気まずい事情
クリスマスが終わると、町は一気に正月モード。
一夜にして行われる様変わりは何年経験しても、感心してしまう。
年末年始は実家に帰るかもしれないなと思い、帰省するの?と水原にメールしてみた。
お菓子作りに行って、留守だったら無駄足になる。
水原からは、シフォンケーキって返ってきた。
会話のキャッチボールが出来てない。
何を投げても、菓子を投げかえしてくる奴に対し、私はどうすればいいんだ。
メールではどうしようもないので、直接文句を言おう。
恐らくシフォンケーキは、帰省しないという意味だと解釈し、水原の家に向かった。
「水原、実家に帰らなくていーの?」
夏休みも帰省しなかったのを知っている私は、何となしに聞いてみた。
しかし、私の質問に水原にしては珍しく、沈黙している。
もしかして家族の事はタブーだったかな?と気付き、言いたくなきゃ言わないでいーですと付け加える。
「いや、別に隠すような事情はない。両親や兄と折り合いが悪く、絶縁状態なだけだ」
「隠して欲しかったな~」
さらっと言われたこっちが困る。
存命なので、その点は安心したけど。
「水原の実家ってどこにあんの?」
懲りずに重ねて質問。
「北海道」
「北海道ーっ!!」
意外だった。何となく水原は首都圏出身のイメージだった。
北海道と水原が結び付かない。
ラベンダーも酪農もマリモもジンギスカンも何か似合わないし。
「はぁ~水原が道民だってのにびっくりだ…。だから寒さに強いのか」
今日も水原の家は冷え込んでいる。
貼るホッカイロで寒さ対策。
「あれ?でも高校は都内だったよね」
千葉県民の私ですら知っている有名な進学校出身のはずだ。
「あぁ。幸い母方の祖父母の家が都内にあったからな。義務教育が終わると同時に、引っ越してそこから通った」
「…自立心溢れるコドモデスネ…」
片言になる。
かなり早い段階で両親と絶縁状態になったようだ。
詳しく聞いたらさらっと教えてくれるかもしれないけど、やめた。
パパに甘やかされて、ママと仲良く育った私は言葉に詰まる結果になりそうだ。
「じゃあ、おじいちゃん、おばあちゃんの家には帰らないの?」
「一昨年2人とも亡くなった」
「…ソウデスカ…」
何だか負のスパイラルに陥ってる気がする。
気まずくなっているのは私だけで、水原は変わらぬ態度で株価見てるけど。
コンビニで買ってきた肉まんとピザまんに被りつく。
これ以上話すと墓穴を掘る気がする。
水原はあんまんとプリンまんとチョコまんを食べた。
マカロン片手に、その3つも食べきった。
「もしかして水原のスイーツ狂いのせいで不仲になったんじゃ…」
夜な夜なスイーツを求めて泣く赤子。
ミルクよりもガムシロップを好む、カブトムシみたいな乳児。
お菓子食べている時しか笑わない幼児。
幽霊もサンタも非科学的なものを鼻で笑うくせに、こびとだけは信じている小学生。
友達?そんなのスイーツ1個分の価値もないなと吐き捨てる中学生。
「君、妙な事を考えてないか?」
「ないよ。全然、ないよ。私、シフォンケーキ見てくる」
キッチンに逃げ込んで、ふぅっと溜め息を吐く。
水原が両親の話をしたことは、今まで1度もない。
高校から家を出るというのは何か事情があったんだろう。
その日は一方的に気まずいものを感じて、早めに水原の家を退出した。