表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/89

スイーツ堪能中

 

 学校でも木下さんはお洒落だけど、プライベートはもっと華やかで煌びやかな感じだった。


「ここに入るんですか?」


 言われて大きく頷く。

 そうなんですか、と言いながら木下さんもお店の様子を覗いている。


 キラキラとしたスイーツが並ぶ様は、心惹かれる空間だ。


「優衣も入りたいのか?」


 木下さんは1人ではなかった。

 スーツを着た30才くらいの男性と一緒だった。

 

 本庄さんと言って親しくしている従妹のご友人なんですと紹介されたので、軽く頭を下げる。


「優衣、ここでお茶をするか?」


「あれ?木下さんたちも昼ごはん食べてないの?」


 そう聞けば、別の場所で食べてきたと首を振られた。


「まぁでも1個くらいなら食べれるだろ」

 

 本庄さんがすごいことを言い出した。

 1個ならスイーツビュッフェに入らない方が良い!と思ったけど、他人が口出すことではないのでぐっと我慢する。

 

 流れで木下さんたちと一緒に入ることになった。

 私たちの順番で4人テーブルが空いたらしい。

 水原と2人で使っても良いが、知り合いならばご一緒しますか?とお店の人に聞かれた。

 

 面識がないメンバーで同席するのはどうかな?と思ったけど、木下さんが是非と言うので一緒に座ることになった。

 

 2人はそんなにお腹が減っていないようで、ケーキを1,2個取ると、後はまったり紅茶を飲んでいる。

 

 対する私と水原は90分に勝負をかける。


 本庄さんは饒舌な人で、ずっと話していた。

 本庄さんの話に相槌を打つものの、食べるのに夢中の私と水原はほぼ無言。

 木下さんは頻繁に震える携帯を開いては、ポチポチとメールを打っていた。


 同性だからか本庄さんは、水原に良く話を振る。

 しかし水原はスイーツ一直線のため、若干会話がずれる。


「水原君は免許持っているのかい?君くらいの年齢だと車に憧れを持つだろう。ちなみに俺は馬のマークの車に乗ってるけどね。馬のマークの車って分かるかなぁ?」


「馬に興味がないので分かりません」


 水原がムースを食べたまま視線を向けずに答える。

 チャリチャリ車のキーを指で回していた本庄さんが、ちょっと引き攣った顔をした。


 話半分なのが丸分かりなので、軽く肘で突く。


「車に興味ないのかな?珍しいね」


 水原の興味の対象はスイーツのみだ。

 特に今の時間は。


「水原君、スーツは?男は最低でも10着は持っておいた方が良いよ。俺のこれはアルマー〇だけど」


 本庄さんの言葉に、水原がふっと小さく笑った。

 何で笑ってんの、失礼だよと肘で突く。

 

「君が間違えてアニマールって言ったこと思い出した」


「私を笑ってんの!?」


 失礼なやつだ。


「サイドメニューにパスタがあるね。イタリアンを食べるとワインを飲みたくなるな。野田さんはワインとか好き?俺、ソムリエの資格を持っていてね。ワインのことなら何でも答えられる。何年にどこで取れたブドウで、どういう製造法とかね。嘘だと思う?」


「いいえ」


 水原がクリームが少ないシュークリームに、チョコムースを挟むという無茶をしだした。

 何なんだ、その2個食いはっ負けてられん!と私もケーキを追加。


「野田さん、ワインの銘柄をいくつかあげてみてくれる?本当だってことを証明してあげるよ。ボージョレとかドンペリとかロマネとかメジャーじゃないものでも良いよ」


「私、ワイン全然飲まないので」


 水原がアイスをダブルで持ってきた。

 皿の上で重ねてもなぁと思ったけど、対抗意識が出てきてトリプルに挑戦。

 バニラ、ストロベリー、抹茶の順に乗せる。


「1つくらい知ってるでしょ?」


「…赤と白?」

 

 ワインは美味しく感じないので全く飲まない。

 

 本庄さんが違う回答を待っているように感じたので、助けを求めて木下さんを見たけど、木下さんはメールを打っている。


 駄目もとで水原を肘で突くと


「ロゼ」


 と教えてくれる。

 ロゼと言えば、本庄さんは肩を竦めて苦笑した。


「このチョコケーキ、何が入ってるんだ?」


 水原がチョコケーキを食べて、思案顔。

 そうは言われても私はチョコケーキを食べてない。チョコは甘いので、ビュッフェでは極力外すようにしている。

 

