引き続き、捜査中
「副指揮官、ここに座れ」
「部室ならともかく、学食でその呼び方は止めてください」
痛い奴らだと回りに思われたらどうしてくれる!
半熟加減がお気に入りの親子丼が乗ったトレーを、有岡先輩の前に置く。
「実はな、捜査が行き詰った」
「分かりきったことでしたが」
しょぼんとしたミシェルが、グラタンを突いている。
緩くウェーブした金髪が、人形のように整った顔にかかっている。アンニュイな表情は恋に悩む王子そのものだ。
「副指揮官野田、これを見ろ」
「…何ですか、これ」
有岡先輩が一枚の紙を差し出してきた。
顔の輪郭から目らしき物体が飛び出ていて、恐ろしい宇宙人が書かれてあった。
もしかしたら、怪獣かもしれないが何とははっきり分からない。
「これはな、ミシェルが描いたショコラさんの似顔絵だ」
「……………ショコラさん、気分害したと思いますよ…」
間違いなくっ!
絵が下手にも度があるだろうと言う土砂崩れ。
目は顔から零れ落ちてるし、鼻はどこ行ったんだ?
「いや、俺もこれはどうかと思ったんだが、プロファイリングできる奴が捜査員にいなくてな」
「当たり前です」
「まぁ、これでいっか。って軽い感じで掲示板に貼ったんだ」
「と言うか、会ったこともないのに何で似顔絵描いちゃったんですか?」
「あーミシェルのママンの顔だそうだ。それ」
「この遺伝子から、プリンスが生まれたら人体の神秘ですよ」
探してますって書いて掲示板に暫く貼っておいたらしい。
無意味この上ないな、と呆れた。
むしろ逆効果。
ショコラさんが目撃したら、名乗り出るどころかぷんぷん怒ってミシェルに関わらなくなるのではないか?
下の方にプリンス画ってわざわざ書いてるし。
もっともどんなに美しく描いてもらっても名乗り出ないけど。
「今日、終わったら部室集合。事件は暗礁に乗り上げた」
「最初から乗ってましたよ」
「また別の問題が発生。偽ショコラさん、続出だ」
「…は?」
「部室には自称ショコラさんが作ったクッキーがたくさん届けられている。その中に本物が紛れ込んでないか、捜査員全員で当たる」
「………………切実に帰りたいです」
わが道を行く有岡先輩に何を言っても無駄だった。
ミシェルも、ジュテームショコラとか言ってるし。
2人とも手がつけられないアホだ。
溜め息を吐きつつ、廊下を歩いていると知らない学生に呼び止められた。
165センチの私よりも5センチくらい背が高い中肉中背のその男の子。
真っ黒な髪と黒縁眼鏡の切れ長の目が真面目そうで、賢そうな雰囲気を醸し出している。
「野田さん?」
「あ…あぁはい。…誰ですか?」
名前で呼ばれて、まじまじと男の子を見る。
見覚えはない。
「俺は水原。水原英一。君が野田ショコラ狭霧だという事について話がある」
「……………………」
私は日本人なので、ミドルネームはない。
あったとしてもショコラ以外にして欲しい。
「来てくれるだろう?」
「……………………」
薄い唇の端だけを上げて、にやっと笑う水原。
何で…ばれた!?