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バレンタイン(オマケの騒動)

「俺たちが間違っていました」


 2名を外し、メンバーが土下座している。


「我ら空手サークルが誇るお三方の協力なくして、チョコ作戦が成功するはずがないと今更ながら思い当たりました。つきましては今からでも間に合うチョコを手に入れるご指導を願えましたらと…」

 

 ははぁっとばかりの土下座するメンバーの後ろで、びりびり本を破る男が1人、小声でぶつぶつ言いながら膝を抱える男が1人。

 

 軽くカオスだ。

 

 切実にチョコが欲しい気持ちを先輩に訴えている。

 

 なるほど、と同意しながら何度も頷く先輩。

 私は散らかった部室を軽くブルドーザー走行しながら、破った本を燃やそうとするメンバーを頭突きで止める。


「あい分かった。諸君のやるせない気持ちはしかと受け取った。野田、例のものを」


 先輩に呼ばれて、入口付近に置いておいたコンビニ袋からチョコを取り出す。

 バレンタイン限定販売のちょっとリッチなチョコレートだ。


「野田ーっ!お前って奴はっ!用意してくれたのかっ~」

 

 この日にチョコが食べられるだけで、こんな嬉しい気持ちになるとは思わなかったとひれ伏したままのメンバー。

 どんだけチョコに思いを馳せているんだろう。


「ちなみにこれは俺とミシェルで買った」


「…は?野田は?」


 ぽかんとするメンバー。

 やっぱりまずかったかなぁ?と思いながら、せんべいを取り出す。


「お前っこの期に及んでせんべいかよっ!」


「空気読まないにも程があるだろっ」


 ガンガンに責められて、一応言い訳。

 コンビニで商品を見る前まではお徳用チョコを買うつもりだったのだ。


 しかしバレンタインだからか、通常商品は品薄だった。

 残っている大袋のチョコは298円から。

  

 バレンタインチョコのコーナーもあったけど、それなりのお値段。

 所持金200円はお呼びでない。

 

 どうしようかなぁ?とクルクル回りながら、何を買うか悩んでいる私の目に飛び込んできたのは、美味しそうな新商品のせんべい、198円。


 せんべいは駄目だよね~でもすごく美味しそうだなぁと商品を取ったり戻したりする私を見て、先輩とミシェルがチョコを買うことになった。

 

「音が出ないぬれ煎だよ」


 せんべいにした決め手をアピール。


「そういう問題じゃねーよっ」


「お前の気の使い方間違ってんだよっ!」


 クレームの嵐だ。


「っつーかお前が食べたかったんだろっ!」


「……………………まぁ…ちょっと」


「図星かよっ!」

 

「落ち着け諸君、チョコでも食べて血糖値をあげたまえ」


 先輩が袋を開けるとわぁっとチョコに群がるメンバー。

 血糖値が上がったおかげか、少し落ち着きを取り戻すも、まだ土下座。


「チョコは美味しく頂きました。しかしながら師匠、我々が真に得たいのは、今日限りのチョコに有らず。永久に続くモテスキルなのです」


「よろしくご指導下さい」


 有岡先輩とミシェルに椅子を用意して、自分たちは床に正座している。

 私は、自棄になっていた2人を、頭を使って正気づかせたので、ちょっと疲れて眠くなってきた。

 

 昨日は夜遅くまでチョコを作っていたので寝不足だ。


「ここに1冊のモテ男マニュアルがあります。モテル仕草を日々練習し、もてる発言を丸暗記しました。しかしチョコゼロと言う有様です。バイブルと崇めていたこの本に書いてあるのは嘘ということでしょうか?」


 先輩はせんべいを食べながら、本を開いた。

 パラパラと捲ってうーんと唸る。


「そうは言っても、俺も良く分からん。女性はミステリアスな存在だからな。ミシェル、どうだ?」

 

