後日、トラブル発生
「丸田さんへのお礼どうしよう」
学園祭から2日後。
根に持っている水原が煩いので、ワッフルを焼きながら丸田さんへお礼の相談。
パイナップルソースとカスタードクリーム、生クリームでトッピング。
ワッフル自体は味が淡白なので、酸が強いパイナップルソースが良く合う。
「菓子で良いんじゃないか?」
ぺろっと食べ終え、皿を突き出して次を催促する水原。
「いや、プロの丸田さんにお菓子はちょっとね。他、何かない?」
「そうだな。店に置く小物が良いんじゃないか?丸田さんのお店は、切り株とかそういった小物を色々と飾っている」
「あ、小物か。なるほどね、雑貨は良いアイデアだ」
その辺はちーちゃんにお付き合い願うとして、早速丸田さんに都合を伺うメールをする。
パウンドケーキの売り上げも渡さなきゃいけないし、早いほうが良い。
手隙の時間があったのか、丸田さんから電話がかかってきた。
「いつでも良いのに」
「直接お礼も言いたいので」
そんな事ぜんぜん気にしないで、と丸田さん。
あれだけお世話になっておいて、お礼の1つしないわけにはいかない。
「いや、本当に良いんだよ。むしろこっちがお礼を言いたいくらい。パウンドケーキでうちのお店の宣伝してくれたでしょ。既にもう、K大の子とか買いに来てくれてるんだ」
「あ、そうなんですか!?」
パウンドケーキの裏にはお店の名前が印字してある。
丸田さんの洋菓子ならリピーターが付くのも当然の結果だ。
「クッキーはどこですか?とも聞かれたけどね。クッキーもうちのお店で売ってると思ったみたい。あのクッキーは5種類ともそれぞれ味わいがあって良い出来だったよね」
プロに褒められると照れくさい。
そんな、と否定しつつも悪い気はしない。
「あ、そういえばこっちがびっくりするくらいの勢いでクッキーのこと聞いてきた子がいたよ。うちの売り物ではないんです、K大の野田さんが作ったんですよ、って言ったら呆気に取られた顔してた。外人のすごいきれいな男の子」
「………………はい?」
良い気分が一気にすっ飛び、頭が白くなる。
外人のすごくきれいな男の子??
「野田さんって言ったら、狭霧さん…?て名前出したから知り合いかな?」
「……………………」
えーっと?
どういうこと?外人のきれいな男の子で知り合いって言ったら1人しかいないんだけど…。
「一緒にいた男の子が、野田と言うのは、アマゾネル狭霧・野田の事ですか?って再確認してきたけど。アマゾネルって何?野田さんのあだ名?」
えーっと?
アマゾネルとかふざけたこと言うの、空手サークルのメンバー、しかも恐らく有岡先輩かと思われるんだけど…。
じゃ、売り上げ金とかはいつでも良いからね、と電話は切られた。
店長ーと呼ぶ声が聞こえたから、お店が混んできたのかもしれない。
「…オーマイゴット…」
「君、発音悪い。しかも悪い事が起こった時に使うのは、Oh my Gosh!の方が良い」
「んなことはどうでも良いんだよっ!」
外人のきれいな男の子ってミシェル?
クッキー売った覚えはないんだけどっ?
それに空手メンバーがクッキーは遠ざけていたはず。
「水原、ミシェルってクッキー買いに来た?」
「いや、来ていない」
水原の記憶力は確かだし、目立つミシェルを間違えるはずがない。
「ただ、ベストカップルコンで君を掴んでいた男は買いに来たな」
「有岡先輩のことっ!?」
「名前までは知らない。ニートこびとが出たのを気にして、何度か買いに来た。可哀想なので最後はノーマルこびとのクッキーを渡してやった」
「エリートあげなよっ」
有岡先輩、さり気に水原の策略に嵌っている。
自信満々なのに、縁起とか気にするところあるから。
テレビの占いで運勢最下位だと、他の占いにアクセスして自分の運勢が上位にあるのを探したりする。
試合前とかは特に。
「有岡先輩がクッキー買ったのか。でもクッキーからは丸田さんのお店は分からないよね?」
「あぁ、あの男にはエリートカードは渡していない」
「じゃあ、何で。ってまさかっ!!」
携帯電話を取り出し、メンバーに発信。
あの時、さっさと追い払おうとパウンドケーキを渡した2人だ。
「何だよ、野田。俺は今、彼女とラブラブタイムなんだけど」
「部屋で妄想しているだけじゃん」
「何だよっ何で分かったんだよっ!どこで見てんだ、お前~」
「見なくても分かるってのっ。ってそっちが今何しているかどうでも良い。あのさ、私から買ったパウンドケーキあるじゃん。あれ、どうした?」
「あーあれ?何か有岡先輩がすっげぇ食いついて来てさ。このままだと俺はニートになる、俺の将来のためにはそのエリートケーキが必要だとか、訳のわかんないこと言ってしつこいからあげた」
「……………………」
ぶちっと通話を切る。
混乱してきた頭の中を整理しよう。
有岡先輩がクッキーを買った、パウンドケーキも手に入れた。
ミシェルと一緒に丸田さんのお店に来た。
ミシェルはクッキーの作り手を異常に知りたがっていた。
水原には口止めしたけど、丸田さんにはしなかった。
丸田さんは私が作ったと言ってしまった。
「…………有岡先輩がクッキー買って、ミシェルと一緒に店に来るって、どういう経緯??学園祭のクッキーとママンのクッキーが私のだってばれたの?」
いや、それは早計だ。
ミシェルが、ママンのクッキーだと騒ぎを起こした時のクッキーとこびとのクッキーはレシピが違う。
そもそもミシェルは私のクッキーを食べた?
有岡先輩が買ったクッキーをあげた?
でもメンバーはミシェルと木下さんにはクッキーとママンとフランスは極力触れない用語にしているっていったし。
「ワッフルにトッピングしてくれ。小豆とクリームチーズ、カスタードクリーム、マーマレードにブルーベリーにイチゴ、バナナなどのフルーツ、それからアイス数種類が冷蔵庫に揃ってる」
「他に言う事ないっ!?」
「ワッフル、こびとスペシャルで」
「そうじゃなくてっ!ミシェルに例の件がばれたかもしれない事についてっ!」
ワッフルの上にバニラアイスとフルーツを乗せ、生クリームとチョコレートソースでデコレーション。
アーモンドチップを散らばし、粉砂糖をささっと振り掛ける。
バンっと水原に皿を押しやる。
水原はワッフルを食べながら、何てことないように言った。
「ここで悩んでも仕方がないだろう。まずは有岡と言う男に話を聞いたらどうだ?」
「そうなんだけど…そうだよね…」
考えていても仕方がないし、明日の朝一で有岡先輩に状況確認しよう。
「話し声が漏れ聞こえたんだが、アマゾネルって何だ?」
「アマゾネスとネアンデルタール人のハーフ」
「………ふーん。アマゾンの血の方が濃いんだな」
「そこまでの細かい設定はない」
もう1個と際限がない水原に溜め息。
ワッフル作ってる場合じゃない気がしてきた。