ベストカップルコンテスト
「今年はかなりハイレベルな戦いが見られそうです。エントリーナンバー1はやはり話題のカップル、ミスターミシェル=フランソワ、アーンド、ミス優衣・木下っ。我が校のプリンスとミスK大のカップルは皆さま納得のベストペアと言えるでしょうっ!しかし本審査では様々な競技で2人の絆を証明していただかなくてはいけませんっ!果たして予想を裏切らず、栄えある栄冠を手にすることが出来るのでしょうか?」
「木下さん、かわいいなぁ」
いつも以上に可愛く装っている木下さん。
キラキラして芸能人みたいに華がある。
「ベルギーワッフル1本しか残ってなかった。君は最初と最後食べて良いぞ。俺は真ん中を食べる」
「ふざけんなっ。中身が入ってないところじゃん!」
水原が持っていたベルギーワッフルを奪い、真ん中から齧りつく。
串に刺さっていたワッフルは細長い形状で、中には生クリームとベリーソースが入っていた。
バータイプは手が汚れないので、食べやすい。
もっちりしたワッフルに、生クリームと甘酸っぱいベリーソースがマッチしている。
「何やってるっ!?アホウかっ、君はっ!とうもろこしじゃないんだぞっ!」
「うるさいな、たい焼きあげるから。って真ん中だけ食べるなっ!」
水原がたい焼きの、頭部分と尻尾部分を返してきた。
アンコがない。
「頭と尻尾だけってもう猫またぎじゃん。もう良い、たい焼きはあげる」
水原と揉めているうちに、出場者の紹介が終わって、3組のカップルが出揃った。
エントリーナンバー2は中村ペア。
ギャルっぽい女の子と不良っぽい男の子のカップル。
女の子はノリノリだけど、男の子はだりぃな、と言いたげな姿勢の悪さだった。
エントリーナンバー3は宮本ペア。
こちらは年の差カップル。女の子はK大の生徒だけど、その彼は恐らく10は上のサラリーマン。
他の出場者もそれなりのレベルだとは思うんだけど、ビジュアルの面ではミシェルペアがやはり飛びぬけている。
「ワッフルを返せ」
「もうないよ」
下の方だけが残ったワッフルを見せると、水原はがっくりと項垂れた。
「君は血も涙もないな。君にあるのはよだれだけか」
「きたなっ!…悪かったよ、餃子ドックあげるから」
餃子ドックの真ん中だけ食べて、残りを戻す水原。
真ん中ルールが出来そうで、危険だ。
無残な餃子ドックを食べ、フランクフルトに取り掛かろうとすると、いきなり後ろから腕を掴まれて引き上げられた。
フランクフルトのケチャップが下に落ちる。
「なっ…!」
誰だっと振り返る。
スーツをお洒落に着崩した有岡先輩がいた。
普段つけない香水とアクセサリーに違和感を感じる。
髪を後ろに撫でつけ、ホストっぽく決めている。
「良いところにいた。さすがは副リーダーだ」
「ちょっとっ!何ですかっ、はーなーせー」
脇の下で腕をがっちりと組まれ、ずるずると引き摺られる。
不意を突かれた分、体勢が圧倒的に不利だ。
「何ですかっ、ちょっ水原っ!たすけ…って何やってんのっ!?」
女装したサークルメンバーが水原を同じように拘束していた。
イチゴ柄のチューブトップにフェミニンなカラーのプリーツスカート、手製のハイヒール。
チューブトップはパッツリ伸びて腹巻状態。
風で舞い上がったスカートからは、すね毛がぼうぼうの足をちら見せ。
缶の蓋を使って作ったお粗末なハイヒールは、歩くたびにポンカポンカと不思議な音を立てている。
がっつりメイクした顔は、裁判レベルの見苦しさ。
付け睫が瞼の中央についていて、軽くホラーだ。
おかまとホストに引っ立てられる私たちは、中庭に集まっている人の注目を集めていた。
「ミシェルと木下さんをベストカップルで優勝させようの作戦に問題が発生した。ベストカップルコンテストでは飛び込み参加も認められていて、俺は1番女装が似合うメンバーと飛び込み参加してコンテストを盛り上げようと思ったが、実行委員から出場拒否された」
「視界の暴力だからですよっ!」
「俺が野田と出ても良かったんだが、実行委員に顔を覚えられてしまってな」
「覚えたくなくても覚えますよっ」
ぎゃーぎゃー言って振りほどこうとするが、相手は空手の有段者。
あっさりと引きづられ、ぽいっとステージに放り出される。
「飛び込み参加でよろしく!」
司会者にウインクを飛ばす有岡先輩。
慌ててステージを下りようとするが、うぉぉぉーと盛り上がる野太い声が上がる。言わずと知れたサークルメンバーだ。
「2組目の飛び込み参加者ですね!こちらにどうぞっ!1組目の飛び込み参加の橋本ペアの横に並んでください」
「いやっ!違うっ」
既に席にスタンバイしている参加者の方へ案内されそうになり、慌てて否定。
「今時珍しいペアルックのカップルにお名前を伺いましょう。その前にお2人にご注意なのですが、コンテスト中は飲食物の持ち込みが禁止となっております。予め、注意事項に記載していなかったこちらの落ち度ではありますが、フランクフルトや揚げ餅を持って出場されるカップルは前例がないものでして」
会場から笑いが起こる。
いや、参加するつもりはないんですがっ!と言ってもさぁどうぞ、とステージの席に押し出される。
ステージに用意された椅子に座らされ、呆然。
メガネがずれた水原も、ぽかんとしたまま固まっている。
寝不足の頭に、今の襲撃は耐え難い。
水原にしてみれば、いきなり見ず知らずのオカマに拘束され、ステージに投げ捨てられたようなものだ。
私よりもショックは大きいだろう。
「ではお名前をお願いします。あ、餅は食べないで下さい」
状況が飲み込めないだろうに、餅を食べる水原はいっそ見事なマイペースさだ。
私は手に持ったフランクフルトをどうして良いか分からない。
「野田さん、良かったらハンカチどうぞ」
隣に座る木下さんが、レースのハンカチを差し出してくれる。フランクフルトのケチャップが真っ白なシャツに垂れていた。
木下さんが渡してくれたハンカチは高そうで、ケチャップのシミを付けるのは申し訳ない。
捨てるわけにはいかないので、手早く食べる。
「彼女の方もお名前を…あ、フランクフルト、食べないで下さい」
じゃあどうしろって言うんだ?
急いで食べる私に、実行委員の1人がウェットティッシュを差し出してくれた。ありがたく使わせてもらう。
ステージを降りようとするが、下のほうで見慣れたメンバーが阻止しようと待ち構えている。
有岡先輩が口パクで、いいぞ、その調子でコンテストを盛り上げていけと伝える。
ふざけんな、と有岡先輩にフランクフルトの串を投げ付けると
「ステージからのゴミの投げ捨ては禁止ですっ」
と司会者に注意される。
観客の注目を集め、ここで辞退するのは無理そうだ。
水原から君のせいか?君のせいなんだな?と言う視線を感じる。ごめんとジェスチャーをすれば、水原は憮然としたまま、椅子に凭れかかった。
「中々個性的な出場者が集まりましたね。では、ベストカップルをかけた最初の競技です!」