 水原の皿からケーキをちょっと取って味を確かめる。


「これ、あれだ。ジンジャーチョコケーキ。ジンジャーとシナモンとラムが入ってると思う。苦味が強いなら、バニラアイスを添えたら良いんじゃない?」


「なるほど」


「あと残りは30分だから、ゆっくり取ってきても大丈夫だよ」


 席を立つ水原に本庄さんが腕時計を見せる。

 私にも腕時計を見せてくれるけど、店内に大きな時計があるので不要な気遣いだ。


 木下さんがロレッ〇スですと小声で耳打ちしてくる。

 え?何?どのケーキのこと?

 

 木下さんの話が分からなかったけど、それも美味しそうだねと答えて離席。タルトが焼きあがったので、一刻も早く馳せ参じなければならない。

 タルトは数種類をローテーションして焼き上げるので、すぐになくなってしまう。


「君、素早いな」

 

 案の定水原は逃している。


「自慢じゃないけど、私の反復横とびはすごいよ」


 仕方がないので、半分分けてあげた。

 

 主だったケーキは一通り食べた。

 高評価の口コミは嘘ではなく、どのケーキもしつこくない味で、飽きが来ない。


「水原君たちはこの後、ここで買い物でもするの?」


 本庄さんの言葉に、水原を見る。

 特に今後予定はなかったが、折角来たので、ぐるっと見て帰ろうかと思う。


「でも学生には敷居が高い店が多いかもよ。俺は今日、ホワイトデーのお返し買いに来たんだけどね。20個以上買わなきゃいけないから、優衣に選んでもらうんだ。優衣へのお返しもまだ買うつもりだしね」


「あ、大丈夫です。見るだけなので」


 食べすぎたので、腹ごなししたいだけだ。

 既にホワイトデーのお返しは用意してあるし、買いたいものがあるわけではない。

 

 携帯を弄っている木下さんが、ご一緒にどうですか?と誘ってくれたけど、それは遠慮した。本庄さんが入るお店はジュエリーショップとかブランドショップとかで、全く興味ない。


「支払いしようか?大した額じゃないし」


 本庄さんが何かすごいことを言って、黒いクレジットカードを見せてきた。

 

 水原が断ると


「水原君は、クレジットカード持ってるの?俺は学生時代から何十枚も持っていたけど」


 水原が取り出した財布を、どれどれと覗き込んだ。

 水原の財布には数枚のカードが並んでいる。


 クレジットカードじゃなくて、テレフォンカード。


「いらないじゃん。携帯持ってるんだから」


「オーダーして作ったカードだ。君が欲しがってもやらないぞ」


 ロールケーキを作ってるこびとのテレフォンカード。

 こびとたちが力を合わせて、必死にケーキを巻くのが可愛い。


 山盛りのお菓子の中にこびとが潜んでいるテレフォンカード。

 お菓子に擬態しているのが面白い。


 お菓子を背に庇い、フォークとスプーンで猫を威嚇するこびとのテレフォンカード。

 お菓子を守っているけど、猫はこびとを狙っているんだと思う。

 猫の性質上動いているものに興味を示すし。

 

 どれも見たことがあるこびとたち。

 オーダーと言ってもデザインは自分でやったようだ。

 完成度が高すぎるそれを、まじまじと凝視する。


「……誕生日だし、1枚だけならやる」


 渋々といった感じで、水原がカードを差し出してくる。

 欲しくて見てたわけじゃないんだけど。


 でも貰った。

 ケーキ作りに疲れ果てたこびとが、スプーンをベッドにして居眠りしているカード。

 こびとと同じ大きさの人間の手が風邪を引かないように、ハンカチをかけている。

  

 ほのぼのして癒される感じだ。


 約束どおり、ビュッフェも奢ってもらい、そのままぶらっと遊んでから帰宅した。

 

 良い感じで気分転換出来たけど、ネットを立ち上げれば、企業や就職サイトから多数メールが来ていて、その気分は急下降してしまった。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