 ぽいっと本を渡す。

 本をパラ見してミシェルもうーんと唸る。


「こう言うマニュアルはあくまで基礎であって、臨機応変に変えなければならない気がします。ですので、これを丸暗記したからと言って、実際女性の心が掴めるのかは僕もちょっと判断できません」

 

 ふむふむと頷きながら、メモを取るメンバー。

 

 あまり真剣な眼差しを向けられて、先輩もミシェルも居心地悪そうだ。


「例えば、その本の4章の58ページの5行目に女性はどんなに些細な事でも褒められるのが好きと書いてあります。師匠、その真偽はどうなのでしょうか?」

 

 本を見ないで、ページと行を言えている。

 丸暗記したというのは嘘ではないようだ。

 

 その努力を別のところに回した方がいいんじゃないかなぁ?と思いながら机の上に突っ伏す。眠いので帰りたいが、もうちょっと様子見してからにしよう。


「ミシェル、パス」


 有岡先輩がミシェルに振る。ミシェルは少し困ったように首を捻る。


「褒められて嬉しくない人はいないと思います。ただ間違った褒め方をすると、怒ってしまう人もいるので、難しいところかと…」


 僕にも良く分かりませんので先輩に聞いてください、とミシェルが投げ返している。先輩はいやいや、遠慮するなと投げ返し、2人して師匠スタンスを押し付けあっている。


「俺、多分間違って褒め方してる。だって褒めても喜ばれないし」


「そりゃ、見当違いのところを褒めているんじゃないのか?本人が好ましくないと思っているポイントを褒めても逆効果にしかならないぞ」


 先輩の言葉に、師匠っ!とすがりつくメンバー。


「褒める、褒めるかぁ。きれいだね、とか光ってるねとか言えばいいんじゃねぇの?」


「いや、お前その適当な感じがいけないんじゃないのか?とりあえず褒めとけば良いって言う雰囲気があけすけだと、逆効果にしかなんねぇだろ」


「なるほどね~。良しっ!ちょっと野田を褒めてみる。おーい、野田っ!」


「何だー…」


 巻き込まないで欲しいが、とりあえず返事。


「さっきさぁ、本を燃やそうとする奴に言ったセリフ、光ってたぜ!」


 今すぐ正気を取り戻さないと、来年のバレンタインまで意識を飛ばすことになるぞって言った脅し文句のことか。


「頭突きもきれいに決まってた」


 ぐっと親指を立てて私を褒めたあと、先輩に伺いを立てている。


「こんな感じでどうっすか?師匠」


「きれいと光ってるの二大キーワードを取り入れ、我ながら高スキルかとっ!」


「野田もまんざらじゃない様子っすけど!」


「うーむ。残念だが少し違う気が…ミシェル、パス」


「あー褒める時は、もっとなんて言うか、努力している場所を褒めた方が良いのかなぁ?と思います。先輩はどう思いますか?」

 

 ミシェルが有岡先輩にパス。


「そうだな。生まれ持った性質より、その女性が努力して得たものを褒めた方が高ポイントかもしれないな。例えばある女性が、特定のモデルや女優に憧れて、その女性に近づこうと努力しているとする。それは髪の美しさだったり、スタイルの良さだったり、話し方の上品さだったり、それに気づいてピンポイントで褒めるとかだな」


「あぁ、そうですね。その女性の憧れている人との共通点を見つけて言ってあげるのも良いかもしれませんね。直接的に、〇〇に雰囲気が似てるねとかでも喜ばれるのではないかと思います」


