審査と結果 (後編)
「えー彼女が悲しそうに泣いています。理由を聞けば、知り合いの男に酷い事をされたと。さて、水原さん。どういたしますか?」
「男の冥福を祈る」
「どういう意味だっ!」
司会者を遮り、けんか腰で詳細を聞く。
聞かなくても大体察しはつくけど、言質を取らねば不利になる。
「君が泣くほど酷い事をされた。その仕返しを想像し、俺が取る行動はそれしか思いつかない」
顎に手を当てて答える水原。
ステージの下では
「不遇の死を遂げたその男に対し、1分間の黙祷」
と空手サークルのメンバーが手を合わせて、祈っていた。
えーっと…と司会者が進行に困っている。
「終わりで良いんじゃないですか?」
耳打ちすると、はっとした司会者が首を振る。
「いえ、後は野田さんに1枚引いて頂きます」
まだ、あるのかとうんざりしながら、選んだカードを司会者に渡す。
「おーっとっ!ここでチャンスカード、野田さんがチャンスカードを引きました。このカードに記載されているのは質問事項ではありません。とあるスポーツが書いてあります。野田さんにはそれをジェスチャーで水原さんに伝えていただき、正解しましたらポイント加算になります。今年は初めてのチャンスカードになりますね」
戻されたカードを見ると、卓球と書いてある。
すかさず素振り。
テニスと間違えるかもしれないけど。
小さくシェイク、シェイク。
「平手打ち」
避ける仕草をする水原。
卓球なんだから打ち返せよっ!
「とあるスポーツだって言ったじゃん!」
下ではサークルメンバーが
「あ、ビンタか。俺、卓球かと思っちゃったよ」
「俺も」
と呟いている。
卓球で合ってるんだよっ!
「えー。残念ながら不正解です。ポイント加算にはならず。えー、あー個性的な、お付き合いを見せてくれた水原ペアに大きな拍手を!」
実行委員がこちらへどうぞ、と席に戻してくれる。
良かった、終わったとほっと一安心したけど、このコンテストで私は確実に何かを失った気がする。
「この後5分間、審査員とランダムに選ばれた観客で、ベストカップルを選びます。今しばらくお待ち下さい」
アップテンポな音楽が流れ、スクリーンには集計の様子が映し出されている。
あーもう何なんだ、とうんざりしていると観客席から紙が飛んできた。
メモのようなので開いて読む。
【良い感じで引き立て役になっていた。ご苦労、それでは副リーダー野田に最後の任務を与える。実行委員の白いチュニックを着た女の子のアドレスを入手せよ】
ミシェルと木下さん関係ないし、とメモを投げただろうメンバーを見れば、やっぱりあの子ダメ元で誘うおうぜと未だナンパの計画を立てている。
成功した試しがないんだから止せば良いのに。
後で覚えてろ、と裏に書いて投げ返す。
そうこうしている内に、結果発表。
ドラムロールが鳴り、スクリーンにミシェルと木下さんの名前が出る。
誰もが分かっている結果だった。
「はぁ、君のせいで厄介ごとに巻き込まれた」
「ごめんってば。不可抗力なんだよ」
参加賞で貰った非常食セットを水原に投げ渡す。
それを受け取った水原は不機嫌で眠そうだったが、この時はまだ本気で怒っている様子ではなかった。
水原が怒るのは、スイーツに関して。
荷物を取りに戻ると、水原が買ったベビーカステラにアリが集っていた。
大小のアリがパラダイス発見、やっほーい!とばかりにうろちょろしている。
それを見て、すっと無表情になる水原。
あちゃーと顔を顰める。
無理やりベストカップルコン出場までは、お菓子で機嫌を直せるレベルだったのだ。
水原が空手サークルメンバーを敵認識した瞬間だった。
私はダッシュで、ベビーカステラを購入。
販売時間を過ぎていたけど、拝み倒してゲットした。
ふぅ、と汗を拭って一息。
ベビーカステラを水原に献上。
「一体何なんだよっ!」
「どうした?ってかお前、まだ女装してんの?」
「俺の着替えの服と靴に、ベビーカステラとアリが集ってんだよっ」
「何だそれ?」
メンバーがぎゃーぎゃー騒ぐ隣を、しれっとした犯人が通過。
水原は捨てるしかないベビーカステラを有効活用したようだ。
グッジョブ!と親指を立てたいところだが、主犯である有岡先輩がいない。
やっぱり、後で写真集書き込みだなと思いながら、実行委員会へ行き、終了手続き。
色々あったけど目的の宿泊費も稼げたし、学園祭は何事もなく無事終了した…と思っていた。




