表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/89

気まずい事情

 

 クリスマスが終わると、町は一気に正月モード。

 一夜にして行われる様変わりは何年経験しても、感心してしまう。


 年末年始は実家に帰るかもしれないなと思い、帰省するの?と水原にメールしてみた。

 お菓子作りに行って、留守だったら無駄足になる。


 水原からは、シフォンケーキって返ってきた。

 会話のキャッチボールが出来てない。

 何を投げても、菓子を投げかえしてくる奴に対し、私はどうすればいいんだ。

 

 メールではどうしようもないので、直接文句を言おう。

 恐らくシフォンケーキは、帰省しないという意味だと解釈し、水原の家に向かった。


「水原、実家に帰らなくていーの?」


 夏休みも帰省しなかったのを知っている私は、何となしに聞いてみた。

 しかし、私の質問に水原にしては珍しく、沈黙している。

 もしかして家族の事はタブーだったかな?と気付き、言いたくなきゃ言わないでいーですと付け加える。


「いや、別に隠すような事情はない。両親や兄と折り合いが悪く、絶縁状態なだけだ」


「隠して欲しかったな~」


 さらっと言われたこっちが困る。

 存命なので、その点は安心したけど。


「水原の実家ってどこにあんの?」


 懲りずに重ねて質問。


「北海道」


「北海道ーっ!!」


 意外だった。何となく水原は首都圏出身のイメージだった。

 北海道と水原が結び付かない。


 ラベンダーも酪農もマリモもジンギスカンも何か似合わないし。


「はぁ~水原が道民だってのにびっくりだ…。だから寒さに強いのか」


 今日も水原の家は冷え込んでいる。

 貼るホッカイロで寒さ対策。


「あれ?でも高校は都内だったよね」


 千葉県民の私ですら知っている有名な進学校出身のはずだ。


「あぁ。幸い母方の祖父母の家が都内にあったからな。義務教育が終わると同時に、引っ越してそこから通った」


「…自立心溢れるコドモデスネ…」


 片言になる。

 かなり早い段階で両親と絶縁状態になったようだ。


 詳しく聞いたらさらっと教えてくれるかもしれないけど、やめた。

 パパに甘やかされて、ママと仲良く育った私は言葉に詰まる結果になりそうだ。


「じゃあ、おじいちゃん、おばあちゃんの家には帰らないの?」


「一昨年2人とも亡くなった」


「…ソウデスカ…」


 何だか負のスパイラルに陥ってる気がする。

 気まずくなっているのは私だけで、水原は変わらぬ態度で株価見てるけど。


 コンビニで買ってきた肉まんとピザまんに被りつく。

 これ以上話すと墓穴を掘る気がする。


 水原はあんまんとプリンまんとチョコまんを食べた。

 マカロン片手に、その3つも食べきった。


「もしかして水原のスイーツ狂いのせいで不仲になったんじゃ…」


 夜な夜なスイーツを求めて泣く赤子。


 ミルクよりもガムシロップを好む、カブトムシみたいな乳児。


 お菓子食べている時しか笑わない幼児。


 幽霊もサンタも非科学的なものを鼻で笑うくせに、こびとだけは信じている小学生。


 友達?そんなのスイーツ1個分の価値もないなと吐き捨てる中学生。


「君、妙な事を考えてないか?」


「ないよ。全然、ないよ。私、シフォンケーキ見てくる」


 キッチンに逃げ込んで、ふぅっと溜め息を吐く。


 水原が両親の話をしたことは、今まで1度もない。


 高校から家を出るというのは何か事情があったんだろう。

 その日は一方的に気まずいものを感じて、早めに水原の家を退出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