 なるほどーっとメモを書いて頷くメンバー。


「良し。野田で挑戦してみる」


「野田?難しいな、ってか野田が憧れている人って誰だよ?誰と比べて褒めりゃー良いの?」


「俺が知るか。おーい、野田」


「何だー…」


 欠伸をしながら顔を上げる。

 先輩に奢ってもらったココアを飲んで、体が温まったせいか益々眠い。


「お前さー憧れている人とか、目指している人とかいる?」


 憧れている人は何人かいるけど、1番はやはり


「坂本竜馬」


 この人だ。


「リョーマな、オッケ」


 あの行動力と決断力はすごいと思う。


「リョーマと野田の共通点を見つけて褒める。…なんか俺、出来そう」


「俺も」


「あー…諸君、それも残念だが、ちょっと違う…ミシェル、パス」


「もう無理です。僕だってもてる方法なんて分かりません。先輩パス」


 短い距離でパスしあう2人を見て、


「俺さー改めて、思ったんだけど先輩とミシェルのモテカテゴリが違う気がする」


 メンバーの1人が、したり顔で説明しだす。


「先輩の持ち味は、顔と強さのギャップだろ。ミシェルは顔と一致した性格だろ。顔が良いのが大前提になるけど」


「ミシェルは女性には誰にでもジェントルマンだからな。知ってるか?諸君、ミシェルは女の子が1人でも混じっていると、その子に食事のペース合わせてる。その子が落ち着いて食べられるようにだ」


「おぉー知らなかった。ジェントルメェーン」


 ジェントルマンスキルを上げるぜ、と腕を振り上げるメンバーの中で、1人が意義を唱えた。


「ミシェルのやり方を学んだからって、上手くはいかねぇぞ。俺、ミシェルの真似して女の人がお店に入るときドア抑えてみたんだけど、その後に20人くらい連なって入ってきて、ずっとドアボーイすることになったんだぜ」


「げっ!何それ、チップもらえそうだな」


「貰えなかった」


「バカ、お前ら、そういう発想が既にジェントルマンじゃねーんだよっ」


「ミシェルはレディファーストの習慣が根付いた国の王子だぜ。真似するにはちとレベルが高すぎる」


 がっくりと項垂れるメンバー。

 いやいや、でも真似する内に、そのスキルを自分のものに出来ると活気付く。

 

 上がったり下がったり、切り替えが早いなぁと感心しながら机に突っ伏す。


 もう駄目だ、眠さがマックスに来た。

 本の少し寝てから、帰ろう。


「狭霧さん、ここで寝ると風邪引きますよ」


 空調が聞いているとは言え、2月の部室は少し寒い。

 ミシェルは自分が着ていたコートを私にかけてくれた。

 

 それを見て、我先にと真似しだすメンバー。

 私に向かってうぉぉっっとコートを投げまくる。

 眠いので反応が遅れた私は、あっという間にコートの山に埋もれた。


「だーっ!?」


 息苦しい上に、10数名分のコートは重い。

 もがいて脱出。


 完全に眠気が覚めたのでメンバーに報復後、師匠と弟子を置いて帰宅した。


 家に帰って、トリュフ作ろうと言う前に、フォンダンショコラを作ろうと言われた。ママが持っているのは去年のレシピ。

 

 フォンダンショコラは焼き加減が重要。焼きすぎると中のチョコが固まってチョコケーキになってしまう。

 程よく焼けば、熱々のケーキから、とろっとチョコが零れる。

 フォンダンショコラこそ、焼きたてを味わうのが1番。


 ママとフォンダンショコラを作りながら、水原に明日家にいるか問うメールする。


 焼き立てで思い出すのは機嫌が悪く最高傑作を奪って行った水原。

 試験終わってすぐ、ママとトリュフに嵌ったから最近水原の家に行ってなかった。


 イベント時は水原は水を得た魚のように、水陸空飛び回る。

 その邪魔をしている自覚はあるので、バレンタインが終わってから、試験のお礼に水原のリクエスト通りのものを作るかと思っていた。

 

 スイーツのためなら小トリップ日帰り上等の水原も、明日からは家にいる可能性が高い。


 ここ連日、水原はチョコを食べているはずなので、さっぱりしたフルーツ系が良いかなと頭の中でリストを作っている時に、水原から返信あり。


 件名にはフォンダンショコラと書いてあって、色んな意味でびっくりした。

 

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