学園祭、当日
売る数は250袋。
1人125袋ずつ。
学園祭は10時から15時なので、1時間に25袋売らなくてはいけない。
12時になり、水原と落ち合う。
2時間分のノルマは何とか達成。
ちーちゃんが来てくれて、10袋買ってくれたのが大きい。
ちーちゃんには作ったお菓子を良く渡していた。
そのお菓子を友達に分ける時に宣伝してくれたらしい。
「クッキー売るのも良いけど、自分を売るのも忘れないようにね」
痛い言葉の置き土産もあったが。
他は主に大学見学に来た女子高生の集団が買ってくれた。
その場で食べて、美味しかったからお土産用にまた下さい。と言ってもらえるのは嬉しかったが、持っているカードがニートこびとで悪い気がした。
「って水原っ!?今の2時間でどの位売ったの?」
「83袋」
残りの数が明らかに私よりも少ない。
ちーちゃんを抜かしてしまえば、私の倍売っている。
詳しい戦略を聞けば、案の定水原は腹黒いことをやっていた。
就職相談コーナー、進学相談コーナーの前で、わざとニートこびとが入ったクッキーを選んで売りさばいていた。
パンフレット片手に迷っている人(特に数人のグループ)には積極的に声をかけ、目的地までガイド。
水原はそのために学園祭の全ての企画内容、出店場所、時間等を頭に入れていた。
お礼にとクッキーお買い上げ。
混雑している出店に近寄って、売れてますね~と感心した後、はぁっと溜め息を吐く。
売れないんだなと同情した相手は、お店が盛り上がって気分が良い事もあり、お買い上げ。
知り合いの教授と会えば
「教授のゼミの研究発表、見てきましたよ。一般人にも分かりやすく、しかし内容は専門的で僕ら専攻の学生ですら楽しめる完成度の高いものでした。流石ですね」
と煽てた後、頑張ったゼミ生にお土産どうです?とクッキーを売る。
ここで最も腹黒いのは、水原が発表を見ていないところだ。
知り合いの学生に会えば、かごのこびとを抱っこしながらじっと見つめる。
彼らは秀才水原の奇妙な行動に慄いて、クッキーお買い上げ。
「水原、お前という奴は…」
「さて、行くぞ。中庭だ。お昼時は狙い目だからな」
2人体制の時は、ほぼ私は荷物持ちとなった。
水原の目には、クッキーを買ってくれそうな人を見分ける特殊機能が付いているようだ。
「良いか?人を見て売るんだ。君にも分かりやすくいくつか視点を挙げる。飲み物を持っている人を積極的に狙う。もしくは日陰を取って、まったり寛いでいる人を狙う。学園祭は1通りみたけど、まだ友達と話したいグループを狙う。飽きてぐずっている子供連れを狙う。その場合親ではなく子供を狙う。カップルの女の子を狙う。女の子が欲しいと言ったらこっちのもの、本当のターゲットは相手の男」
「狙いすぎ」
「見本を見せてやろう。ほら、あそこにいるカモ…じゃない、女の子4羽のグループに声をかける」
「………………」
水原は午後も好調子でどんどんクッキーを売りさばいていった。
予定よりも早い段階で、完売。
そのまま丸田さんの店へ行き、結果報告と明日の打ち合わせをする。
結果は上々なのに、何故か水原は不満げな表情をしている。
「売り上げ目標いっているのに、何が不満?」
丸田さんのケーキを食べながら、難しい顔をしている水原を見る。
6万2千500円。予定通りだ。
「純利益が予定よりも低い」
「あー材料費が当初よりもかかったからね」
実は売り上げの半分程度、材料費にかかっている。
この方が美味しいかも、と改良に改良を重ねた結果、拘りが生じたせいだ。
「良いじゃん。明日も完売すれば、7万近くは儲かるよ」
「3万足りないではないか」
「3万ならバイトすれば何とかなるし」
「君は俺に純利益で10万稼ぐという目標を変えろというのか?」
そんなのは恥だと言い切る水原。
水原の矜持の持ち方が良く分からない。
あの売り方のほうが恥だと思うんだけど。
「販売数を増やす。今日は250袋だから、350袋にするぞ。君は今からクッキーを焼け、材料は足りるはずだ」
「待った!待つんだ、水原。1250枚焼くのも死に物狂いだったんだけどっ!1750枚って無理だってっ!」
「丸田さん。すみません。パウンドケーキの数増やせますか?今日と同じ数だと足りないんです」
水原は丸田さんに丁寧にお願いしながら、私を厨房に押し立てる。
しかも味わって食べていた丸田さんのケーキまで横取りされた。
水原め~と思いながら、ひたすらクッキーを焼く。
昨日の経験で手馴れたお陰で、スピードは上がっている。
水原は一度家に帰り、こびとたちを増殖。
焼き上げた時は、倒れこんで茫然自失。
無になっている私の隣で水原は、焼き損じのクッキーを別の袋にせっせと詰めている。
ちょっと焦げてしまったものや、形が崩れたもの、割れてしまったものは売り物にならない。そういったものは水原が、食べてしまう。
しかし何故かそれを食べずに、袋詰めする水原。
「それどうすんの?」
「これも売るんだ。捨てこびとにだって需要はある」
「あ~…そうですか…」
もう眠くて思考がまとまらない。
火傷を負ったこびとと、怪我をして包帯を巻いているこびとが夢に出来てきた。