は初めてか~。IT関連とか多いぜ。でも野田は食品会社の事務職希望だろ。そういう職種はあまりないはずなんだけどなぁ。その会社にマイナス印象持つじゃん。俺ら消費者でもあるのにリスキーなことするよなぁ」
聞けばみんな難航しているようだ。
自分だけじゃないのに、暗くなって駄目だなぁと思いながらも溜め息が止まらない。
就職指導課に行った帰り、そのまま水原の家に寄った。
お菓子を作る元気すらないが、同じく頑張っている同期メンバーに愚痴るわけにはいかず、来年就職活動を控えている後輩メンバーにも、まして新社会人で四苦八苦している先輩メンバーにも愚痴るわけにはいかない。
早々に就職先を決めた水原が最適だ。
だってさ、でもさ、とブチブチひざ掛けの毛玉を毟っている私を、水原は迷惑そうに見た。
「君、うるさい。黙って就職活動したらどうだ」
お菓子を与えれば私が黙ると思ったのか、水原は小さめの箱を放ってきた。
箱を開けると、マロングラッセが入っている。
それを見て、どん底にあった気分が少し浮上した。
マロングラッセは1番好きなスイーツだ。
栗の質で味が大幅に変わるので、自分で作ることはしない。
買った方が断然美味しいからだ。
しかしマロングラッセは高級品で、就職貧乏の私は最近口に出来てなかった。
「さすがはスイーツの王様と言われるマロングラッセだ…ういしー」
うまいと美味しいが混じった。
そのくらい美味しいマロングラッセだった。
大粒の栗が柔らかく、糖蜜とブランデーで煮込んである。
面接対策の本を読みながら、活動をもっと広範囲にしなきゃ駄目かな?と悩む。今まで、家から通える企業を希望していたが、そういうわけには行かなくなってきた。
「1人暮らしも視野に入れて、地方も受けるか」
ぼそっと呟くと、まったりとグルメ雑誌を読んでいた水原がばっと起き上がった。テーブルが揺れて、お茶が零れそうになる。
「おまっ!危ないよっ!」
テーブルの上には提出書類や参考資料が乗っているので、それにお茶を零せば、面接以前の問題になってしまう。
「1人暮らしってどこでするんだ?」
「へ?どこってまだ決まってないけど。今まで転勤がない事務職希望していたんだけど、これからは総合職に変更して、家から通えない勤務地でもどんどん受けるつもり」
どこかに受かればの話なんだけど、と言いながら明後日に面接がある会社の資料を読む。
資料を貸してみろ、と言われ読んでいたそれを渡す。
一通り目を通した水原が、会社について質問してくる。
資本金、創業時の従業員数、売り上げの伸び、社訓など答えられずにぽかんとしてしまう。
「いや、まだ覚えてない」
これから読もうとしていたのだ。
そんな私を水原は一途両断に切り捨てた。
「遅い、甘い。面接は明後日なんだろう。会社について把握しているのは大前提だ」
「へ?うん、だから今日と明日で…」
「リサーチ不足過ぎる。だから落ちるんだ。そもそも君、志望企業の長所ばかり見てないか?しかもその長所を面接でアピールしている」
「え…そうだけど…」
志望動機とかでは特に、その企業のどこがどう優れているか、それに魅力を感じ働きたいとアピールしている。
「それじゃ駄目だ」
水原に駄目だしをされた。
「面接はどれだけ印象付けるかが大事だ。その企業の問題点をあげ、改善点を挙げる。企業も多くの学生に応募して欲しいから自社の良いところを全面に出しているんだ。そうした中で、あえて分かり辛い企業の短所を指摘し、尚且つ有効な改善法を提案すればかなり印象に残る学生になる」
水原の勢いに飲まれながらも、なるほどと頷く。
「君、日曜の予定は?」
基本的に土日は面接などの予定はなく、セミナーもない。
首を振れば、水原は携帯を取り出し、メールを打ち始めた。
「丸田さんのお店で、地下甘党の役員の集まりがある。レンジさんたちは、大企業の重役だ。面接対策など聞いて参考にしろ」
「え?プライベートの時間に迷惑じゃないかなぁ?」
せっかくの休日のスイーツを楽しんでいる時に、就活対策など聞いたらうっとうしいと思う。
「君のことは、レンジさんたちも大分気に入っているし、気に掛けていたから大丈夫だ」
「でもなぁ~…」
悪い気がして躊躇う私。
「良いか、持てるカードは全て切れ」
「………はい」
何だか分からないが、水原が非常に協力的になって、手を貸してくれた。
かなりスパルタだったけど、今までの就職に対する姿勢が甘かったんだなと反省した。数打てば当たる方式で膨大な企業をエントリーしたから、1社にかける時間が短かったのが大きな敗因だ。
レンジさんたちも色々教えてくれてためになった。
そうして、6月初句。
希望していた食品会社から内定を貰った。