審査と結果 (前編)
付き合って何日目?相手との間に欲しい子供の数は?デートの回数は?キスの回数は?別れようと思った回数は?など答えが一致した数だけポイントが与えられるカップル一問一答は、全て0回と答えた私と水原が抜きん出てトップ。
まさかの首位発進。
ついでミシェルペア。
私たちにブーイングが来ると思ったが、全くのスルー。
あの2人本当にカップルなのかな?ペアルック着ているからそうだと思う、とシャツの威力が強い。
続く競技、カップル四字熟語は、一を二度繰り返す四字熟語(一汁一菜や一進一退など)を1つ選び、相手と同じであればポイント加算。
ここでは一期一会で一致したミシェルペアが巻き返してトップ。
他のペアは、一喜一憂、一長一短など一致せずに加点なし。
水原は言、メの文字を書き込んだ。
カタカナが入る四字熟語あったかな?と思いながら、考え込む。
「今の状況に対する気持ちを顔文字にした」
水原の言葉に、司会者がボードをスクリーンにアップ。
(一言一メ)
何となく怒ってるんだろうなって言うのが伝わる。
ごめんっ!と謝りながらもこの一瞬で顔文字を作る水原に感心した。
顔文字は四字熟語ではないので、ルール違反で大幅減点。
一気に最下位に転落。
カップルシェイクハンドと名づけられた次の競技は、目隠しした彼氏が、出場者の彼女全員と握手し、自分の彼女が何番目だったのか当てるというもの。
これはまさかの全員正解。
現時点トップのミシェルに、司会者がマイクを向ける。
「どうして木下さんの手だと分かったのですか?」
「実は消去法なんです」
苦笑するミシェル。
「1番の方は長い爪が当たったので、中村さんの彼女だと分かりました。3番の方は手が冷たかったので1番緊張している宮本さんの彼女だと思いました。5番目の方は太めの指輪が当たったので優衣ではないと分かりました。4番は狭霧さんなので、残る2番が優衣です」
「狭霧さんと言うのは、水原ペアの彼女の方でしょうか…。えーそれはどう解釈すれば…」
言葉を探す司会者。
ミシェルの言い方だと誤解を生む。
「狭霧さんとは空手で組み手をするので。手の感じですぐに分かりました」
「あーなるほど。2人は同じサークルなんですね」
ほっとしたように胸を撫で下ろし、司会者は水原にマイクを向けた。
「水原さんはどうでしょうか?やはり野田さんの手だと、すぐに分かるものでしょうか?」
「すぐに分かる。俺だって被害に遭っている」
お菓子を取り合って、つかみ合いの喧嘩は日常茶飯。
素早さは格段に私の方が上だけど、防御力は水原の方が上。
被害者ぶっているが、私の分までお菓子を食べようとする水原が喧嘩の原因だ。
「水原さんも空手サークルなんですか?」
「いや、違う」
「あー…どう言う付き合いをしているんでしょうか。しかし深入りは止めておきましょう。続きまして、カップルカードの時間です」
質問が書かれたカードを引いて、ラブ度をアピールしながら答えるというもの。
ミシェルペアは、並び立つだけでポイントが高い。
第一印象は?デートスポットは?というノーマルな質問から恋人に借金があると発覚した場合はどうしますか?と言うダークな質問まで優雅な答える2人。
木下さんがそうだよね?と小首を傾げてミシェルを見る理想的な構図。
仲睦ましげに見えたので、仲直りしたのかな?とサークルメンバーを見れば、あの子可愛くね?ちょっとお前声かけてみろよ、とコンテストそっちのけでナンパを試みている。
巻き込んでおいて自由時間を満喫しているメンバーに報復リスト作成。
1番上に名前が挙がる有岡先輩の姿が見えない。
完全、怒った。
有岡先輩が大事にしているアイドルの写真集にヒゲを描いてやることに決めた。
他のメンバーにはどうしてやろうかと考えているうちに、他のペアのカード時間が終了する。
「では、水原さんペアステージ中央へどうぞ」
声をかけられ、渋々立ち上がる。
水原を見れば、俺は行かないと言い張って、実行委員に椅子を取り上げられていた。
「では、野田さんから。1枚引いて頂けますか?」
テーブルに並べられたカードから1枚選び、司会者に渡す。
「野田さんに質問です。もし、水原さんと2人きりで無人島に漂着し、パン1個しかない場合、どうしますか?」
無人島で、パン1個ってなればもちろん
「奪い合う」
それしか方法はない。
挑戦的に水原を見れば、水原もにらみ返してくる。
「だろうな。君はそう来ると思った。勝算は低いが、食料がそれしかない状況では受けて立つしかないだろう」
無人島、自然に還れそうだ。
空手メンバーから
「あのメガネ、野生化した野田と戦う気だぜっ!見かけによらずすげぇー根性」
と感心する声が上がった。
「えー大変コメントしづらい答えが返ってきました。次のカードに移りましょう。では水原さん、1枚選んでいただけますか?」
嫌そうにしながら、カードを指差す水原。
司会者がそれを捲って、質問を読む。
「相手は酔うとどうなりますか?と言う質問です。水原さんにお伺いします。野田さんはお酒に弱いですか?酔うとどんな風になりますか?」
「とても弱い上に、たちが悪い」
マイクを向けられた水原は迷いもなく、簡潔にまとめる。
身に覚えのある私は、そっぽを向いて聞こえない振り。
「それは具体的にどのような感じなんでしょうか?」
掘り下げて尋ねた司会者は
「家電に絡む」
水原の答えに、は?と不思議そうな顔をした。
「謝ったじゃん」
秘密にしておきたい酒癖を暴露する水原。
「謝ってすむ問題ではない。回ってれば良いと思ってんだろっ!と君が絡んだ洗濯機、あれ以来調子が悪い」
えーっと、と詰まりながらも、進行しようとする司会者。
「水原さんには絡まないんですね」
「いっそ絡んでくれた方がましだ。薄っぺらいくせにお高くなりやがって、と買ったばかりの液晶テレビに掴みかかられた時は、死に物狂いで守った」
「あ~あれだよね。最近、防御力上がってるよね」
その時の水原の必死な様子を思い出し、褒めて誤魔化してみる。
私は酔うと無機物に絡む癖があるらしい。
主に家電に。
「必要にかられたんだ。最近は対処法が見つかったので、前ほどの被害は出ていない」
「対処法なんてあんの?」
それは初耳だ。
司会者も水原に答えを求めるようにマイクを向けた。
「絡まない家電に気付いたんだ。君は、冷蔵庫とレンジには乱暴しない。君が酔って冷蔵庫の前に座り込んだとき、1本背負いが来るかと覚悟を決めたが、君は神妙な顔で冷え性だよね、と冷蔵庫を撫でていた」
「え…?記憶にないんだけど…」
「この前は、改めて言うのは恥ずかしいけど感謝してるんだとレンジに礼を述べていた。俺は君が酔ったら、冷蔵庫かレンジの前においておく事にした」
「……次のカードに行きましょう!」
司会者の役目を奪い、話を無理やり切り上げ。
水原にカードを引けと急かす。
水原が選んだカードを、司会者にこれで!と押し付ける。