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新年

 

 31日は近くの友だちと、小さな神社に除夜の鐘を聞きに行って就寝。


 元旦は10秒でつく隣のおじいちゃんちに行って、お節を食べたあとちーちゃんと初売りセール。

 

 2日は去年と同じく空手サークルのメンバーと初詣。

 木下さんの前で小さな見栄を張って、500円賽銭するメンバー。木下さん目を閉じて拝んでいた時だから、見てないと思う。

 

 私は5円。

 脱ロンリーと就職できますようにと真剣に拝めば


「神でも成しがたい願いを2.5円ずつで叶えてもらおうなんてずうずうしいっ!」


 とメンバーに突っ込まれた。


 うるさいっ!と言いながら、人混みを抜け屋台を目指す。


「狭霧さん」


「あれ?ミシェル。みんなは?」


「他の方は、おみくじを引きにいきましたよ。僕は狭霧さんが違う方向へ行くので慌てて追ってきました」


「あーごめん。おみくじより、たこ焼き食べたくて」


「たこ焼き。僕も好きです。戻るのも大変ですし、買いに行きましょうか」


「うーん、そうだね。どうせ誰かが大凶を引いて、大騒ぎして時間がかかるだろうし」


 そこまで広い神社ではないので、歩いていればその内見つかるだろう。屋台に行ってくるとメールを送り、たこ焼き屋を目指す。


「あれ?ミシェル?」


 たこ焼きを買っていると、ミシェルとまで逸れた。

 きょろきょろしていると、後ろからミシェルの声。


「すみません。豚汁がおいしそうだったので」


 湯気が立っている紙コップを渡される。座るところを探したけど、どこも混雑していて、中々いい場所が見つからない。

 冷めてしまうので、立って食べようかと移動したけど、右手にたこ焼き、左手に豚汁。


 たこ焼きを食べる手が足りない。


「犬食いはまずいよね。私が持ってるから、ミシェル、先に半分食べて」


 豚汁を飲みながら、たこ焼きのパックを差し出すと、ミシェルは爪楊枝で器用に切り分けた。


「はい、どうぞ」


 爪楊枝に刺さったたこ焼きを口元に持ってこられて、反射的に口に入れる。

 周りはかりっとしているけど、中はとろ~っとしてタコが大きい。


 味わった後に


「ミシェルが先に食べて良いのに。食べさせてもらうのは恥ずかしいよ」


 幾ら両手が塞がっているからと言って、誰かに食べさせて貰うのは気恥ずかしい。

 ミシェルに先に食べるように何度か言ったけど


「冷めない内に食べた方が美味しいですから」


 と譲らない。

 熱々のたこ焼きを口元に持ってこられると、つい口を開けてしまう。

 その状態で揉めると、逆に目立つし、何よりメインのタコが落下したら一大事だ。

 

 自分は1個丸々食べるのに、私の分は半分に切るミシェルはやっぱり紳士だなと改めて思った。


「そこにいたのか」


 有岡先輩の声が聞こえると同時に、食べようとしたたこ焼きがなくなる。

 最後だから味わって食べようと思ったのに、奪われた喪失感は大きい。


「何するんですかっ!」


 ぎっと睨んだけど、先輩は私を見ていなかった。

 ぷんっとしながら豚汁を飲み干し、空になったたこ焼きのパックをゴミ箱に捨てる。


「境内は放し飼い禁止だ」


「放し飼いって何ですか。それにメール送りましたよ」


 携帯を確認すると、送信できませんでしたと表示されている。


「他のメンバーはどこに?」


「木下さんに捧げる貢物を得る射的大会をしている」


「射的かぁ。うー、チョコバナナ買ってから行くんで、先に戻ってて下さい」


 完全に別行動になっているが、屋台では遊びよりも食べ物を優先にしたい。


「射的の屋台が分からないだろうから、ついて行ってやる。ミシェルは先に戻って、少し遅れることを伝えておいてくれ」


「僕だって射的の場所が分かりません」


 どうせメンバーは射的の次は隣の輪投げに戻るだろうと、焦らずに屋台を巡る。


「あれ、面白いですね。何ですか?」


 ミシェルが興味を示したのは、ヨーヨー釣り。金魚すくいは知ってるのに、何故かヨーヨー釣りは知らないらしい。


 ここは日本人の腕の見せ所かと張り切ったけど、全然ダメだった。一緒にやったミシェルは2個取れたので、1個分けてもらう。


「野田は小さい的を狙うのが苦手だな」


「人間くらい大きい的なら狙いやすいんですけどね」


 パシンパシンとヨーヨーを弾きながら、チョコバナナを食べる。射的の屋台に行くと、メンバーが大はしゃぎしていた。

 営業妨害っぽいけど、お金を落としているわりに景品は落としていないので、屋台のおじさんはニコニコしている。


「野田、見ろよ。光る消しゴムセットをゲットしたぜ。停電中でもすぐに見つかる」


「停電中なら、もっと他に見つけたいものがあるんじゃん?」


「野田さん。心配しました。姿が見当たらないから」


「あーごめん…ちょっと」


「どうせ何か食い物狩りに行ったんだろ」


「狩ってない。買いに行ったの!」


 輪投げでもメンバーは上客だった。

 集団で来た全員が下手。

 木下さんに捧げる1投だーとか恥ずかしげも無く叫んだ輪が、隣の射的の屋台に飛び込んで注意を受けていた。


「懐かしいですね。ちょっとやらせて貰えませんか?」


 パシンパシンと打っていたヨーヨーを、木下さんが遠慮がちに指差す。

 中指につけていた輪ゴムを外し、木下さんに渡す。


「野田ー俺の輪を1個分けてやるよ」


 輪を受け取りながら、景品を物色。どれもお金を出してまでは買わないレベルだなーと思う中で、デビーナに似た猫のぬいぐるみを発見した。


 それに狙いを定めてみる。

 シュッと放たれた輪は、一直線にぬいぐるみに向かっていった。


「おーっ!すげぇじゃん!ぬいぐるみが倒れたっ!」


「ちげぇーよっ、倒してどうするよっ!輪をくぐらせなきゃ意味ねぇだろっ!」


「俺も一瞬やったとか思ったけど、射的じゃねーんだよっ!」


 輪が顔面に直撃し、勢い良くぬいぐるみが吹っ飛んで行った。

 射的の名残を残すメンバーは歓声を上げたあと、輪投げだと気付いてブーイング。

 

 狙いは正確でしたね、とフォローする木下さんからヨーヨーが返される。


「諸君、輪投げと言うのは、上から狙いを定めるものなのだ。お手本を見せてやろう」


 傍観していた先輩に場所を譲る。

 有岡先輩は結構何でも器用にこなすから、輪投げもいけるんじゃないかなと期待してみていると、パシンパシンとやっていたヨーヨーが割れた。


「おわっ!何やってんだよっ」


「お前っ、高速ドリブルみたいに打ってるからだよ」


「最悪…冷たい…」


 昨日の初売りで買ったばかりの巻きスカートが濡れた。

 全力でヨーヨーしすぎだろっ!と言いながらメンバーがハンカチを投げてくるけど、多分洗われずして年を越したものだと思う。

 

 くしゃっとなって、使いづらい。

 

 うーんと悩んだ末、べしゃっと張り付いた布が気持ち悪いので一足先に帰ることにした。夏だったらすぐに乾くけど、冬だと凍る可能性がある。

 

 んじゃ、またねーと手を振る私に、有岡先輩が


「野田にやろう」


 と猫のぬいぐるみを放る。

 手乗りサイズのぬいぐるみは、やっぱりふてぶてしい顔がデビーナに似ていた。

 


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