お節
3日は特に予定はないので、家でのんびりしていた。
ママがお昼ピザで良い?って聞いてきたので、良いよーと答えてキッチンに向かう。
冷凍ピザを取り出した私の隣で、ママがバタンバタンと粉を捏ね出した。
「……………………………」
ピザは好きだけど、生地から作ると多分2時間はかかる。
イースト菌発酵させるのに1時間必要だ。
「パパー。ママがお昼に本格ピザ作ってるけど」
苦笑したパパが来て、ピザは夕飯で昼はうどんにしようなと説得した。
ピザソースを作り始めていたママも、足りない材料があると気付いたらしく了承。
パパがうどんを打ち出したらどうしようかと思ったけど、市販の麺で10分クッキングしてくれた。
うどんを啜りながら、団欒。
「お節も美味しいんだけど、ピザが食べたくなったんだよね」
「ちょっと飽きてきたな」
「そうかな?私は全然いけるけど」
パパとママはお節に飽きてきたらしいけど、私はまだまだ食べたい。
「じゃ、お節ちょっと貰っても良い?」
良いよ~と言われたので、お節食べるか、家に行って良いかと問う主旨のメールを水原に送る。
珍しく数分以内に返信があった。
件名に伊達巻きと書いてある。
伊達巻きをスイーツのカテゴリーに入れている可能性を感じた。
新年も変わらぬ意思疎通が不十分な水原のメールだ。
「言葉のキャッチボールと言うのはっ!」
憤る私の言葉を
「キャッチ&リリース」
ママが繋げてくれる。
「そう!……そう?」
何か良く分からなくなってきたけど、とりあえずお節をタッパーに詰める。
ピザまでには帰ってくるね~と言って、水原の家に向かった。
チャイムを押すと、応答なし。
「まさかの…留守?」
初めての事態だ。
うーん、と悩んだ末、玄関先で待機する。
丁度デビーナが歩いていたので、コートの中に入れて暖を取る。
40分くらいすると、大きな荷物を持った水原が帰ってきた。
「君、新年早々何をしてるんだ?」
寒そうに震える私を家に入れながら、眉を潜める水原。
「伊達巻きってメールが来たから、家にいると思ったんだよっ!」
「なぜ伊達巻きで家にいると思うんだ?」
「……………私が悪いのかっ!?家に行っていいかって質問に対し、伊達巻きって返すお前が悪いっ!」
手を擦りながら、玄関先で怒鳴る。
「冗談だ。思ったよりも君が早く来た」
水原はホットカーペットに電源を入れながら、大きな荷物の紐を解いた。
中から出てきたのは小型の電気ストーブ。
凍えている私は歓声を上げて飛び付いた。
ダンボールを開ける水原の周りをうろうろすると、小型ストーブを渡される。
ビニール袋や発泡スチロールを外して、コンセントを差し込むと、空気が温まってくるのを感じた。
「即暖性、高性能な電気ストーブだね~」
喜ぶ私の前に座った水原は、何だか疲れた顔をしている。
「電気屋っていつもあんなに混んでいるものなのか?」
「初売りセールやるから、年始はいつもより混んでるよ」
暖かさにご機嫌の私は、テーブルを片付けてお節を並べた。うどんは食べたけど、まだ腹八分目の私も食べる気満々だ。
「ほら、伊達巻き」
水原はまず、伊達巻きに手を付け、次に栗きんとん。それから伊達巻きに箸を向け、その後栗きんとん、次はまた伊達巻き、栗きんとん。
「ツーローテーション禁止」
2品を取り上げて、炊き込みご飯、煮物やカマボコ、田作りを押しやる。
「伊達巻きくれ」
「好きだね~。これ、ママの手作り」
「売り物ではないのか」
感心したように、水原がしげしげと伊達巻きを観察する。
「ママの手作りが多いよ。カマボコとか数の子は違うけど。炊き込みご飯はパパが作った。黒豆とか田作りはおばあちゃん」
「ふーん。君が作ったのはあるのか?」
「あー…お雑煮作ろうと思ったけど、具が水死体みたいになったから捨てた」
「賢明な判断だ」
多分何らかの化学反応が起こって、食物ではない何かに変化したんだと思う。
「私が作ったのは、これ。おじいちゃんが好きなお菓子」
肌理細やかに仕上げるのに試行錯誤した黒糖カステラ。
年を取って、食べる量が少なくなったおじいちゃんもこれなら食べてくれる。
薄力粉が良いのか、強力粉が良いのかとかバターの量を減らせないかとか、砂糖じゃなくてハチミツにしたほうが体に良いんじゃないかとか、改良を重ねた。
「財産と甘味を守るシニア会の方が喜ぶかもしれないな」
「シニア会に入ってんの?」
水原の謎が深まったが、新年早々頭を悩ませたくないので、深く突っ込むのは止めた。