小細工
ちーちゃんに何考えてその服装とメイクにしたのっ!?と怒られた。
ちーちゃんが選りすぐったメンバー構成の合コンだったらしい。
何も考えていませんでした、真に申し訳ございません、以後気をつけます云々と詫びるメールを作っていると
【お前の大事な教科書は預かった。無事に返して欲しくば昼休み、会議室(部室)へ来い】
と言うメールを受信した。
またか、有岡先輩め~と思いながら階段を駆け上がったけど、良く見れば送信者は別のメンバーだった。
「どういう…」
私が文句を言うよりも早く部室の中に引っ張り、ドアを閉めるメンバー。
何だ?と見ると既にいたメンバーが小さく円を作り、小声で話し合っている。
膝がつかんばかりの密着度で、何の密会だと厄介ごとを予感した。
「お!野田、来たか」
円の真ん中に入れられ、囲まれる。
召還か生贄の儀式のようで嫌なスタンスだ。
「何と!今年の空手サークルのクリスマス飲み会に木下さんが参加する事になった」
「どんどんぱふー」
「俺らのテンションはチョモランマよりも高いっ」
「木下さんとミシェルって別れたんだろ?」
「付き合ってからの不一致はざらにあるからな~」
木下さんから聞いたのか、ミシェルから聞いたのか、それとも空気で気付いたのか分からないけど、メンバー全員が察したようだ。
男女の仲って難しいよな~と神妙な顔で唸る。
それから一転して、満面の笑み。
「クリスマス、これは逆転のチャンスじゃありませんか!」
「でもここで1つ問題が。そのクリスマス会、ミシェルと有岡先輩も参加なんだ」
「うがぁー邪魔者っ!と言う意見で一致した俺たちはとりあえず共同戦線を張ることにした。その2人を抜かせば俺ら同レベルだし。ともかく2人を排除したいわけよ」
「そこで出番なのがノダノザウルスだ」
いちいち蹴るのが面倒なので、合算して後でまとめて報復しようと、話を促す。
「この前さ、飲み会しただろ。練習試合の夜」
「そこでお前、酔って暴れたじゃん」
先日、空手サークルのメンバーで飲み会をした。
木下さん、初マネージャー業務を祝うという名目だった。
歓迎会をした数日後に初マネージャー業務を祝う飲み会をするのはどうかと思ったけど、羽目外したメンバーの監視役を自負して参加。
私はお酒に弱いので、ノンアルコールで料理を食べるのに専念してた。
しかしいつの間にか木下さんのウーロンハイと私のウーロン茶が入れ替わってしまった。
あれ?何か味がおかしいなと思ったときには、喉の奥に流れ込んでいて、そこから数時間の記憶がない。
監視役を自負した自分がちょっと恥ずかしい。
「普段のお前はちょっと危険な野生動物だが、アルコールが入ったお前は仕留めなければならないAランクの害獣だ」
「悪かったねっ!」
お酒は飲まないように気をつけていたつもりだけど、ふとした気の緩みが事故を招くようだ。
幸い人も物を壊さなかったそうなので、次回は気をつけようと固く誓った。
「いやいや、ここからが本題だ。今年のクリスマス会も是非、ザウルスになって大暴れして頂きたい」
決意した先からメンバーの意図が分からない要求。
「はぁぁぁ?」
何で?と怪訝な顔をしてしまう。
「いやさ、お前覚えてないみたいだけど、ぎゃおーと暴れるお前を有岡先輩が即効で捕獲して事なきを得たわけよ」
「お前は暫くジタバタしてたけど、そのせいで酔いが回ってそのままダウン」
「完全寝入ったお前の面倒を見ていたのが、有岡先輩とミシェルだったんだよな~」
全然覚えていない。
目が覚めたら、メンバーも死屍累々の状態になって、お店の人がそろそろ会計を…と困った顔で見ていた。
「次もそのパターンで頼む!」
「はぁ?何でわざと人に迷惑をかける!?そもそもその作戦、寝てる私を隅に放置して2人が飲みに戻ったら、意味ないし」
「いや、有岡先輩もしばらく用心して捕獲体勢だったし、ミシェルもその傍に控えてたし、クリスマス会も同じシチュエーションを狙えばオケっ」
「2人を倒しちゃってもオケっ!」
「ばかやろっ!そしたら次の獲物は俺たちになるだろっ!」
「あ、そうか。じゃ、3人で同時に力尽きるとか…」
「それでオケっ!」
オッケーじゃないだろ、と白い視線を送る。
今の若者はガッツが足りないっ!と活を入れるように手近のメンバーの膝の皿をチョップ。
「お前の飲み代は俺らが負担するから頼む~」
うっとうしい上、やることが小さいっ!
大体2人がいなければいないで、他も全員ライバルなんだから共同戦線なんてすぐに解消となるはずだ。
「そもそも私、今年のクリスマス会は不参加なんだけど。用事がある」
「…………………………」
「へ?何で…どこのジュラシックパーティに出んの?聞いてないんだけど」
「参加できないって前に言ったよ」
「………まさかと思うけど…お前、俺らのロンリー同盟裏切って相手作ったわけじゃないよな…?」
「そういやお前、合コン行った…まさか…いや…でも男は恐竜好き多いし…」
「ノダケラトプスが俺らを差し置いて…」
ぶつぶつ呟いた後に絶叫。
お前らの方が恐竜だろっーと耳を押さえながら、退出しようと靴を履く。
鍵を開けて出ようとすると
「諸君、周りの迷惑になる。もう少し声を控えたまえ」
同じく耳を押さえた有岡先輩が入ってきた。
その後ろにはミシェルもいて、どうしたんですか?と首を捻っている。
メンバーの叫びは外まで響いていたようだ。
「大事件ですっ!有岡先輩っ!」
今さっきまで邪魔者扱いしていたくせに調子が良い。
わらわらと先輩に集まり、口々に訴え。
「野田が、野田が…クリスマス会不参加だって言い出したんですっ!」
「大事な用があるって言うんです!」
「嘘つくんですっ!1人涙に濡れるケーキを食べるしか予定ないのにっ」
「嘘じゃないしっ!」
用事があるのは本当だ。
有岡先輩はほうほう頷きながら、メンバーの私情挟んだ誇大報告を聞いている。
面倒なので、じゃさよならと先輩の脇をすり抜けようと思ったが、そう簡単にいかなかった。